室町時代ー器
夕暮れ。
敦乃の家の土間。
囲炉裏の火は落とされ、炭の残りが赤く沈んでいる。
爺は煙草を刻みながら、目を上げない。
爺「……また来たか」
琴之「はい」
爺「毎年、同じ目をしている」
琴之「変えられません」
短い沈黙。
刻んだ煙草を紙に包み、爺は指で整える。
爺「お前は、あの子を娶れる器ではない」
琴之「承知しています」
爺「なら、なぜ来る」
琴之は膝の上で、指を強く絡める。
琴之「器でなくても……
彼女を想うことだけは、やめられません」
爺「想いで家は建たん」
琴之「……はい」
爺「お前は天涯孤独だ。
堤防の動員も控えている。
明日、生きている保証のない男に――」
言葉を切る。
爺「孫は預けられん」
琴之「……それでも」
爺「それでも、なんだ」
琴之「それでも、俺は……
あの人の隣に立ちたい」
爺は初めて、真正面から琴之を見る。
爺「守れるのか」
琴之「……今は、守れません」
爺「なら、帰れ」
琴之は一拍置いてから、深く頭を下げる。
琴之「来年も、参ります」
爺「……好きにしろ」
琴之は何も言わず、静かに立ち上がる。
戸口で立ち止まり、振り返りもう一度頭を下げる。
琴之「敦乃を……よろしくお願いします」
戸が閉まる。
爺は独り、煙草に火をつけることもなく呟く。
爺「……愚直で、
だからこそ……
わしの言葉では、折れん男だ」
煙草は、火もつけられぬまま、囲炉裏の縁に置かれた。




