手がかりを追って。④
元コルネリウス領に着く頃には、陽がすっかり暮れていた。
聖堂を中心とした教区は、夜は静けさを纏っている。
この区画は領主不在の地だ。
コルネリウスの子息が継いで、継いだ途端に手放した。
いまはスケラ大公の管轄になっている。
ということを、二人は頭に入れていた。
「もうすっかり夜だな」
「出直した方がいいですかね」
「いや、事件は夜に起きているんだ。都合がいい」
ややもして、件の容疑者の屋敷に辿り着く。
小さな屋敷ではあるが、きちんと塀があり有刺鉄線が張り巡らされている。元公爵の家らしく、防御は万全だ。
唯一の出入り口である門扉にはしっかりと閂が降りている。
金属のノッカー(※現代における呼び鈴のようなもの)を鳴らしても誰も出ない。
「お留守ですかね」
誰も出てこないために、ミミングウェイは困り果てている。
このままでは話も聞けないし、なにも捜査に進展がない。
ならば、このお嬢さんのような良識的なやり方とは別のやり口を取らせてもらう。
この場合、オーディールはどうするかをとっくに決めていた。
「下がっていろ、門を蹴破る」
「え? まだ本当に犯人かどうかは──」
「確かめた後に、違ければ謝罪して弁償すればいい」
そう言うや否や、オーディールは体重をかけて蹴りを叩き込む。ミミングウェイが止める間もなかった。
凄まじい衝撃音が立っては蹴りが門扉にめり込んだ。
鎹がどこかへ吹っ飛んで、ひしゃげた門扉が支えを失って倒れて、大きな物音を立てる。
堪らず、ミミングウェイは非難の声を上げた。
「貴方って乱暴な人ですね!」
「騎士など、ただの暴力装置だ」
「それはそうですが!」
身も蓋もないことを言うオーディールには、ミミングウェイの文句もどこ吹く風で、気にせず門扉に続けて玄関の扉を蹴り破る。
破壊音が鳴り響いて、二つの扉はあっという間に破られた。
もうミミングウェイは何も言わなかった。
「後ろについて来い」
有無を言わさぬ物言いに困った顔をしながらもこのままでいてもしょうがないと思ったのか、恐る恐るミミングウェイもオーディールに言われるがまま中に足を踏み入れる。
「やっぱりいないみたい、ですね」
屋敷の中に人の気配はなかった。シンと静まり返っている。
外の星明かりを頼りに薄暗い屋敷の中に目を凝らせば。
元公爵が引っ越してきた家だというのに、質素な暮らしぶりなことが伺える。テーブルの上にランプ。ソファやクローゼット。
生活に必要なものは一通り揃ってはいるが、それ以上はない。
暗い部屋を見回しながら、オーディールは考えていた。
家を空けている、こんな夜更けに?
警戒しながら、二階、三階と部屋を確認していく。
やはり、誰もいない。
一階に戻り、再度部屋の中を見渡す。
ミミングウェイが、リビングの卓上ランプに目をつけた。
ランプのガラス部分に手を当てる。
「ランプ、まだかなり温かいです」
それが意味することは、つまり。
「さっきまで家にいた?」
「ええ、きっと」
と話していると、ギィーっと扉が開く音。
それは裏口の扉だった。
さっきは開いていなかったように、オーディールは記憶していた。
鍵を開錠したりドアノブを動かしたような音は聞かなかった。
どうやら締まりきっておらず、風で開いたのらしい。
表と裏の扉が開け放たれ、外の星明かりの微かな光が部屋に差し込む。月は陰っているのか、そこまで明るくはならない。
「裏口が開いている」
となれば、裏口の扉を使って誰かが出て行った。
それも、鍵をかけて閉じる暇もなく、慌てて。
オーディールは、そこまで考えて結論を急いだ。
「門扉を蹴り破った段階で察されて裏口から逃げられたか。このまま逃げられては面倒だ。追うぞ」
そのまま出て行こうとする。
「いえ、待ってください」
けれど、ミミングウェイは引き留める。
「ランプがあったかいんですよ」
「つまり?」
それはさっき聞いた。
本当に結論を話さない奴らだなと思いながら、オーディールは先を促した。もはや慣れ始めていた。
「だからですね。遠くまでは行ってないはずです。けど、私たちは誰かが出て行く物音や走っていく音を聞いていませんよね?」
「ああ」
「意外と私たちがやってきて焦って身を隠しているのかも! 裏口が開いてるのも裏口から出たと思わせたいからで、例えばこことか──なんて、え?」
ミミングウェイが思考を喋りながらたまたますぐ近くにあったクローゼットに手をかけ開くと、──そこに、いた。
クローゼットに体を押し込むようにして、何者かが二人。息を潜めていた。
オーディールはヘルムの下で、呆れてあんぐりと口を開けてしまう。
失せ物探しが得意と言っていたが、こういうことか!
だが、そんなことを言っている場合ではない。
まさか本当にいるとは思っていなくて、ミミングウェイは固まってしまっている。
オーディールがマズいと思う中、クローゼットの中にいた一人がゆらりと動き出した。
「馬鹿! 呆けてないで下がれ!」
「きゃっ」
オーディールは咄嗟に剣を抜き、クローゼットの前で固まってしまったミミングウェイを後ろに押し退けた次の瞬間──。
火花が散った。
剣と剣が強くかち合う。
すると、雲間が切れたのか、室内に月明かりが強く差し込んだ。
強襲者の姿があらわになった。
月明かりを帯びて毛先を青白く光らせる美しい銀狼。
月の化身のような存在が、殺気を込めて剣を握っていた。
「まさかこんなにすぐに見つかるとは思ってもいませんでした」
「ハティ!」
強襲者の後ろからもう一人がクローゼットから出てくる。
その人間に向かって、銀狼の騎士は視線を送り頷いた。
「マーニ様、下がっていてください。即刻排除します」
クローゼットの中にいた銀狼の騎士──ハティは視線を戻すと、オーディールに切り掛かるのだった。
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──
こいつがきっと一連の事件の襲撃者!
ならば、この剣にかけて、なんとしても俺がこの場で捕まえなければ。
この国のために!




