最終決戦②
なにがきっかけだったろうか。
風がお互いの間を通り抜けていったことだろうか。それとも、雲間から月がその姿を現し視界が明るくなったからだろうか。
それは、唐突に始まった。
けたたましい金属音と共に無数の火花が宙で散った。
最初から全力でお互いに武器を打ち合う。おそらく後ろのマーニ様には目視で追いきれないほどの神速の攻防。
無数の剣撃と槍撃が炸裂し、お互いの武器がお互いの攻撃を相殺していく。
本来の得物である槍というだけあって、以前とは別物。
強い。
更には、純粋に戦うのなら槍と剣では剣はリーチの差の分だけ分が悪い。
だが、これは殺し合いだ。
殺し合いで騙し合いなら負ける気はない。
なにより、マーニ様の前で負けるわけにはいかないのだから!
騙し討ちは以前効かなかったからと最初から出していた殺気に、私は少し工夫をする。
それはある種のベクトルを持って、オーディールに届いた。
オーディールは咄嗟に槍の柄でもって防御するが、そちらには殺気を送っただけで私を剣を振っていない。
「──っ! 殺気で?!」
オーディールが驚愕する中、私は容赦なく真反対から剣を振るう。
その刃がその身を切り裂こうとする直前、ガントレットで弾かれる。
流石に【王国騎士団】の団長なだけはある。簡単には倒させてはくれない。
だが、今の技はオーディールにも通用することがわかった。
【幻視の一振り】。
圧縮した指向性を持たせた殺意で、攻撃を振られたと錯覚させる。
防御を空振りさせる技だ。
達人というのは得てして恐怖というものを五感とは別に皮膚感覚として組み込んでいる。そうした恐怖を媒介にした感覚というのは、殺気を敏感に感じ取る。だからこそ、攻撃に先手を打って対処ができるものなのですが、私の技はその感覚器官の誤作動を誘発させる。
達人であればあるほど、その感覚を常駐させ無視することができない。
【幻視の一振り】は、そうした達人殺しに特化した技でした。
そして、これで終わりではない。
もう出し惜しみはしない。
圧縮した殺気を放出しながら、殺気を隠す。
【幻視の一振り】。【無拍子】。
同時併用。それこそが、【無拍子】の真骨頂でした。
【無拍子】のことを【魔術師の手】とオーディールは評していましたが、まさにその通り。
魔術師が右手を挙げたときには左手に手品のタネがある。
なら、その右手を無視できないほどより視界いっぱいに映したら?
もしくは東の異境の偶像のように多くの手の中に左手を紛れ込ませてしまったら?
いくら【無拍子】を【魔術師の手】と看破したオーディールと言えども、無数の剣撃の中では見極めることなどできる訳もない。
「ぐっ……!」
以前と同じように咄嗟の防御判断で、オーディールは後ろに飛び退こうとする。
だが、逃がさない。投げナイフを投げ、槍で弾かせてる隙に距離を詰める。
槍と剣。
リーチに差がある以上、距離を取らせてしまうことは=死に繋がる。
なんとしても、インファイトに持ち込むしか私に勝ちの目はありません。
インファイトにさえ持ち込んでしまえば、向こうは【幻視の一振り】、【無拍子】に対応せざるを得なくなる。
「っとに! ちょこざいな技ばかり!」
オーディールは悪態を吐きながら、防御に精一杯のようでした。
殺気を隠す【無拍子】と攻撃を誤認させる【幻視の一振り】を織り交ぜながら、本来の手数以上の手数で持って圧倒する。
どれが本命の攻撃かを分からせないままに、ただ暴力的なまでの物量を叩きつける。
しかし。
だが、押し切れない。
いつまで経っても目の前の男が倒れる気配がない。
おかしい。普通ならば、もう勝負がついているはず。
私が訝しんでいると、「フッ」と笑い声が聞こえました。
勿論、それは目の前の男からで。
ヘルムで見えないが、オーディールはほくそ笑んでみせたのです。
「要は、こんなのは全部弾けばいいだけだろうが!!」
そして、オーディールは私の【無拍子】──本命の一撃を受け止めた。
出鱈目だ。
攻撃も、殺気も、殺気のない死角の一撃も。
その全てをオーディールは弾いている。
見極めることができないのなら全部に対処すればいい。
そんな強引な解決方法を、オーディールは私に叩きつけていた。
無茶苦茶だ。
決して、全てを防ぎ切れてはいない。
オーディールはもうすでに数多の切り傷を負っている。
だが、急所は外されている。
対応されている。
オーディールは真正面から私の全てをねじ伏せようとしているのでした。
これが、コーレリア大公国最強の男……!
私が戦慄していると、鼻先を槍の穂先が掠めて──。
「っ!」
危ういところで躱しましたが、それで終わりではありませんでした。
徐々に反撃が増えていく。私の体に切り傷が増えていく。
どうやら慣れ始められていました。
そして、私はもう全ての手札を使い切ってしまっていた。
このままでは、負けるのは私の方。
着実に追い詰められていくのが、私には分かっていました。
ならば。
こうなったら、差し違えてでも──。
そこまで考えて。
ふと、父の言っていたことを思い出しました。




