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コーレリア物語 〜公爵の爵位を返還した僕だけど、最強の銀狼の騎士が一緒にいるから平気です!!〜  作者: 世鷹イチゾウ
破 実は正統王位継承者だった僕が銀狼の騎士と共に運命に抗う話
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手がかりを追って。②

 無事に宿を取り、二人は部屋に通される。

 安宿らしく、簡易的なベッドと備え付けの椅子や丸テーブルだけの部屋だ。実際に泊まるわけではないので、十分だった。

 部屋を借りる途中、騎士と女が昼間から部屋を一室取ったものだから宿屋兼酒場のマスターから『お盛んねえ』といった下卑た視線を不躾に送られた。が。

 オーディールは、ヘルムの下で殺気を込めて睨みつけた。

 睨みつけられたマスターはと言えば、急に向けられた殺気にビクリと体を揺らして縮こまっていた。

 失礼な態度が止んだのを確認できて、オーディールは殺気を緩めた。

 オーディールは、自分はどう思われようとどうでもいい。

 ただミミングウェイの名誉のためにそうした。

 当の本人は、何も気づいていないようだったが。


「先に座れ」


 オーディールがベッドと椅子どちらかに腰掛けろと促すと、「じゃあ──」と、ミミングウェイはベッドにふわりと腰掛けた。

 それを見届けたオーディールは、テーブルを引き寄せ開いた方の椅子にドカっと座る。

 これで、場は整った。


「話してくれ、いまは少しでも情報が欲しい」

「何から喋ればいいんでしょうね」


 困ったように愛想笑いを溢しながらも、そう前置きをしてミミングウェイは滔々と自らの身の上話を喋り始めた。


「私たちミミングウェイの一族は公爵のものです。いわゆる、学問や政令、諜報。そういったことに精通した一族です。最近だと戯曲集や国史の編纂とかもやっていたりしますね」


 黙って聞き入りながら、オーディールは頷く。

 ミミングウェイが知の名家である事は、知るところだ。


「それだけならよいのですけれど、ミミングウェイの者も腐っても公爵の者ですから政争と無縁というわけではありません。

 あれは、私が国選戯曲集に載せる戯曲を吟味していた夜のことでした。


 ────────

 ────

 ──

 

 先ほども言ったように戯曲集の吟味をしていたものですから。ミミングウェイ公爵家の自室で籠っていたんです。

 お恥ずかしい話、作業に熱中してしまいますと周りが見えなくなってしまう性でして。夢中になって戯曲を読みあさっていれば、気づけばもう夜遅くになってしまっていました。

 とは言え、これも立派な公務ですし、もう少しで大体の目処が立ちそうだったんです。だからやり切ってしまおう、と思いました。

 でも、その前に、一旦。

 気分転換に屋敷の中を歩いてから公務の続きをしようと思い、部屋を出たんです。

 すると、館の一室、父の部屋から明かりが煌々とドアの隙間から漏れ出しているのに気づいたんです。

 ああ、父も私と同じように公務に夢中になっているのだなと、その時は思いました。

 けど? ええ、そうですね。()()そうじゃなかったんです。

 私は、耳にしてしまったんです。


「いくら雇ったものが死のうと構わんよ。どうせ荒くれの国家に住み着くダニやノミのようなものなのだからな。続けろ」

「はい、かしこまりました」


 私は耳を疑いました。

 いつも私に対して温厚な父が、そんな物言いをするなんて。

 耳に飛び込んできたその物騒な会話に、ショックで私はつい呟いてしまったんです。


「お父様……?」


 それが中にいる父に聞こえたのか。

 私は、扉越しに問いかけられました。


「リリィ、そこにいるのかい?」


 正直、怖かったです。

 こういう時って、口封じに殺されたりするのがお約束じゃないですか。……え、そういうものなのかって? オーディールさんは劇とか見ないんですか? ああ、そうなんですね。そういうものなんですよ。

 ……どこまで話しましたっけ? ああ、そうでしたそうでした。父に問いかけられたんでしたね。

 黙っているわけにもいきませんから、私は素直に応えました。


「……はい」

「入っておいで」


 すると、執事長が扉を開けて中へ出迎えられたんです。

 執事長は私が幼い頃からも知っているお爺ちゃんで、でもいつもすごいピシッとしてるしっかりした人でした。

 父の部屋にいたのは、二人だけのようでした。

 その二人がさっきの物騒な会話をしていたんです。

 中に入った私の後ろで執事長が扉を閉めて、ああ、本当にこれが劇だったなら本格的にまずそうだなぁって私は怯えてました。

 いや、こうやって話してるので大丈夫だったんですけれどね。

 そんな私に父が問いかけます。


「どこまで聞こえていたんだい?」


 本当にますますそれっぽく言うものですから、私は戦々恐々としながら、でも、確かめないわけにもいきませんでした。


「雇ったものが死のうと構わない、と」

「ああ……」


 父は深く息を漏らしながら目を閉じて考え込むと、私の両肩に手を置きました。


「リリィ、どうか聞かなかったことにしてくれるね」


 父は言い聞かせるように、肩を強く抱いて言いました。

 でも。


「それは……、できません」


 私は、首を横に振りました。

 いやだって、正直、無理ですよ。

 あんなこと聞いてしまったら。


「リリィ!」


 父は強く私の名を呼びつけますが、私も私で強く言い返しました。


「だって、どう考えたってよくないことじゃありませんか!」


 そうでしょう? 誰かの命をまるで虫ケラのように扱うようなことを、こんな夜更けに執事長に命じてるなんて。


「必要なことなんだよ」


 父の返答は、何の返答にもなっていませんでした。

 だから、私もしゃにむになって問いただしました。


「必要なことって、どういうことですか!」

「分かってくれ……、リリィ」


 このままでは、埒があきません。

 なので、私は次に執事長に言いつけたんです。


「執事長、この私が命じます。何を父と話していたのか話しなさい」


 ですが、執事長はブルブルと震えるばかりで私の命に応えようとはしてくれませんでした。


「お嬢様、それは困ります。どうか、ご勘弁を」

「リリィ、爺やを困らせるのはやめなさい」


 そして、父は執事長に助け舟を出して庇い立てるんです。

 実の娘には、何も教えてくれないのに……。

 それもあって、私はさらにムキになりました。


「なら、お父様が話してください! 雇ったものが死のうと構わないとは、どういうことですか! 何を執事長にさせているんですか!」


 けれど、私の必死の訴えは父には届きませんでした。


「大事なことなんだよ、私の愛しいリリィ……」


 誤魔化すように、父は私のことをギュッと抱きしめました。

 そして何度も何度も同じことを繰り返し、言い聞かせてくるんです。

 流石に、私ももう何も言えませんでした。

 そうされてしまっては、娘としてはもう何も言えなかったんです。


「いいんだリリィ。お前は何も知らなくていいんだよ……」

 

 ついぞ私に、父は何も教えてはくれませんでした。

 そして、父の言っていたことから最近の一連の殺人事件に父が関わっていることに私はすぐに気づきました。

 その後、それから地方領主たち──それもどうやら革命派と呼ばれる方々が襲撃され、命を落とす事件が続いて。

 何か良くないことがこの国で起きていることは確かでした。

 そして、間違いなく、父は何かを知っているんです。

 

 ──

 ────

 ────────


 ですから、私はミミングウェイ公爵家の者として、真実を知らなければいけないんです」

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