第三話 スイーツと業務報告
『行きます』
えるまはメッセージを返すと、いそいそと準備をはじめる。
特大パフェ。どれくらい大きいのだろう。味は、トッピングは?
頭の中をパフェのイメージが駆け巡る。
えるまの服装は季節によって大体決まっている。
この時期は黒のタートルネックニットとダークグレーのスラックス。白いコートのポケットに音叉を忍ばせるのは決して忘れない。
出かける準備が整ったちょうど5分後、チャイムが鳴った。
「迎えに来たわよ」
インターホンから久米の声。どうやっているのか分からないが、久米はいつもジャストタイミングだ。
不思議に思うのだが、律に乱れはない。
えるまは昨日まとめておいた報告書を鞄に入れ、玄関へと向かった。
「お待たせしました。よろしくお願いします」
「報告書は出来ている?」
「はい」
「流石ね、それじゃあ行きましょう」
えるまは、久米が運転するSUVの助手席に乗り込む。広い車内は、芳香剤なのかほんのり緑の匂いがした。
ソロキャンプが趣味だと聞いたことがあるが、最近は自分と出かけてばかりで行けていないだろうなと、えるまは申し訳なく思った。
「どれくらいで着くんですか?」
「大体一時間くらいかしら。混んでなければね」
運転中は、軽い雑談だけで済ませる。
仕事の話は打ち合わせと称するスイーツ会で、というのは二人で決めた暗黙の了解だった。
お目当ては、浦安の路地裏にひっそりと佇む『Lemon』という店。
外からは目立たない作りでカフェらしくないが、一歩足を踏み入れると、内装の各所にこだわりが感じられた。
店の中にはマスターらしい初老の男性がひとり。レモンの絵がかかれた可愛らしいエプロンをしている。
「ここは店名になっているように、レモンが特徴の店なの」
久米の声を聞きつつ、えるまの目はメニュー表に釘付けとなっている。
『特大レモンパフェ』『特製レモンケーキ』『謹製レモネード』
そんなえるまの様子に、久米が微笑んだ。
「マスター、特大パフェとレモンケーキをお願い。レモネードは2つで」
「かしこまりました」
マスターの低く落ち着いた声が心地よく響いた。
「ありがとうございます」
「いいのよ。それじゃあ報告書を見せてもらえる?」
「はい」
受け取った報告書に真剣な表情で、目を通す久米。
マスターが謹製レモネードを2つ、テーブルに置いて去っていった。
氷の入ったグラスを持ち上げると、冷たさが指に伝わる。レモネードは淡い黄金色に揺れ、レモンの爽やかな香りがふわりと立つ。
一口飲むと、やわらかな酸味と控えめな甘さが舌に広がり、喉をすっと抜けていく。
「美味しい」
これは、ケーキとパフェも期待できそう。自然と頬が緩んだ。
気がつくと、こちらを見ていた久米と目があった。
「気に入ってもらえたようね」
「はい。ありがとうございます」
「それで、いくつか質問させて欲しいのだけれど」
報告書について話をしていると、特製レモンケーキがテーブルに置かれる。
えるまは早速レモンケーキを美味しそうに食べ始めた。
久米は静かに報告書へ目を落とした。




