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室町時代ー残す
翌朝。
敦乃は井戸で水を汲んでいる。
その背後、母屋の陰で。
父が琴之に小さな包みを渡している。
父「……持っていけ」
琴之「これは……」
父「乾き飯と、少しの銭だ」
琴之「……」
父「堤防の向こうは、思っているより寒い」
琴之「……ありがとうございます」
父「帰ってこい」
その言葉が、
まだ見ぬ未来へ投げられたことを、
誰も知らなかった。
琴之「……必ず」
母は少し離れた場所から二人を見ている。
琴之が去ったあと、母が父に囁く。
母「……あの子、強いね」
父「強いから、限界まで耐える」
母「……だから――」
一拍、置いて。
母「折れずに、戻ってこられる“場所”を残す」
父は、何も言わず、ただ頷く。
母は、そっと井戸端の敦乃を見る。
敦乃は何も知らず、水桶を持って振り返る。
敦乃「お母さん、なに見てるの?」
母「……畑の雲」
敦乃も空を見上げる。
敦乃「……今日も晴れるねっ」
母は微笑む。
母「ええ。晴れるよ」
その空の下で、
誰にも知られないまま、
二人の恋は守られていた。




