マーナガルムは月を食む。
私はきっと見誤っていたのだと思います。
マーニ様はか弱いだけの生き物ではなかった。
自分の弱さを見つめ続けて、それを強さに変えることもできる人だったのだと思い知らされました。
弱いからこそ強い。そんな強さのあり方もあったのだと私は知ったのです。
そんな貴方にお仕えすることができて、私は幸せです。
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今宵もお花摘みが始まる。
夜の眠る街を練り歩けば、すぐに釣り餌に魚はかかった。
追跡者だ。各々それぞれ得物を構えている。私も剣を抜く。
けれど、以前とは違う。
後ろにマーニ様が控えてくださっているのだ。
「ごめんね。これまでずっと一人で戦わせて。しがらみを断ち切るのなら、本当は僕が自分で断ち切らなきゃいけなかった」
私に申し訳なさそうに顔を曇らせて謝るけれど、マーニ様に悪いところなんてない、のに。
むしろ共に戦場に降り立たせてしまって、私の方が申し訳ない。
「怖いのでしたら目を伏せていてもよいのですよ」
追跡者たちと対峙したまま、意識だけを後ろに送り提案する。
マーニ様は心優しい。
自分や私の命を狙う刺客であっても、死ぬ姿を見ればきっと傷ついてしまわれる。
できるのであれば、そのお目を汚したくはなかった。
けれど、マーニ様は首を横に振ってそれをヨシとはしない。
「ううん、君が戦うところ僕だけは目を逸らしちゃダメなんだと思う。一緒に戦う事ができないのなら、せめて守られる者としての責務を果たすよ」
そして、マーニ様は真っ直ぐに前を見据える。
虚弱なはずのマーニ様には似つかわしくないほど、意思のこもった眼だった。
まさしくこの国を背負うべき正統王位継承者に相応しい気高さだ。革命派どもがマーニ様を欲しがるのもしょうがないことなのかもしれない。
けれど、マーニ様は革命なぞ望まない。誰の血であっても流れることを厭う人なのだから。それでも、マーニ様は私と共に戦場に立ち自分の運命と抗うと決心なさった。
そのことにより私は迎え撃つだけでなく、こちらから打って出ることができるようになった。これまではマーニ様の安否のため屋敷から遠く離れることが叶わなかった。けれど、共に戦場に立ってくださるのであれば、こちらから積極的に貴族を襲撃できる。以前の意味もないのにノコノコ私の前に現れ殺されたバカ貴族とは、マーニ様は違うのだ。
さて、今宵はその第一歩だ。
この追跡者共を蹴散らし、まずは革命派共の首をもらう。
そして、革命派共の首を持って現公爵共への手土産とし、交渉の場を設ける。
だが、それはついでだ。
革命を未然に防ぐための戦の火蓋を切ることにマーニ様は決めたのだ。
マーニ様は、今宵のお花摘みに出陣する前にこう仰った。
『今のこの国は平和だ。革命なんて起こしちゃいけない。ハティ、力を貸して欲しい。もしも僕が本当にこの国の王の血筋であるとするのならば、僕がやるべきことはこの国を守ることだ』
領民を革命の火から守るため、そして何より自らの運命にケリをつけるために。
マーニ様は、覚悟を決めた。
「傷つけたくないなんて、自分が傷つきたくないだけの我儘なんだ。生きていたら絶対に誰かしらを傷つけるんだ。僕はもうそれから逃げない」
傷つけること、それと共に傷つくことにも覚悟を終えたマーニ様の意思は、これから先きっと揺らぐことなどないのだろう。
「だから、もう目を逸らさない」
ただただ真っ直ぐに自分の運命を見据える。
それは武力とはまた違う、マーニ様だけの強さだった。
ならば、私もマーニ様の騎士として準じてみせる。
「貴方が私の背中を見ていてくださるのであれば、カッコ悪いところを見せるわけにはいきませんね」
私は剣を顔の横に構え切先を相手に向ける──雄牛の構えを取って追跡者たちへと対峙する。
公爵家の者たちか、それともマーニ様を祭り上げたい革命派か。
どちらにしたって構わない。どちらもマーニ様の敵だ。
やることはこれまでのお花摘みと同じ、けれど、以前とは全く異なる心境でした。
もう何も憂わない。
マーニ様が私を許すだけでなく私の罪悪すらも抱きしめてくださるというのなら、私は迷わず世界だって滅ぼせる。
私は、一歩強く踏み出した。
剣が月光に輝いて、今宵もお花摘みが始まる。
空に浮かぶ月だけが、私とマーニ様のその行く末を静かに見守ってくれていた。
次回予告
マーニ・コルネリウスは自身の名がコーレリア大公国の成り立ちに関係することを知り、銀狼の騎士ハティと共に、革命を起こそうと目論む貴族達との戦いに打って出る。
一方、その頃、コーレリア大公国現君主スケラ大公は事態を重く見、ある騎士を呼びつけるのだった。
コーレリアの名を巡る物語、中編ライバル登場回です。




