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「さっきのは見なかったことにしてくれ」
服を着て戻った後、俺はそう言った。
「お、お互いね」
気まずそうな表情でエミルがそう言った。
「ふん、別にあんなの見ても、何とも思わんから安心しろ」
リオンは腕を組みながらそう言った。
あんなのってひどい言い方だ。何かは思ってほしいんだが。
「ところでシーラはどうなった?」
「さっきまで暴れてたけど、今は大人しく寝てるわね」
「そうか」
シーラは近くの岩陰で気持ちよさそうに寝ていた。
結局原因はなんだったのだろうか?
「このお湯のせいかもしれないわね。魔物が入ると逆に悪影響があったのかもしれないわ」
「なるほど……リオンも一応人間だしな」
「一応とはなんだ」
リオンは睨んでくる。
彼女は魔物化しているが、あくまで人間ではある。温泉の悪影響を受けなかったのはそのためだろう。
「ん……あ、おはよう~」
シーラが目覚めた。
「あ、お兄ちゃんたちだ~、シーラ何してたんだっけ?」
さっきまでのことをわすれているようである。
「あ~、なんお風呂ある! 入ってみよう!」
「だ、駄目よ!」
「やめろ!」
再び温泉に入ろうとするシーラを、俺とエミルが慌てて止める。
その後、入りたいというシーラは何とかなだめた。
「さて、温泉も入ったし、先に進むか」
温泉に入っていないと思っていたシーラは少し不満げだったが、俺たちは先に進むことにした。
下の階に降りて順調に進んでいく。
魔物の数も下に降りるごとに増えていったが、雑魚がどれだけ増えても、特に変わらない。魔物たちを瞬殺しながら先に進んでいった。
そして、29階。
前情報だと次が最終階で、地底湖がありそうだ。
次の階へ行く道を探していると、
「グオオオオオオオ!!」
大きなうなり声が先から聞こえてきた。
「何の魔物かしか?」
「この声は……ドラゴンだな」
リオンがそう言った。
彼女はちょっと前まで魔界にいた。俺たちより魔物には詳しいだろう。
ドラゴンは知能は低いが、持っている力はかなり強力である。
高難易度ダンジョンの最奥地に辺りいるという話は、結構聞くことはある。もう29階だし、いても全然おかしくない。
先に進むとリオンのいう通りドラゴンだった。
巨大な体躯。二本の角。うろこの色は真っ黒だった。
真っ青な瞳。額に真っ赤な宝石なようなものが埋め込まれている。
「エンペラードラゴン!?」
エミルが目を見開いてそう言った。
エンペラードラゴン。
確か最強クラスの力を持ったドラゴンだったはずだ。
出会ったことはないが、特徴は聞いたことはあるので、間違いない。こいつはエンペラードラゴンだ。
持っている力はSランクの魔物を凌駕するともいわれている。
流石に魔王級ではないだろうが、相当強いことは確かだ。
「こんなところで出会うとはな。ちょうどいい。魔界の時と同じく餌として食べてやろう」
リオンがにやりと笑みを浮かべながらそう言った。
魔界にいたときはドラゴン食べてたのか? なんかとんでもない生活送ってそうだな。
リオンならエンペラードラゴンを倒せるだろうから、嘘とではなさそうだ。
「うわ~。おっきなトカゲさんだ~。こっちの世界にもいたんだね~」
シーラはのんきにそう言った。
彼女は魔物なので、魔界で見たことがあるのだろう。
あまり怯えている様子はない。
エンペラードラゴンだろうと、その辺のトカゲだろうと俺にとっては正直変わらない。
瞬殺するか。
そう思って魔法を使おうとすると、
「待って!」
エミルがそう言って、止めてきた。
「なんだ?」
「ここは私に戦わせて。温泉で魔力が増えたと思うから、力を試してみたいの」
真剣な表情でエミルは言った。
エミルは最強になることが夢だったはずだ。力が上がったら試してみたくなるのも当然のことか。
装備している雷轟剣≪らいごうけん≫を抜き、エンペラードラゴンの前に立った。
ここは見守るか。
エンペラードラゴンは強い魔物だし、エミルと言え楽には倒せないはずだ。
危なくなったら助けてやろう。
「グオオオ!!」
エンペラードラゴンが大きな口を開けて、エミルに突進した。
鋭い牙で噛みつく。エミルは横にジャンプし回避した。
「はあああ!!」
回避した後、剣を振りかぶってエンペラードラゴンに首元を攻撃した。
首の鱗に辺り、がぎいいん!! という音が響き渡る。首を斬ることは出来なかったようだ。
斬れなかったが、エミルは雷撃を放つ。
強力な雷撃が、エンペラードラゴンの首元を襲う。
「ほう、確かに前に比べて威力が上がっているな」
リオンが感心したようにそう言った。
確かにぱっと見雷撃の規模が増えているような気がする。
エンペラードラゴンが痺れたのか、動きを止めた。
エミルはその隙に、エンペラードラゴンの舌に雷轟剣を突き刺す。
そして、再び雷撃を放った。
舌は鱗で覆われていない。強力な雷撃をもろにくらい、エンペラードラゴンはゆっくりと倒れた。
倒したか?
と思ったが、そう簡単な相手ではなかった。
エンペラードラゴンはゆっくりと起き上がり、エミルを睨みつける。
「グオオオオオオオオオオオ!!!!」
ひときわ大きな雄たけびを上げた。その後、翼をはためかせ飛び上がった。
ダンジョンは地下にあるのだが、天井は意外と高い。20m近くあった。
天井ギリギリまでエンペラードラゴンは飛び上がり、そこから黒い炎の球を吐き出した。
次々に吐き出す。炎の球は地面に着弾し、爆発した。
「くっ!」
エミルは爆風を喰らい、少しバランスを崩す。
次々に炎の球が飛んでくる。何とか避けていくが、全弾を回避できず、少し喰らってしまう。
「くっ……」
エミルは少し苦しそうに声を出した。
直撃は避けたので、大ダメージは受けなかったようだが、少しダメージはあったようだ。
空中に飛んでいたエンペラードラゴンが、エミルに向かって急下降する。
鋭い爪を振り回して、攻撃してきた。
エミルは回避はせず、剣で受け止めた。
金属音が響き、火花が散る。
エンペラードラゴンにもエミルは力負けせず、攻撃をしっかりと受け止めた。
再び雷轟剣から、雷撃を迸らせる。
「グギャアアアアア!!」
三度強力な雷撃を受けたエンペラードラゴンは、倒れ伏し、痺れて動けなくなった。
ドラゴンは腹部がほかの部位に比べて鱗が薄い。
エミルは移動して、雷轟剣で腹部を斬り裂いた。
「グガアアアアアアアアアアアァァァ!!」
断末魔の悲鳴がダンジョン内に響いた。大量の血が噴き出し、エンペラードラゴンは倒れ伏して絶命した。
「ふう……やったわね」
額に搔いていた汗をぬぐいながら、エミルはそう言った。
エンペラードラゴンは確かに強い勝ったが、それを特に負傷することなくエミルは倒した。
彼女は強い冒険者ではあるが、エンペラードラゴン相手だともっと苦戦していてもおかしくない。
温泉の魔力増加は、思ったより大きかったのかもしれない。
「やっぱり強くなってる……ここにきて良かったわ!」
エミルは嬉しそうな表情でそう言った。彼女も魔力アップを実感しているようである。
ドラゴンの肉は食べることが可能だ。地底湖で魚を釣った後、食事をするつもりだし、一応食材として持って行っておこう。
俺はエンペラードラゴンの死体を魔法を使って捌いた。
エンペラードラゴンは巨大だが、美味しく食べられる部位は少ない。
2kgぐらいの肉を取り出した。残りはダンジョンにいるほかの魔物か、生物が食べるだろう。
俺たちは先に進み、30階に降りた。




