第五話 配信者と裏の顔
アタシは、髙山あきら、ホーエンベルク異聞館というサイトを運営する配信者だ。
ゴスロリ姿の管理人として人気を集めているが、ぶっちゃけると趣味ではない。
だが、そちらの方が再生の伸びがいいのだから仕方がない。せちがらい配信者の常。
「ショーバイ、ショーバイ♪」
今日も黒のウイッグを被り、笑顔を振りまいてみせる。
怪奇系動画を配信しているが、アタシは微塵もその手の話を信じていなかった。
ある日、怪奇系ネットワークを流し見していると、いかにも曰く付きという情報が出てきた。
この世を歪める力を持つという要石の欠片。なんでも以前の持ち主は失踪したらしい。
少し値は張るが、手の届かないほどでもない。
このところ停滞気味だった登録者数を伸ばすネタにはなるだろうか——。
アタシはその手のマニアだけが知っている故買屋へと向かう。
そこで買い取ったその石ころは、古びたトンボ柄の巾着に入っていた。
「へえ、雰囲気あるじゃん」
そう言って『ぽっぷんきゃんでぃたこわさ味』を舌の上で転がす。
今のアタシは、ピンクに赤いメッシュ入った髪。目の痛くなるような極彩色のジャケットとパンツというスタイル。
熱心なフォロワーが見たとしても、ホーエンベルク館長、髙山あきらと気づかれることはないだろう。
「これで少しは、再生数伸びたらいいんだけどな~」
うちのチャンネル『ホーエンベルク異聞館』は、ゴスロリ管理人がウリの色物と見せかけて、取り扱う内容はハード寄りというミスマッチさで、一定の評価を得ている。今回の要石についても、怪奇マニアの間で噂になっていたもので、効果は見込めるはずだった。
「まあ、本物なわけ無いんだけどね」
いくつもの呪物、曰く付きの品を取り扱ってきたが何も変わることはない。ただ再生数と登録者数へと変わっていくだけ。
家に帰ると、配信に向けていつものゴスロリ衣装に着替えていく。
黒髪のウイッグも最初は窮屈だったが、今では違和感を感じなくなっていた。
「メイクもばっちり。パーフェクト美少女なんちゃって」
ヒヒヒ、と誰もいない部屋でひとり笑っていると、不意に背筋にぞくりとした感覚が走った。
辺りを見回す。いつもの自分の部屋のはずだが、何かが違って見えた。
この感じなんだろう? 妙なこの感じを言葉に書き出してみる『もんもんぐんぐん』。
まさか、この石ころが何かしてるというのだろうか? もし本当にそんなことがあるのだとすれば——この退屈を忘れさせてくれるかもしれない。
「らしくないな」
ワクワクしてしまっている自分を落ち着かせ、配信を開始する。
「こんばんは、ホーエンベルク異聞館。館長の髙山あきらです。今日は緊急で生配信させていたいております」
そう言って、巾着から石を取り出そうと触った時だった。先程から感じていた違和感が急激に強まり、アタシの視界は暗転した。
——何も見えない。身体の感覚もわからない。ただ、あの脈動だけが自分を侵食してくる。嗚呼、このまま消えてしまうのだという確信があった。
”イーーーーーン”
脈動を打ち消す、澄んだ音を聞いた気がした。
◇
「なにが……」
うまく声が出せない……。
「いったい何が起こったの?」
その人は、凛とした佇まいでアタシに告げた。
「あなたにはわからない。知るべきではないことです」
そう言うと、あの石が入っていたトンボ柄の巾着を手に取った。
「それ、動画で紹介しようとしてたやつ——」
「紹介できませんね。もうありません」
クールな声、気だるげな瞳。
「ひとつだけ覚えておいてください。素人が手を出してはいけない領域というものがあります」
それだけ言うと、踵を返した。
「本物に触れるのではなく、本物を知っている人間に話を聞きなさい。それが賢いやり方です」
やることは終えたとばかりに、その人は去っていく。
アタシはその後ろ姿を目に焼き付けていた。
「最推し……みっけ♪」




