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「この辺りの……はず」
エミルは、魔物が現れたダンジョン付近の村に行こうとしていた。
すでにダンジョンにはおらず、別の場所に移動しているようなので、エミルは付近の村を目指した。
出現した魔物が残忍な性格なら、人間を狙う可能性が高い。まずは村の無事を確認する必要があった。
もし無事なら聞き込みなどをして、魔物がいる場所の手がかりを探すつもりだった。
「あった、あそこね」
空から村の場所を確認した。
のどかな村だった。魔物に襲われているような様子はない。空から見る限り、人々も通常通り生活しているようだった。
エミルは村に降り立ち、事情を聞きに行こうとした。
その時、
「!!」
前方から光の矢が飛んできた。
攻撃だ。エミルは咄嗟に雷轟剣を引き抜き、矢を切り落とした。
「なかなかの反応だねぇ」
矢を飛ばした敵がそう言ってきた。
青い肌、2本の角を生やした魔物がいた。
身長はかなり低く、人間の子供くらいのサイズである。顔つきも幼い。
子供に見えるが、魔物の見た目と年齢は一致しないことも多い。エミルは見た目で油断はしなかった。
「僕は風雪、ラポンスタ。君は中々美味しそうだ。食べさせてほしいな」
ラポンスタと名乗った魔物は、邪悪な笑みを浮かべてそう言った。
最近になって、シーラやライラなど、そこまで悪くない魔物の存在もエミルは知ったが、ラポンスタは明らかに悪だとすぐに分かった。
空を飛んでいるので魔力を保有しているはずだが、ラポンスタの魔力は読めない。どうやら隠しているようだ。
魔力を隠す魔物は知能が高く、実力もかなり高い可能性が高い。
冒険者パーティーを壊滅させたという話も嘘ではなさそうだ。
(……厄介なことになったわね……ここで戦わないといけないなんて……)
エミルはラポンスタの実力というより、戦う場所に厄介さを感じていた。
この場所は村の近くである。ラポンスタがどんな攻撃を行うかは現時点では不明だが、もし広範囲に及ぶような攻撃をするのなら、村を庇いながら戦うことになる。
下手に逃げるように注意喚起をしても、もう間に合わない。逆に村を守りながら戦わないといけないと、ラポンスタに知られて更に不利な戦いを強いられる可能性が高い。
エミル自身の攻撃も、少しセーブしないといけない。
何かを守りながら戦うのは、普通に戦うより明らかに難しかった。
先に魔物の場所を発見し、人里離れた場所で戦いたいと思っていたが、こうなっては遅い。
(場所を変えてほしいって言って聞いてくれるとは思えないわね。あの人みたいに一撃で倒せればいいけど、流石に無理だし。何とかやるしかないわね)
ラポンスタは実力的にはAランク以上は確定だ。アリアの話では、Sという可能性もあるようだ。
Bランクくらいの魔物なら、一撃で倒せることもあるが、流石にAランク以上となると一撃で倒すのは不可能だった。
エミルは雷轟剣を構える。一撃では倒せないだろうが、なるべく早く決着を付けるため、先制攻撃を行う。
「雷轟滅斬!!」
最初に大技を使う。村に当たったりしないよう、雷撃の威力は少し弱めて攻撃した。
「わああ〜」
ラポンスタは気の抜けた声を上げながら、攻撃を避けた。
かなり俊敏な動きで攻撃を回避する。
エミルの攻撃は雷撃と斬撃を同時に飛ばす。斬撃は避けられたが、雷撃は当たった。
「うっ!」
電気をくらい、ラポンスタは痺れたようにうめく。
「はあああああ!!」
エミルはその隙に、ラポンスタに斬りかかった。
「氷壁!」
ラポンスタは手を目の前にかざしながらそう言った。
氷の壁が発生する。氷のはずなのだが、かなりの硬度をがあり、エミルの斬撃を防いだ。
「ふー、危ない危ない。君厄介な攻撃するね」
余裕そうな表情でラポンスタはいった。
「爆風!」
凄まじく強い風が発生し、エミルを吹き飛ばした。
「くっ!」
地面に叩きつけられる。
「う、うわ!?」
「なんだ!?」
ちょうど着地地点が、村のど真ん中だった。
驚き戸惑う村人たちの声が上がる。
「ま、魔物だ!」
「逃げろ!」
村人たちは空に浮かぶラポンスタの姿を見て、パニックになり逃げ出し始めた。
「落ち着いて!」
エミルは叫ぶが聞く人はいなかった。
ちりじりに逃げられると、逆に守りにくくなる。村人からすれば、自分だけは助かりたいという思いで逃げているのだろうから、止めようがない。
「あれ? ここ人がいっぱいいるね」
村に近づいてきたラポンスタがそう言った。
「全部食べちゃおうかな? でも、君が一番美味しそうだしな」
ニヤリと笑いながらラポンスタはそう言った。彼にとって人間は捕食対象以外の何者でもないようだ。
「他の人間はどうでもいいでしょ? アンタの相手は私よ」
「そんなに君僕に食べられたいんだね」
ラポンスタは愉快そうに笑いながらそう言った。
「お望み通り食べてあげるね!! 氷追尾弾!!」
ラポンスタは真上に手をかざしながらそう言った。
空中くから大量の氷の棘が、エミルを襲う。
避けると追尾してきた。雷轟剣で斬り落とす。
「!!」
ミサイルのうち、一つだけが、村人の子供の方に飛んで行った。
エミルは慌てて斬り落とす。
(あ、危ない……)
何とか間に合い、子供は無事だった。
「よそ見は禁物だよ!! 巨大氷槍!!」
ラポンスタは大きな氷の槍を構え、そして突いてきた。
雷轟剣で槍を受け止める。
「!!」
体の温度が急激に下がるのを感じ、エミルはすぐに槍から離れた。
「寒いかい? 君の剣も斬る以外のことができるみたいだけど、僕の槍も同じなんだ。相手を凍り付かせることができる」
「く……」
「普通なら今ので凍りついているはずなのに、全然動けるなんてやっぱり凄いね」
ラポンスタは感心したようにそう言った。
(体が重い……)
ラポンスタの氷結攻撃を受け、エミルの動きは鈍くなっていた。
(それなら……!!)
エミルは雷轟剣に魔力を込める。
雷撃を発生させた。雷の矢を複数作り、それをラポンスタに向けて放った。
ラポンスタは氷壁で雷を防ぐ。
「まだまだよ!!」
エミルは魔力をどんどん注ぎ続け、遠距離攻撃を撃ちまくった。
「な!」
強化されたエミルの魔力は凄まじかった。次々に雷撃が襲って来て、ラポンスタも防戦一方になる。
「雷砲!!」
大量の魔力の込められた、強力な雷撃がラポンスタに向かって放たれる。
氷壁を吹き飛ばし、ラポンスタに強力な雷撃が直撃した。
「うわあああああ!!」
叫び声が上がる。
「はぁ……はぁ……倒したかしら」
連続攻撃で魔力を大量消費したエミルは、息を切らしていた。
ただ、普通なら魔力切れになるくらいの攻撃をしたので、まだ残っているのは魔力アップのおかげである。
「く、くっそおおおお!! 人間が!! 人間の分際でこの僕をっ!!」
大声が上がった。
先ほどまで余裕の表情だったラポンスタだったが、怒り心頭という表情を浮かべていた。
ボロボロの状態だったが、まだ死んではないようだ。
魔力を隠す余裕がなくなったのか、自分の魔力を全力で曝け出している。
(こ、この魔力! 間違いなくSランク相当よ!)
エミリはかなりの魔力を肌で感じ取った。アリアの予想通りAランクではなく、Sランク相当の強さを持っていそうだった。
「全部、壊れちゃえ!! 暴風雪!!」
ラポンスタは魔法を使う。凄まじい風が起こり、雪が降り注いできた。
ただの雪ではない。一粒一粒に凄まじい魔力が込められていた。
(まずい!!)
あれに当たったら、おそらく無事ではすまない。一般人だったら、死ぬ可能性が高い。
そう思ったエミルは、咄嗟に魔法を使う。
無数の雷の矢を作りだし、ぶつけて行った。
雷の矢が雪にぶつかった瞬間、雪が爆発した。エミルの見立て通り、一般人が当たればタダではすまないだろう。
雪も無数に降り注いでいる。それでもエミルは凄まじい集中力で、全ての雪に雷の矢を当て続けた。
何とか全ての雪に当てることに成功した。
しかし、
「くっ……」
大量の矢を放ったからか、エミルの魔力は限界に近かった。魔力が切れかかっているため、ふらふらと真っ直ぐ立つことができなくなっている。
一方、ラポンスタも先ほどの魔法で魔力を大量消費して、疲労が見えるが、まだ切れかけというわけではなさそうだった。
「はははは! 勝負あったな!!」
「くっ……」
ラポンスタは高らかに勝利宣言をした。エミルは悔しそうな表情を浮かべる。
(ここまで……なの?)
もはや魔力は切れかけ。防御の手段はない。こちらかの攻撃手段もない。
ここから逆転できる可能性はゼロに近かった。
(結局私は……あの人みたいにはなれないっていうの? あの狼の魔導士みたいに……)
幼い頃の記憶がエミルの脳裏に蘇った。
自分を助けてくれた狼の魔導士。強力な魔物を一撃で倒したあの魔力。
狼の魔導士のようになりたいと、幼い頃強く願った。
それはもう叶うことはない。そう悟りエミルは絶望した。
「さあ、死ねええ!!」
ラポンスタは魔力を貯めきり、魔法を放とうとした。
その時、
「魔弾」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと思ったら、魔法の弾がラポンスタに直撃。
ラポンスタは断末魔の悲鳴を上げる時間もなく、跡形もなく消滅した。
「……ライズ?」
そう思って、魔法が放たれた場所を確認してみると、
「え?」
狼の仮面を付けた魔導士が佇んでいた。




