鎌倉時代ー未触
荒れた浜。
鉄の匂いと、血の匂い。
濡れた砂の冷たさが、
倒れ伏した体から静かに熱を奪っていく。
敦之助は、仰向けのまま息を吐いた。
浅い。
肺がうまく動かない。
遠くで波の音がする。
誰かの叫びも聞こえる気がするが、
もう意味を結ばない。
(……終わりか)
不思議と恐れはなかった。
ただ――
胸の奥に、引っかかりだけが残っている。
昔から、ずっとあったもの。
どこへ行っても消えなかった感覚。
戦に出ても、
町にいても、
眠っている時でさえ。
何かを、
探していた。
理由も知らずに。
「……俺……」
乾いた息が漏れる。
「……誰に、会いたかったんだろうな……」
視界が滲む。
空と砂の境目が崩れ、
世界がゆっくり遠ざかっていく。
その時。
視界の端に、
鎧を血に染め、倒れた影が映った。
!!
思考より先に、
体が震えた。
心臓が、
最後の力で強く打つ。
息が詰まる。
理由もなく。
間違えようもなく。
分かってしまった。
「……っ……」
腕が動く。
動くはずのない体が、
砂を掴んだ。
這う。
痛みも重さも感じない。
ただ近づかなければならなかった。
鎧に覆われた胸。
その隙間から、
赤が途切れることなく溢れている。
震える手を伸ばす。
――せめて。
ほんの一瞬でも。
だが指先に力は入らない。
血は止まらない。
胸の奥で、
長く続いていた空白が、
静かに埋まっていく。
(……ああ)
遅れて、理解が来る。
探していた。
ずっと。
顔も知らず、
名前も知らず。
それでも。
「……お前か」
声は波に溶けた。
「……やっと……見つけた……」
指先を伸ばす。
あと一寸。
それだけが届かない。
唇が、わずかに揺れる。
言葉にはならない。
敦之助は安堵したように息を吐いた。
「……次は」
かすかな笑み。
「……戦のねぇ時代が、いいな」
最後の力を指先に集める。
触れようとして――
空を掴み。
力なく、
落ちた。
波が、
静かに二人の間を洗っていった。




