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「これは……」
五階は魔導生物が大量にいた。
目玉の魔導生物はおらず、全て人型だった。何かを運搬している。どうやら戦闘用ではないようだ。
「侵入者!! 侵入者!!」
次の瞬間、大声が鳴り響く。魔導生物の声だ。大きな頭、小さな体の二頭身の魔導生物だ。口を大きく開けて、叫んでいる。リオンは急いで声を発した魔導生物に魔法を放ち、破壊した。
しかし、遅かったようで、剣を持った戦闘用の魔導生物がどんどん集まってくる。百体はいそうだと、リオンは推測した。
(こいつらは見たことある。魔導剣士と言ったか。……前に見たやつより強化されてそうだな)
魔導剣士は、その名の通り剣を武器にして戦う。広く普及している魔導生物で、各国が護衛や戦闘などに用いている。
ここにいる魔導剣士は一般的に使われている魔導剣士より、装備している剣や防具が強い。さらに、動きも早くスペックも高かった。
(それでも敵ではない……がな)
リオンはそう思い、魔法を使用する。
「闇矢」
真っ黒い矢が大量に放たれる。魔導剣士の頭を貫いていく。
一撃で確実に仕留めていく。矢を外すことなく、全ての魔導剣士の頭を貫いた。
魔導剣士の残骸が床に散らばる。
倒した後、またすぐに他の魔導剣士が来たので同じく闇矢を放ち、破壊していく。
続々とやってくるが全て倒していく。しばらく倒し続けると、もう来なくなった。
リオンは探索を再開する。
魔導生物に出くわすが、人がいない。
(誰もいないな。魔導生物がこれだけ大量にいるということは、グランツェの研究所ではあるのだろうが……少人数で運営しているのか?)
リオンはそう予想した。
魔導生物の開発は、複数のチームで行うことがほとんどだが、有能な人物が一人でやることも稀にある。魔導生物をうまく使えば、労働力は確保できるため、一人でも開発しようと思えばすることができた。
人間が少ないとなると、情報を調べるのに時間がかかる。研究所にある資料を探して読むより、研究員から情報を聞き出す方が早かった。
人に強制的に話をさせる魔法も、リオンは習得していた。
捜索を続けると、大きな扉の前に到着した。
躊躇なくリオンは扉を開く。
広い部屋に出た。部屋の床には、文字が書かれた紙、研究のためと思われる道具、何かの素材が散乱している。壁にはびっしり文字が書かれており、狂気を感じさせる。
魔導生物を培養する大きなカプセルが並んでいた。中には培養中の魔導生物が入っている。
詳しい作り方を知らないリオンは、こうやって作ってるのか、と少し感心する。
しばらく探索していると、コツコツ、と人の足音が聞こえてきた。
「これは驚いたな」
ハスキーな女の声だった。
リオンは振り返る。
緑の長髪の女が佇んでいた。黒いローブをきている。肌は青白く、目の下にクマがある。何日も寝ていなさそうな風貌だった。
「まさか君がこの世界にいるなんてな。戻って来れるとは思っていなかったよ」
「!!」
女は淡々した口調でそう言った。驚いていると言っているが、驚いているようには見えない。
「……貴様が私を魔界に送ったのか?」
「知っててここに来たんじゃなかったのか? リオン君」
「それは、認めたということだな?」
女は頷いた。
(こいつが……)
リオンは女を睨む。
初めて見る顔だった。魔界に送るくらいだから、知っている人物だと思っていたが、違ったようだった。
ならばなぜ私を魔界に? リオンの頭に疑問が湧く。
女はリオンを知っているようだった。一方的な恨みを抱かれていたのかもしれない。
(ふん、聞き出せばいい)
魔法を使って、女から動悸などをまず聞き出すことにした。復讐はそれからだとリオンは思った。
「怖い顔だな。だいぶ変わったなリオン君。昔はもっと明るかったはずだが。久しぶりに会ったから、少しは懐かしい話でもしたいと思っていたが」
「何?」
リオンは眉をひそめる。記憶を辿るが間違いなくこの女に会ったことはなかった。
「ああ、そうだ。今の姿じゃ分からないか。顔を変え、声も変えたからな。でも名前は変えてない」
女は飄々とした表情でそう言った。
「スノ・ロードマン。聞いたことある名だろ?」
「スノ!?」
リオンは驚く。聞き覚えのある名前だった。
ライズたちとパーティーを組み、冒険をしていた頃、冒険をサポートしていた女の名だった。
魔導書などを仕入れてくれたり、 冒険で手に入れた遺物を鑑定してくれたり、様々なサポートをしてくれた。
戦闘はあまり得意ではなく、冒険には一緒には出てなかった。ただ、パーティーには大きな力になってくれていたので、リオンは仲間と思っていた。
リオンの知っているスノは、メガネをかけており、目が大きく、声も非常に高かった。一致するのは髪の色くらいである。
人間的にも明るくて、いい人だったとリオンは記憶している。
「嘘をつけ、スノの名を語るな」
リオンは名前を言われても信じることはなかった。
「信じてくれませんか。まあ、別に良いでしょう。信じて欲しいとは思っていません」
スノは無表情でそう言った。
「なぜ私があなたを魔界送りにしたか、それを聞きたいのでしょう。良いですよ。教えて差し上げます。魔法を使う必要はありませんよ」
「……」
「理由は二つあります。一つ目はまずはこの世界から物質を魔界に送る研究をしており、そのための実験をしたかったから」
「実験だと……」
リオンは、苛立った表情でスノを睨みつける。
「もう一つはあなたが私の計画の邪魔する可能性があると思ったからです」
「何の計画だ。なぜ私が邪魔をすると思った」
リオンはスノを睨みながら質問する。
「最強の魔導生物を作るという計画ですよ。そのために魔界とのゲートを繋ぐ方法を確立する必要があった。倫理観に欠けた研究も行う必要があり、あなたが邪魔をしてくる可能性があったため、魔界送りにすることにしたんです。実験にもなり、邪魔となりそうな人物を消せる。まさに一石二鳥ですね」
「何だその計画は。くだらん」
恨みというより、完全に私利私欲のためであった。最強の魔導生物を作るという理由は、リオンにとって理解し難い理由でもあった。
「くだらないですか。まあ、普通はわかりませんよね」
スノは理解されるのを諦めているような口調でそう言った。
「あなたは今この世界に強大な存在がいることを知っていますか? いや、知っていましたね」
「強大な存在?」
リオンは考える。
ライズの顔が頭をよぎった。あの強さは強大な存在と言っても、間違いはない。
「今あなたが思い浮かべた人。そうライズ・プライスです。あの男はまさに神をも超える力を持っている」
「なぜお前がライズの力を知っている」
「私は人より魔力を感知する能力が高くて、ライズ・プライスの力を感知できるのですよ。おそらく世界中の誰にも出来ないが、私には感じることが出来た。彼の強大な力が」
「感知? 奴は力を隠しているだろ」
「全く隠してなかった。ダダ漏れ状態でしたよ。でも、あまりにも強大すぎて、普通は感知することができない。それこそあなたの様な実力を持っている者でもね」
「何だと……?」
にわかに信じがたい話だった。
魔力差がありすぎると感知することができないという現象は、起きはするのだが、それこそ蟻と像くらいの差がなければ、そんなことは起きない。
ライズとの力の差は痛感していたが、そこまでの差があるとは思っていなかった。
「ちなみに今では私でも感知できなくなってしまいました。年齢と私の感覚が衰えたのか、それとも彼が最近になって力を隠すようになったのか分かりませんがね。恐らく前者だと推測しています。年齢と共に力というのは普通は衰えますから」
スノは冷静な表情でそう言った。
「今は感じられなくなりましたが、ライズ・プライスに強大な力があるということは紛れもない事実です。あの強大な力を知ったら、自分の魔導生物がどこまで強く出来るか知りたいじゃないですか。私は魔導生物を強くするためだけに、この数年間生きて来ました」
「……ふん、貴様が理解しがたい奴だということは理解した」
リオンはこれ以上、話を聞くのは時間無駄だと思った。
一旦魔法で拘束し、単独犯かどうかを吐かせてから、制裁を加えようと思った。
「闇拘束」
黒い魔法の糸が発生し、スノを拘束する。
あっさり捕まった。
「おや、ダメですよ。私を攻撃しては。大変なことになりますよ?」
スノがそう言った直後、部屋に警報が鳴り響いた。
「!」
床が光り始める。
魔法陣が描かれ、その中心から何かが召喚されてきた。
人間の女ような見た目をしたものが出てきた。
額に赤い宝石が埋め込まれている。
瞳は真っ黒で光が入っていない。
髪は白。地面に付くくらい長い。
真っ赤なドレスを身につけている。
(こいつは……!)
見た限り人間ではなかった。魔物でもない。
「この子はアリス。今私が作った魔導生物です」




