↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/25

第十五話 差し入れと宣戦布告

『Lemon』は以前と変わらぬ素朴さで、えるまを迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「マスター、特大パフェをお願い。あと、レモンケーキも」

「かしこまりました」

 

 席に着くと、久米が小さく息を吐いた。

 

「今回のこと、正式に抗議しておくから。あなたは何も心配しなくていいわ」

「……ありがとう」

 

 運ばれてきたレモンケーキを前に、えるまの目が少しだけ輝く。三日ぶりのまともな食事に、手が自然と伸びた。

 それを見た久米の口元が、わずかに緩む。


 テーブルの上で、久米のスマホが震えた。

 画面に浮かんだ名前を見て、久米は一瞬、息を止めた。

 

 Daphniaダフニア

 連絡が来るだろうとは思っていた。えるまの居場所も、彼女からリークがあったからこそ、分かったのだった。

 

「マスター、お手洗いをお借りします」

 

 えるまがパフェに夢中になっているのを確かめてから、久米は静かに席を立った。

 店の裏手、人気のない通路でスマホを開く。

 

『お疲れ様。差し入れだよ』

 

 メッセージに添付されていたのは、三つのファイル。蒲生敦彦、早乙女頑竹、神楽岡泰造。

 それぞれのファイル名には、査問官の名前がつけられていた。

 開いた瞬間、久米は眉をひそめた。裏帳簿らしき数字の羅列、私的な会食の記録、表には出せない取引先とのやり取り。どれも、公になれば調律院での立場を揺るがすに十分な内容だった。

 

 前回の身代わり地蔵の情報も正しかった。このダフニアという人物の情報はあてになる。

 久米は思考を巡らせる。


 これであの三人は黙らせることができるだろう。だが、恐らくその後ろに誰かがいるはず。まだまだ油断は出来ない。正式な方法で、えるまを保護しなくてはならない。

 

 ただ、不幸中の幸いだったのは、ダフニアは単なる情報屋ではないというのが明らかになった事だ。彼女は確実に怒っている。えるまを不当に軟禁したことについて。今のところ、えるまの味方だと考えてもいいだろう。久米は画面を閉じ、小さく息を吐いた。

 

 手の中で再びスマホが振動した。


「狭山透……律世会?」


 メールには、律世会の組織図と、狭山透という人物についてのプロファイルが送られてきていた。そいつが今回のリーク騒動の実行犯。

 おそらく黒幕は、教祖の雨宮紫苑。トップ層の正体は破音であると書かれていた。


 律世会については、たまに名前を聞く新興宗教というイメージしかなかったが、本当だとすると、この情報は安易に扱うことは出来ない。別域の誰か信用出来る人に相談する必要がある。


「とんでもない爆弾を放り込んでくれたわね……」


 ダフニアはとことんやるつもりらしい。私がいつまでも手をこまねいていれば、もっと過激な手段を取る可能性も考えられる。


「いいわ、やってやろうじゃない」


 スマホを握りしめる手に再び振動。


 今度は何?


『新発売のレモンタルトもおすすめ』

 

「フフッ……」

 

 戦うとなったらまずは腹ごしらえだ。

 久米は店内へ戻ると、何事もなかったかのように、えるまの向かいに腰を下ろす。

 

「お待たせ。レモンタルトが新しく出たらしいわ、もう少し食べられる?」

「うん」

「マスター、レモンタルト2つください」

 

 えるまが屈託なく微笑む。その顔を見ながら、久米はスマホをそっとバッグの奥へしまい込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。