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ダンジョンから帰ってきたあと、俺はいつも通り釣りを楽しんでいた。
ああいう未知の釣り場で、新しい魚を釣るのもいいが、やはり慣れた湖で釣りをするのも、心が落ち着いて非常に楽しい。
俺が釣りをしていると、いつも通りエミルが俺の動きを見守りにきた。
最初はずっと俺の釣りを見ていたのだが、最近は剣や雷撃の修行をしたあと、俺の釣りを見たり、一緒に釣りをしたりしている。釣りを見たりやったりするだけに飽きたのか、それともほかの修行も同時にする方が強くなれると思ったのか、どっちかはわからない。
一緒に釣りをする時間が短くなって、ちょっと寂しい気持ちもあるが、ゆっくり一人で釣りたい気持ちもあった。ちょっと複雑な気持ちである。
「うーん……」
エミルが悩んだように俺を見る。
「どうした?」
「強くはなって来ているけど、やっぱりまだまだ目標の強さまでは遠いと思って……ライズのことを見たり釣りをするのはためにはなるけど、それだけで最強になるのは無理かもしれないって最近思ったの」
「ようやく気づいたのか」
「な、何よそれ!? 釣りは修行になるって言ってたじゃない!」
「言ったが、それだけで最強に慣れるとは言った覚えはないぞ」
「そ、そうだったかしら」
精神面の強化になるとは言ったが、最強になれるとは流石に言っていない。
まあ、精神面の強化につながるのかも微妙ではある。効果がないわけではないが、もっと適切な修行方法は他にいくらでもありそうだ。
「何でライズはそこまで強くなったの?」
エミルが答えにくい質問をしてきた。
実は俺は転生者で、チート特典でレベルが9999になったんだ、などと言って信じてもらえるだろうか? いや、信じるか信じないかと言う以前に、内容を理解できないだろう。
「たゆまぬ修行と……鍛錬のおかげだな」
真っ赤な嘘をついた。
「ほ、本当かしら? ライズが何らかの訓練をしていると頃を見た記憶がないんだけど」
「釣りは鍛錬の一環だ。俺くらいになると、釣りをしているだけで現状維持できるんだ」
「はぁ……」
エミルは怪しんだ表情でこっちを見る。
「でもまあ、そうよね……力がいきなり降って湧いてくるなんてことあるわけないもの。ライズはとても修行して強くなったのね。尊敬するわ」
「う……」
尊敬すると言われて胸が痛くなる。俺はたまたまチートを貰っただけで、立派な人物でも何でもないのに。
俺は「そ、そうだな。エミルも頑張るんだぞ」と言ってしまった。説明しようだなかったので、こう言う以外に思いつかなかった。
確実にエミルの方が俺の数十倍は頑張っているだろう。どの口で言ってるんだか。
まあ、俺もレベル9999になるまでは結構頑張っていたんだけどな。
そこそこ魔法の才能があって生まれたのだが、チート能力は持っていなかった。周りに自分より才能のある人物も見てきた。
そんな中修行して、結構強くはなれたんだ。
この前攻略したペトルダンジョン並みの難易度のダンジョンを攻略したこともある。
一人ではなくパーティーメンバーを組んでだが、それでもある程度強くないとあのレベルのダンジョンは攻略できない。
俺と同い年くらいで、俺並みに強いやつはそうはいなかったはずだ。
まあ、リオンという年下で俺より強かったやつはいたりしたが……
才能の差を感じても、何とか努力で埋めようと毎日頑張っていた。
そんな俺が今はこうだ。全部レベル9999になったからだ。
努力する意味なんて何もない。虚しいだけだ。
まあ、今の生活もそんなに悪くはない。
心が動くことが少なくなったが、それでも釣りは楽しいし、エミルやシーラ、リオンたちが周りにいるのは騒々しいが悪くはない。
「私は何としても強くなりたいの。このままじゃ、ライズやあの人のように強くなるまで、どれだけ時間がかかることやら……」
エミルは珍しく落ち込んだような表情をしてそう言った。
あまり落ち込んだりはしないイメージだっただけに、その表情は意外だった。
最強になりたいとは、元から言っていた。
正直、ちょっとアホっぽい夢だと思ってしまったが、何か深い理由があるのかもしれない。
「何でエミルは最強になりたいんだ?」
俺は思い切って理由を尋ねてみた。
「憧れてる人がいるからよ」
エミルはそう言った。
「どんなやつなんだ?」
「めちゃくちゃ強い人よ。ライズも強いけど、あの人には及ばないと思うわ」
目を輝かせながらエミルは言った。
俺より強いか。本当にそんな奴がいたらいいんだけどな。
「あの人並み、いや、それを超えるくらい強くなるのが目標なの。あの人はおそらくこの世界で最強だろうから、それを超えるくらい強くなるには、私が最強になるしかないわ」
「そうなのか。名前はなんていうんだ? 住んでる場所とか分かるか?」
もし知っていたら、俺が会いに行きたい。
エミルがそこまで強いというのなら、それは相当強いのだろう。もしかすると、俺みたいに異世界からの転生者で、何らかのチートを得ている人物かもしれない。
一度会ってみたい。
もしよければ、手合わせしたいものだが、それは流石に難しいかもしれない。
相手が戦うのが好きとは限らないからな。
まあ、でも俺並みに強い奴がいるというのなら、一度会ってみたい。
「わからないわ」
少し期待していたが、エミルはそう返答した。
「名前も住んでる場所も何もわからない。めちゃくちゃ強いってのと、男だったってことはわかるわ」
「そんなよくわからないやつに憧れてるのか」
「いいでしょ!」
エミルは怒りながら言った。
「いつ会ったんだ?」
「子供の頃ね。8歳くらいだったかしら」
「そうか」
そんな子供の頃の記憶だったのか。
だいぶ前の記憶なので、覚えてきれてない部分も多いだろうな。
ある程度腕のある冒険者は、子供から見ればめちゃくちゃ強く見えるだろう。正確に強さが測れているとは思えない。
もしかすると、エミルは現時点でその男の腕を超えている可能性もあり得る、というか高いな。
エミル並みに強い人間はそうはいないだろうからな。
夢を壊すようなことは言わない方が良さそうだな。
強くなるというモチベーションが消えかねないし、何も言わないでおこう。
「とにかく頑張るわ! これから釣りをしてみるわね!」
俺と並んでエミルは釣りを始めた。




