銀狼 VS 灰狼②
「来ないなら、こちらから行くぞ」
先んじて動いたのは、向こうでした。
流れるように連撃を撃ち込まれる。剣閃が煌めいたと思えば、命を刈り取る一刃がすでに届いている。それを私は咄嗟の判断でいなしていく。
剣の一撃、一撃がひたすらに早く、重い。
私は防戦一方でした。
ですが、化かし合いなら負ける気はない。
これは決闘ではなく、殺し合いなのだから。
剣撃を撃ち合いながら、私は足で地面を蹴り上げる。
砂での目潰しにあちらが咄嗟に顔を腕で庇い立てた瞬間、姿勢を落とし片腕を軸に脛に向かって蹴りを叩き込む!
「ぐぅっ」
うめき声を上げるオーディールの足からミシミシミシミシという骨が軋む感触が蹴り込んだ足に伝わってくる。効いてる。
手──足応えを感じながら、私は追撃を狙う。
寝転びながら、股間に向かって容赦なく剣を振り上げる。
大抵の場合、騎士というのは低姿勢からの攻撃には慣れていない。そして、下から剣を振り上げられるのにも。
剣技に自分の膝下の相手に対する技なんてものはない。
そんなものを騎士は想定などしない。
──捉えた!
だが、剣の一撃が打ち据える前にオーディールは飛び退いた。
私の蹴りが響いているのか騎士団長はよろめいてはいる。
けれど、【無拍子】を弾かれた私のように咄嗟の回避判断で急場を凌いだようでした。
互角。
咄嗟の回避判断を下せるのも、同じ。
私も地面を転げるようにして距離を取って、片膝を突く体勢に戻り立ち上がる。
簡単に倒せる相手ではないと、お互いに分かっていた。
「騎士道もへったくれもないな」
オーディールは軽口を叩く。
確かに、騎士らしくはない。
けれど、
「マーニ様をお守りする為ならば、いくらこの騎士服を土埃まみれにしたって構いません」
「それが貴様の騎士道か。それもよかろう」
騎士団長がマーニ様を一瞥するものですから、私はマーニ様を庇うように横にずれる。
幸い、足に手傷を負わせられた今ならおそらく逃げられる。
だが、こちらの顔を見られた以上始末しないわけには……。
私が状況を考慮していると、オーディールは私に剣ではなく手を向けた。
「銀狼……、お前もしや王の騎士の末裔か」
「ああ、博識ですね」
どうやら、ようやく向こうもこちらの経歴を察したようでした。
向こうが【アマビリス王国騎士団】を名乗っている以上、こちらはとっくに向こうが何者か悟っていたのですけれどね。
王が遺した王直属の騎士団。その団長。
つまり、このコーレリアにおいて最強の男であるということ。
「国興しの英傑の血ならば、いろいろ得心行く。歴史の亡霊よ」
歴史の亡霊。
確かに、私たち【アマビリスの狼血】はコルネリウスが王の血族である事実と共に、歴史の闇に葬られたのだから言い得て妙なのですが。
「別に好きで亡霊をしてるわけじゃあないんですよ」
それぐらいは、文句を言っていいはずでした。
闇に葬り去られたのならば、葬り去られたままいられたならよかった。
けれど、そうはならなかった。
コルネリウスの者を王に担ぎ出そうとするものが現れた。
まさしく、王の墓所を掘り起こすような所業でした。
「革命派どもの墓荒らしさえいなければ、こんなことしなくて済んだんです」
「ああ……、なるほどな。全くだ」
「王権を乗っ取られても別によかったんですよ、王もきっとね」
マーニ様を見ていれば分かる。
きっと、王は優しかったのだ。
だから、アマビリスも付き従ったのだろう。
「民さえ幸せでいてくれるなら、自らが歴史の闇に葬り去られたとしても」
だというのに。
私の言葉にオーディールも頷いた。
「お互い望まぬ戦いだな」
「ええ、本当に」
どうやらオーディールは比較的話がわかる男のようでした。
「見逃してはいただけません?」
一応、ダメ元で口にするだけ口にしてみる。
オーディールはじっと考え込んでから、やがて口を開いた。
「お前たちの立場も大体今のでわかった。そして、これまで自らの手で元凶を刈り取ってきた。なるほど、筋は通るな。刑吏がお前たちをこれまで捕まえなかった理由も」
「ええ」
刑吏が私たちを捕らえなかったのは、公爵どもが私たちに革命派共を始末させ共倒れをして欲しいから圧力をかけていたのだ。
そこまで分かっていながら、けれど、私のほんのひと匙ほどの期待を裏切ってオーディールは首を振る。
「だが──、もう遅い。一度、生まれた疑念は晴れることはないだろう。現体制を起点から揺るがすものを公爵共が見逃してくれるわけもない」
「でしょうね」
伯爵が言っていたように、この国がコーレリアである限り分断と憎しみは生まれ続ける。
そして、分断と憎しみが生まれ続ける限り、コルネリウスの者は身勝手な大義を押しつけられる。犠牲を強いられるのだ。
────ならば、やることは決まっている。
マーニ様のためならば、こんな世界滅ぼしてやる。
私は殺気を全身に身に纏う。
【無拍子】が通じなかったのだからもう殺気を隠す必要はない。
殺気を隠すことで相手の調子を崩せるのなら、殺気を出すことでも相手の調子を崩すことはできる。
まだ切り札はある。
私の全身から殺気が吹き出したのを見て、オーディールは納得したように頷いた。
「そして、お前は全てを殺すつもりなのだろう? 歴史を知る者を」
「ええ、勿論」
「なら、この国のためお前を生かすわけにはいかない」
そして、再度、オーディールは剣の切先を私に向ける。
どうやら会話は終わりのようでした。
私たちは殺し合いを再開しようと、身構えた。
ですが──。




