第十七話 ゴスロリとパリ・ブレスト
『パルドン』の看板が見えてくる。えるまは腕時計を確認した。一四時ちょうど。
店の前で待っていると、程なくして見覚えのある姿が近づいてきた。
「お待たせしました!」
黒髪のウィッグに、ゴスロリの衣装。この間と、まったく同じような格好だった。
(いつも、この格好なの……?)
えるまは内心で驚いたが、口には出さなかった。配信者というのは、私生活でもそうしているものなのだろうか。よく分からない世界だった。
「入りましょう、入りましょう」
あきらに促されるまま、店内へ入る。案内された窓際の席に座ると、あきらは早速メニューを開いた。
「ここ、パリ・ブレストが名物なんですよ」
「知ってる。たまに来てるから」
「あ、そうなんですね! じゃあお墨付きってことで」
注文を済ませると、あきらはトートバッグから一冊のクリアファイルを取り出した。
「これなんですけど」
テーブルに広げられたのは、山の写真だった。緑深く、人の手があまり入っていないような険しい稜線。何枚かの紙が挟まっている。
「怪奇ネットワークに流れてきた情報です。埼玉県のとある山に、要石があるらしいって」
えるまは写真を一枚手に取った。裏には座標らしき数字と、走り書きのメモ。山の名前までは書かれていない。
「これ、どこから」
「ネットワークの情報源は言えないんですよね、ごめんなさい」
あきらは悪びれる様子もなく笑った。だが、その口ぶりには変な迷いのようなものがなかった。少なくとも、でまかせを並べている様子ではない。
「書類もあるんです」
もう一枚、今度は文字がびっしり並んだ紙が差し出される。目を通すと、山の名前は伏せられたまま、周辺の地形、過去にあった目撃情報らしき記述が並んでいた。
(律の乱れの痕跡、と言われれば納得できる書き方)
素人がでっち上げたにしては、要点を押さえすぎている。えるまはそう感じた。
「これ、前回の本物と同じ情報元なの?」
「そうです、疑わしかったら。えるまさんに持ってきません」
あきらは即答した。
パリ・ブレストが運ばれてくる。あきらは早速フォークを手に取ったが、えるまはまだ写真を見つめていた。
この山に、本当に要石があるのなら。
(師匠に、繋がるかもしれない)
どちらにしろ要石は、回収しなくてはならない。ただ、自分が先にいくことで師匠に繋がる痕跡などを見つけたいのだ。
「行く」
「ですよね!」
あきらは嬉しそうにパリ・ブレストを頬張った。えるまもフォークを手に取ると、ようやく自分の分に手をつける。
「いつ行くんですか?」
「え?」
「私もご一緒させてください!」
あきらの言葉に、えるまの手が止まった。
「これは遊びじゃない。わかってるよね?」
「はい、わかってるからこそ行きたいんです。私はあの体験を経たことで、歪み? というんですか、あれが少しは感じられるようになった気がするんです」
えるまの目つきが鋭くなった。
確かに歪みの被害者が、歪みに敏感になるというケースはある。あまりに感度が高い人の場合は、別域が雇ったりもしていたはずだ。
「それが本当なら、久米さんに相談する必要があるね」
「ええ、それが必要なら」
不満げに口を尖らせながらも、頷くあきら。
「でも、それと一緒に来ることとは関係ないよね?」
「これからも色々と情報持ってきますから! チームに入れてください!」
あきらは、両手を合わせ、頭を下げて見せる。
「わかった、伝えておく」
えるまがそう言うと、あきらは目を輝かせた。
「本当ですか!」
「久米さんの判断次第だからね」
「はい!」
あきらは両手を下ろすと、満足げにパリ・ブレストの残りへ手を伸ばす。
えるまは、ため息を漏らすと、久米へメールを送るべくスマホを取り出した。




