城館攻略戦③
マーニ様から私が十分離れたと見るや否や、銃撃が開始される。
どうやら狙撃兵たちが使っているのは、マスケット銃のようでした。
マスケット銃の銃撃を玄関ホールをジグザグに走り回っては避ける。
マスケット銃は一発撃つごとに弾を込め直さなければならない。
だから、一発撃ったその直後がまさに絶好の反撃の機会でした。
銃撃を終え物陰に隠れられる前に、袖から手のひらに投げナイフをシャッと滑り落とし横っ飛びをしながらそのまま投函する。
投げナイフは過たず、吸い込まれるように狙撃兵の額へとトスという音を立てて深々と突き刺さった。
そのまま狙撃兵の一人は糸が切れた人形のように微動だにしないまま物陰へとゆっくり倒れ見えなくなる。
まあ、即死でしょうね。
まずは一人、次。
横っ飛びをしながらグルリと前転し、動き続ける。
動きを止めてはいけない。単調に動いてもいけない。規則性を持ってもいけない。
「ハティ、十時の方向!」
「!」
マーニ様の声で指示された方向を見れば、こちらを狙おうとする狙撃兵が手すりの影から顔を出したところでした。
これなら、こちらの方が早い!
私は走り回りながら、そのまま投げナイフを放る。
過たず、ナイフは目標を貫いた。
これで、もう一人。
私が走りながらマーニ様に視線を送ると、マーニ様は頷いた。
「僕が君の目になる!」
入ってきた扉のすぐ近くに立ったまま、マーニ様は青い目を光らせている。
マーニ様はちょうど引いた場所から館の全容を見渡すことができ、そして、狙われることがない。
悠々と私に指示を送ることができるのでした。
狙撃を掻い潜りながら走り回り、どうしても視野が狭まる私にとってマーニ様の指示はとてもありがたいものでした。
それに自分の仕える敬愛すべき主君が、自ずから指示を出してくれる。
それだけで百人力というもの。
「ハティ! 両翼から狙われてる!」
マーニ様の指示を信じ、宙返りをしながら両手でナイフを放る。
私がさっきまでいた箇所で絨毯が爆ぜて、そこに向けて銃弾を放った射手二人の額にナイフが突き刺さる。
これでもう二人、次。
一人。また一人。
それからも狙撃兵をナイフの投函でもって屠っていくのでした。
「マーニ様……! くっ、何をしておる! 相手は一人なのだぞ! さっさと倒さんか!」
伯爵は芳しくない戦況に狼狽した声をあげて、手すりに身を乗り出して喚き散らす。
……投げナイフで狙ってやってもいいが、どうせ戦局に関わらない。
それどころか、マーニ様と違って無茶な指示を出すばかり。
敵方の士気を下げてくれるでしょう。今は生かしておく。
それと、私にはマーニ様がいるのだ。
「いいえ、一人などでは決してありません」
一言だけ言い返し、また一人屠る。
その後も──、
「ハティ、今度は四時の方向!」
「気をつけて、六時から狙われてる!」
「ハティこれで最後、真正面!」
そうこうして。
最終的に、十数人ほどだったでしょうか。
私は傷一つ負うこともなく、全ての狙撃兵を平らげたのです。
「そんな……」
狙撃兵を全滅させられて、伯爵は打ちひしがれている。
まさか、向こうからすればたった一人に全滅させられるとは思ってもいなかったのでしょう。
ただまあ、おそらく急造の部隊でした。
連携が取れていなかった。そんなものにマーニ様の助力を受けた私が負けるはずもありません。
狙撃兵の練度が高ければ、味方が弾を込め直している間に他の味方が銃を撃ちカバーできたでしょうが……。
そんな様子はなく、前もってバカ息子が率いる騎士団のほとんどを殺害していたので、練度の低いものを寄せ集めるしかなかったのでしょう。
さて。
敵はまだ残っている。
階段中腹。踊り場のバスタードソードに手をかけた、鎧の男だ。
鎧の男は一切手出しをしてくることはなかった。
射線に入り誤射されることを嫌ったのか。
もしくは別の思惑でもあったのか。
一切微動だにしないその男は、ずっと異様でした。
警戒はしていたのですが、ついぞ動くことはなかった。
────これまでは。




