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ラウント山は結構遠い場所にあった。
俺たちの速度で移動しても、6時間ほどかかった。
まあ、俺一人だけなら全然もっと早くつけたが、一人だけ先に行くわけにもいかんからな。
五人で1番移動速度が遅いのはライラだ。彼女に合わせたので、少し遅くなってしまった。
ゆっくり景色を眺めて移動するのも嫌いじゃないので、楽しみながら飛行した。
ラウント山近くに到着する。
「町に立ち寄りましょう。お花見するならもっといろいろ買っておきたいし」
エミルがそう提案した。
ラウント山付近には、町がある。名前はそのままラウントだ。
結構大きめの町だ。人口も多い。中央には大きな城がある。この辺りを治めている貴族が住んでいた。
確かに町によった方が、花見をするにはいろいろ買えていいかもしれない。
現状、調味料とか料理道具、釣り道具は持ってきた。食材は魚は獲れるが、ほかのものが取れるか分からない。一応パンなどは買っていった方がいい。
また、酒はもってきていないので、酒も買いたかった。
俺は普段はあまり酒は飲まない。
レベル9999になったからなのか、体質のせいなのか。酔えないのだ。酒を飲んでもちょっとだけ気分が高揚するくらいである。
魔力が多ければ多いほど酔いにくくなるという話は、聞いたことがないが、もしかすると、多すぎると効かなくなったりするのかもしれない。
正直、酔えないなら酒よりジュースを飲んだ方が美味しい。
まあ、花見とかでは、酒を飲んだ方が楽しい気がするので飲みたい。
ほかにも本屋でラウント山麓の湖で釣れる魚について、情報を知りたかった。
何も分からない状態で釣りをしても、うまく行かないことが多い。
もちろん、適当に釣っても何とかなることもなくはないが、それは単なるビギナーズラックだ。
ちゃんとどんな魚がいて、どんな釣り方をすればいいか調べてから行った方が、釣れる確率は高くなる。
「わかった。町によろう」
俺はそう言った。
反対するものはいなかったので、全員で町の前に入った。
「この町は魔物を見破る、探魔師がいるわ。あんまり派手に行動すると騒ぎになるから、シーラ、リオン、ライラは宿でゆっくりしてて」
エミルがそう言った。
探魔師がいるのか。町に潜んでいる魔物をあぶりだす仕事をしている者たちだ。魔物は人間に扮せるので、放っておくと悪事を働くケースも多い。シーラとかライラのような、人畜無害な魔物ばかりではない。
ラウントのように、大きめの町だと高確率で探魔師がいるので、魔物はあまり派手に活動はしない方がいい。
宿でちょっと過ごすだけで、探魔師に発見されることはまずない。
買い物などは俺とエミルの二人で行くことにしよう。
まずは宿を探して、部屋を借りる。
リオン、シーラ、ライラの三人を置いて、買い物に向かう。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん。すぐ帰ってきてね」
シーラは寂しそうな表情でそう言った。ちょっと可哀そうであるが、仕方ない。
リオンとライラにシーラのことは任せよう。
魔王ではあるが、リオンは元人間である。人間の町で不要な騒ぎは起こさないだろう。
俺とエミルの二人で町を歩く。
「さて、買い物するか」
「そ、そうね」
エミルは少し顔を赤らめた様子でそう言った。
少し様子がおかしいな。
「なんだ? 体調悪いのか?」
「わ、悪くないわよ! どうしてよ!」
「いや、ちょっと様子変だったから」
「へ、へへへ変じゃないわよ!?!? なに言ってんのよ!!」
顔を真っ赤にしてエミルは言った。やっぱり変である。
「もう……意識してバカみたいじゃない」
「意識? 何の話だ?」
「何でもない!」
怒ったような表情でエミルは言ってきた。
なんだかよくわからないが、怒らせてしまったようだ。
なんでだろうか? 理由が分からん。
理由が分からないのに、謝っても逆に怒らせてしまいそうだな……
どうするか……
周囲を確認すると、アイスクリームを売っている店があった。
美味しそうだ。俺は店員に話しかけ、アイスクリームを二つ買った。
「ほい」
買ったアイスクリームをエミルにひとつ渡した。
「え? いいの?」
「ああ。なんか分からないが機嫌直して欲しい」
「……あ、ありがと」
エミルは受け取ってアイスを食べた。
「美味しいわ!」
「そりゃよかった」
俺もアイスを食べる。なかなか濃厚なミルク味のアイスだった。
結構久しぶりに食べたので、非常に美味しく感じた。
「ご、ごめんなさいね。怒っちゃって。心配してくれたのに。ライズは別に悪くないわ」
「そうなのか?」
「うん」
照れた表情でエミルは頷いた。
俺が原因でないようで良かった。
なら、なんで様子が変なのか聞きたいところではあるが、聞くとまた怒らせる可能性が高い。
体調は悪くないということなので、そっとしておこう。
「あ!」
エミルが何かを発見したように目を見開いた。
屋台があった。フルーツとクリームを挟んだサンドウィッチがある。
日本ではフルーツサンドと呼ばれている料理だが、この世界ではクリームフルーツパンという呼び名だったはず。
「あれ大好きなんだ! 一緒に食べようよ!」
「確かに美味しそうだな」
普段の生活では甘いものはあまり食べない。魚とか肉ばっかり食べているからな。
甘いものは、ラウントのような大きめの街に行かないと食べられない。小さめな町や村には売っていない。
めちゃくちゃ甘いものが好きというわけではないので、わざわざ買いには行かないのだが、こうして目の前にあると食べたくなってきたな。
「残り一個だよ!」
屋台の店主がそう言った。
「い、一個なんだ……」
「そうか。俺は気にせず食べていいぞ」
ちょっと残念だけど仕方ない。甘いものはさっきアイス食べたから、あれでいいと言えばいいからな。
エミルはクリームフルーツパンを買ってきて、それを半分食べた。
その後、
「は、はい。あげるわ」
「え?」
差し出してきた。
意外な行動に驚く。
「いいのか? 食べなくて」
「だ、大丈夫よ。いいから食べて。さっきのお返しよ」
そう言って渡してきた。
本人がいいと言っているのだから、いいんだろう。
遠慮せず食べようと思ったが、ここでこのまま食べると間接キスであるということに気づく。
い、いや、俺はもう30になる男だぞ。
確かに恋愛経験ゼロではあるが、間接キス程度でドギマギしていいような年齢じゃない。
こ、こんなの何ともない。
俺はそう心に言い聞かせ、パンを食べた。
甘味が口の中に広がっていく。フルーツの味と合わさって絶妙な美味しさだった。
この店はクリームフルーツパンの店の中でも、かなり評判がいい店に違いない。
全部食べ終えた。
「美味しかった?」
「ああ、絶品だった」
「良かった」
エミルは嬉しそうに微笑んだ。
しかし、よく考えれば、半分渡すなら割れば良かっただけで、自分で食べた後渡す必要はなかったのでは?
まさか狙って間接キスを……
そ、そんなわけないか。キモい妄想はやめよう。多分割ると中身が崩れてしまうから食べたんだろう。
多分そういうことだ。
「こっちに商店街があるみたいよ。行ってみましょう」
エミルがそう言った。忘れかけていたが、今回の目的は花見のための買い出しであった。
色々買っていきたい。
商店街に入る。様々な店が並んでいた。屋台も結構ある。
人も大勢歩いており、賑わいを見せていた。
「パンを買っておきたいよね」
調味料などは持ってきたが、パンは持ってきていない。途中で作ることもできない。
やはりパンはあったほうが、料理は美味しく食べられる。出来れば持って行きたかった。
パン屋に入る。
食パンや、フランスパン……この世界ではロングパンと呼ばれていたか。様々な種類のパンが置かれていた。
食パン五枚とロングパンを一本購入した。
「次は酒だな」
「お酒かぁ……」
エミルの反応は微妙だった。
「なんだ? 苦手なのか?」
「いや大好き……でも、ちょっと酔いやすい体質で、飲んだら何かしちゃいそうで怖いのよね」
「悪酔いするタイプか。何かって何なんだ?」
「暴れたりする時もあったわね。なんかお金使いすぎたりした時もあるし」
「そうか。暴れたら俺が止めるから安心しろ」
「ど、どうやって止めるの?」
「捕縛魔法を使う」
「う、縛られるのね……それなら動けないだろうけど」
縛られるとかいうと、ちょっとエロく聞こえるからやめてほしい。
もちろん酔ったエミルにエロいことをしたりは絶対にしない。するわけがない。
「止めてくれるなら飲んでみようかしら」
エミルは酒を飲む気になったようだ。
「逆にライズは酔わないの? 二人とも酔ったら意味ないけど」
「俺は絶対に酔わない」
レベル9999になってから、何回か酒を飲んで試したが、どんだけ読んでも、酔うという状態にはならない。
本当に少しだけ気分が高揚するくらいである。あれは酔っているうちには入らない。
「それは頼もしいわね。お酒強いのね」
前世ではそんなに強くはなかった。
レベル9999になる前は、年齢的に飲まなかった。
この世界では酒の年齢制限などは法律でかかったりはしていない。無論、子供は飲まないよう推奨されているが、飲ませても罰せられたりはしない。
ただ、前世での常識があったので、飲む気になれず、飲まずに過ごしていた。
20歳を超えてから飲んでみたら、全然酔わなかったというわけだ。
「じゃあ、今回はがっつり飲んじゃおうかしら。お酒いっぱい買っちゃお」
エミルは楽しそうにそう言った。酒自体はやっぱり結構好きなんだな。
俺たちは酒屋に入った。
商店街には複数酒屋があった。一番大きな酒屋に入る。
中に入ると、様々な酒が並んでいた。
この世界で一番ポピュラーな酒はウイスキーである。
ウイスキーを水で割って飲む場合が多いが、そのまま飲むやつも結構いる。
ほかはワイン、ジン、ビールがある。
ビールはそんなに売っていないイメージなのだが、この酒屋には売ってあった。品揃えが豊富だ。
遠い異国の酒もあった。
匂いを嗅がせてもらうと、今世では嗅いだことはないが、前世では嗅いだことのある匂いだった。
「日本酒か?」
「にほんしゅ?」
エミルが不思議そうな顔で聞いてくる。
この世界に日本はない。日本酒という名前では絶対にないだろう。
「これはヤマット酒だね。珍しいから結構高いよ」
ヤマット酒か。確かこの世界には和風な国があった気がする。今のところ行ったことはない。いつか行こうと思っていたが、遠すぎて面倒なので後回しにしていた。
日本酒っぽいものがあるのなら、本当に昔の日本みたいな場所かもな。行ってみたいかもしれない。
値段はそこそこしたが、買えない値段ではなかった。
まあ、正直俺の場合、金を稼ぐのは困らない。ちょっと強めの魔物や生物を倒して素材を売ったら、すぐに金は稼げる。酒に金をかけるくらい何の問題もなかった。
「買おう」
「毎度あり!!」
日本酒もといヤマット酒を購入した。
あとはウイスキーやワインも購入する。結構いっぱい買ったので、飲みまくれるな。
花見も盛り上がりそうだ。
また、ジュースも買った。
シーラが飲むようだ。彼女は魔物なので酒を飲んでも平気、ではあると思うのだが、あんな小さな見た目の子が酒を飲んでいるのは、正直見てられない。ジュースを美味しそうに飲んでほしい。
買ったのはリンゴジュースである。搾りたての美味しいやつだ。シーラも気に入るだろう。
飲み物を買い終わったあと商店街を歩いていると、本屋を発見した。
「ちょっと寄っていいか?」
「いいわよ。でも、何買うの?」
「山付近に湖があるんだが、そこで何が釣れるか、どんなエサで釣れるかとか調べる」
「アンタ釣りのことしか考えてないわよね」
エミルは呆れた表情でそう言った。
しか考えてないということはない。釣りを最優先で考えて行動しているだけだ。
エミルの許可もあったし、俺たちは本屋に立ち寄る。
古めの本屋だった。果たして売っているか。
探していると、魚関係の本を発見する。トラント湖の生物について、というタイトルだ。
ちなみにラウント山麓の湖の名前はトラント湖という。響きが結構似ている。
早速買ってみた。
「買えてよかったわね」
「ああ」
早速読んでみると、凄い数の魚が釣れるようだ。
俺が住んでいるアブロ湖でも、釣れるような魚が釣れるみたいだ。
アブロ湖にもいない魚も釣れる。
「お、これは!」
本を読んでいて思わず声を上げる。
「ど、どうしたの?」
「ラウント湖では、クレストルが釣れるらしい」
「何よクレストルって」
エミルはぽかんとしたような表情で聞き返した。
知らないのか。まあ、無理もないか。珍しい魚だから、釣り人は知っているが、詳しくない人は知らないのだろう。
湖にいる2mを超える巨大な魚である。綺麗な湖にしか生息しない魚だ。湖の中でも一番深い場所にいるとされている。
アブロ湖では釣ることが出来ない。あの湖は水質は非常に綺麗なのだが、深さがあまりないため、クレストルが生息できる環境ではない。
ラウント湖は非常に深いのだろう。
今まで一度も釣ってみたことがないだけに、ぜひ釣ってみたいものだ。
深い場所にいるので、長い糸が欲しいな。
持ってきた釣り具に、そこまで長い糸はなかった。買う必要がある。
商店街で釣具屋にもより、長い糸を購入した。
ほか本を読みながら、適切な餌を選び購入した。
これで釣り準備も万全である。
「本当に釣りが好きなのね」
「まあな」
「なんで釣り好きになったの?」
「それは……退屈だったから釣りを始めてみたらはまったんだ」
「退屈……だったの? ライズくらい強いなら、毎日楽しそうだけどな」
「そんなことない」
強すぎても相手が弱すぎて何も楽しくはない。
戦いを楽しい思ったことは、レベル9999になって以降なかった。
この世界に来た当初は、修行の冒険に、大変だったけど楽しかったんだけどなぁ。
「何を遠い目して」
「なんでもないさ」
昔を思い出して、遠い目をしてしまったようである。
「私もライズみたいに強くなったら分かるかしらね」
「そうだな」
「なら頑張って修行しないとね! これからもよろしくね!!」
やる気出した表情でエミルは言った。
エネルギーに満ち溢れた表情を見て、うらやましいと思った。それと同時に、エミルのことがどこか魅力的に見えた。




