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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!3月30日二巻発売!】  作者: 徒然ナルモ
二十二章 アド・アストラVSマレウス・マレフィカルム
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858.魔女の弟子と世界は一つ


戦争が終わり、一日が経った。


「戦争、終わったな」


「そうですね、エリス達の勝利です」


エリスとラグナは二人でフリードリスの前に座る。決戦を前に退避していたアルクカース国民達も戻ってきて、今やアルクカースは再興モードに入っている。

街はめちゃくちゃ、城もめちゃくちゃ、国中めっちゃくちゃなこの状況。なんとかする為アド・アストラは動かせる限りの人間と力を動員。アルクカースの国民達も一斉に帰還し戦いが終わった後のビスマルシアを復興する為皆働いている。


最初、エリスは不安に思いました。だって家も何もかもめちゃくちゃなんですから。補償しろとか、ラグナへの糾弾が始まったらどう守ろうと。

けどその不安は必要ありませんでした。アルクカースの国民の皆さんは荒れ果てた大地を見て。


『すげぇ戦いだったんだな!』


と目を輝かせ、戦いに参加出来なかったのだから復興くらいは任せてくれと自主的に瓦礫の片付けを始めたのだった。ラグナを攻める声は全くない、と言うか戦争に勝った王を責めるような真似はこの国の人間はしないようだ。


とは言えそれでラッキー、じゃあよろしくね。と言うわけにもいかない為、ラグナは国庫を開き必要な限りの支援を行うそうだ。


で、エリス達は。


「さて、何から手をつけていくか」


「取り敢えず各地の転移魔力機構だけでも復旧させましょう。皆さんを元の街に戻してあげたいです」


「そうだなぁ」


フリードリスの前に建てられた簡易テントの中で、二人で話し合っていた。ラグナはイノケンティウスに勝利しこの国を、魔女大国を守ったんだ。本当は一日くらい休んでもいい気がするが、昨日からずっと動きっぱなしだ。

まぁそれはエリスも他のみんなも一緒なのだが。今みんなはそれぞれの場所に別れてそれぞれの仕事をしている。


と言うのも。


「俺がいる間だけでも、出来る限りの事はしておきたいしな」


エリス達は今日中にでもマレウスに行くつもりだからだ。アルクカースで過ごした二週間と少し。それはエリス達の残り時間から考えてもまぁ結構な日数だ。

魔蝕まで残り二週間。エリス達はこれまでにマレフィカルムの本部に攻め込み、総帥ガオケレナを打倒しなくてはいけない。そうしなければシリウスが復活してしまうのだから。


そう言え意味では、今回使った時間はかなりのタイムロスと言える。しかし、悪いことばかりではなかった。


「それにしてもラグナ、急に強くなりましたね」


「え?」


「なんか、ずっと纏ってる魔力が凄いです」


「わ、悪い。ちょっと抑えるよ……」


まずラグナ、彼がめちゃくちゃ強くなった。常に高密度の魔力を纏っており遠くからでも居場所が分かるくらいだ。この感じは覚えがある。

魔女様だ、魔女様を前にした時に感じる焼け付くような魔力の感覚。レオナヒルドがスピカ様の魔力を前にのたうち回ったような、あんな凄い魔力を今ラグナは放ち続けている。


なんでも常時極・魔力覚醒を薄ら保ち続けているようで、それがラグナにとってのデフォルトになったそうな。そして更にその極・魔力覚醒の限界を超えた姿『紅星魂体』と言う凄まじい状態も手に入れたようで……。


はっきり言って、今のエリスでも彼に勝てるか分からない。まぁ間違いなく並のセフィラじゃ彼を止められないくらい強くなった。本部に乗り込む前、もう少し強くなろう!と語っていた通り、彼は強くなった。


それと同じく強くなったのはもう一人。


「ラグナ〜、エリスちゃーん」


「お、デティ」


たかたかと足をあげてテントの中に入ってきたデティはややむすっとしたように顔をしかめて。エリス達の前に立ちどでかいため息を吐く。

彼女は先程までステラウルブスの方に行っていてもらったはずだが。


「ユグドラシルやステラウルブスの様子はどうだ?」


「どうもこうもうないよ、大損害。あらゆる施設が破壊されてる、直すのにおいくらかかることやら」


「そんなにか……」


「そもそも、攻め込まれることを想定していないのが悪いんだけどね。これは私の責任だから誰も責められないけど」


ステラウルブスにも敵が乗り込んできたようだ。乗り込んできたのはケテルとジョバンニ、その他多くのマレフィカルム兵。しかも一時はユグドラシルが真ん中からへし折られるような事態にも陥ったらしく……まぁ有体に言えばかなりやばいことになった。


けど……。


「デティ、貴方の魔術で直せないんですか?」


「魔術?ああ、金糸魔術?」


「金糸……って言うんですか?言ったじゃないですか、極・魔力覚醒してどんな魔術でも使えるようになったって」


デティも極・魔力覚醒した。それはあらゆる魔術を思うだけで実現すると言う凄まじいもので……。


「違う、魔力現象」


「え?魔術でしょう?金糸魔術って貴方も言ってたし」


「違う、魔術じゃない。金糸魔術っていう魔力現象、そんな私が正式認可してない魔術を使うわけないじゃないエリスちゃ〜ん」


「あ、はい」


魔術じゃなくて魔力現象ということにするようだ、ぶっちゃけ一緒だろって思うけど。けど魔術ってことにすると魔術導皇が正式な認可行程を行っていない魔術を使ったってことになるから色々まずいのか。


では改めて、デティの極・魔力覚醒はあらゆる魔力現象を可能にする覚醒。それは限定的な条件付きだが死んだ人間すら蘇らせる代物。一時はへし折れたユグドラシルを元に戻したり、壊れた街を戻したり、神様のような活躍をして見せたとのこと。


流石はデティと言える覚醒で、その真の力は未だ発揮されていないとか。少なくとも今の彼女の体から漂う魔力は今さっき極・魔力覚醒に目覚めた人間のそれじゃない。エリスと同じ、特殊な工程により大幅に成長したのだろう。


そんな彼女ならユグドラシルも何もかも戻せると思うのだが。


「金糸魔術も万能じゃなくてね、事象確定臨点って分かる?」


「分かりません」


「言ってしまえば壊れてから長い時間が経ったものは直せないの。星の意識がそれを認識して記憶したら誤魔化しが効かない、だから壊れてから時間が経ったものは私の力じゃどうにもならない」


「そんなもんですか?」


「そんなもん。どんなに昔のものでも直せるなら私は失われたディオスクロア王国や消し飛んだオフュークス帝国すら復元出来ることになっちゃうでしょ?」


「確かに」


デティの力も万能ではないようだ。ともあれ心強いことに変わりはない、ラグナとデティ、二人ともセフィラを相手に引かないどころか勝ちすらもぎ取れるようになったのだから。

奴らとの決戦も、問題なく行えるだろう。


(決戦か……)


エリスは目を閉じ、奴らとの決戦を想う。近い、ダアトとの決着が……。


「はぁラグナぁ、お金やばいよぉ〜」


「メルクさんが出してくれるんじゃないか?」


「あのね、あの人がお金を大量に持ってるのは市場の金の価値を抑制する為なの。あれだけ莫大な額を一気に市場に流したらインフレ起きちゃうよ」


「だっても、その莫大な額が必要なんだろ?じゃ誰が出しても結果は同じだろ」


「それはそうなんだけどねぇ〜。それに一気に修理用の資材を買い集めたら民間で使う分が無くなりそう」


「やるなら数年計画で分割払い、資材も都度買い揃えるってのが一番現実的かな」


「それか修理を公共事業にするのは?」


「それも悪くない、幸い捕らえたマレフィカルムもいるし連中の人手を使うのもありだ。まぁ何にせよ一気にってのは問題が起きる。錬金術でなんとか出来ないか、帝国の技術でなんとか出来ないかメルクさんとメグに相談してみようか」


「だね!……ん?エリスちゃんどうしたの?」


「え?」


ふと、考え事をしているとデティに顔を覗き込まれ、むむっと顔をしかめられる。


「なんか、魂がザワザワしてるよ」


「う……い、いやぁ」


「そう言えばダアトと戦ったんだよね。決着はついたの?」


うっ!そこを突いてくるか……やっぱり顔に出てるのかな、まぁ顔に出るよなぁ。エリスとしてもあれでよかったのか悩んでるし。でも……。


「あはは、すみません。ダアトには逃げられてしまいました」


「…………」


「アイツ逃げ足が早くて」


「そ」


かなり疑われているが、デティは口を丸開けて一音発して納得してくれる……。


ああそうだ、エリスは今嘘をついている。逃げられたわけじゃない、決着もついていない、何故ならあの時エリスは──。


────────────────


「だぁあああああ!!!」


「ガッ!?」


時は遡り、アルクカースでの決戦。ラグナにイノケンティウスを任せエリスはダアトと荒野で殴り合いに興じるように、怒涛の殴打戦に臨んでいた。

がしかし、それもまたエリスの勝利に終わる。ダアトの攻撃を掻い潜りエリスの正拳が奴の腹を捉え、遂にダアトの体がゆらりと揺れて。


「ぐっ……がぁ」


「ぜぇ、ぜぇ、ずぇ〜〜」


倒れ伏すダアトを見下ろし、エリスは息を整える。ようやくだ、ようやく倒れた、倒した!勝った!!疲れた〜〜!こいつ!魔力覚醒は体に負荷がかかるとか言いながらめちゃくちゃタフじゃないか!!


「ぅぶっ、げはぁ……はぁ、はぁ」


「おっと、そうでしたね」


ダアトの覚醒が解除された瞬間。彼女の口から大量の血が噴き出す。彼女の覚醒は強力な分、使う終わるとこうやって血を吹いて動けなくなるのだ。というわけでエリスはポーチからポーションを抜き取り、彼女に向けて差し出し。


「はい、ダアト」


「ッ!……なにをッ!考えている!!」


「おっと」


瞬間、ダアトは怒りの形相で血混じりの咆哮を上げ、手を払いポーションを落とそうとする。けど全力のパンチをかわせるエリスが今更そんなヘロヘロビンタなんか当たるわけない、手を軽く動かしポーションを守る。


「なにするんですか」


「それはッ!こっちのセリフだ!魔女の弟子エリス──ぶふっ!」


「あんまり無茶しない方がいいと思います」


「私は、羅睺の弟子だ……貴方の、宿敵だ!」


「そうですね」


ダアトはヨロヨロと立ち上がり、血が垂れる口元をそのままに、今まで見たことないような顔でエリスに食ってかかる。けどエリスはそれを真っ向から受け止め、引かない。


「私は!貴方の師匠の大敵!ナヴァグラハの弟子!それを!今助けるというのか!!」


「はい」


「何故ですか!!情けをかけているんですか!!」


「はい」


「だから!どうして────」


「貴方がエリスを幾度となく助けてくれたからです」


「ッ!!」


彼女には助けられた場面が何度かあるし、その時彼女は立場の話をあまり前面には出さなかった。ならばエリスも彼女を助ける時、そういうことを言いたくない。なにより。


「ダアト、エリスはお前を対等の相手と見ています。この世で最も対等な相手です、ラグナやデティとは違う、大切な相手です」


「…………」


「そんなお前と決着をつけたいのは、ナヴァグラハの弟子だから……じゃありません。ナヴァグラハの弟子だから倒さなきゃいけないってのはありますが、倒したい理由は違いますし貴方だって違うでしょう!」


「ッ……」


「エリスはエリスです!お前のライバルエリスです!だから……」


エリスはダアトの肩を掴み、睨みつける。お前はこの戦いに勝った方が負けた方の命を奪うと言いましたね?けどそれはあれです、お前が勝手に言ってるだけですから!!エリスはそんなことしません!寧ろ!


「これで二勝二敗、イーブンです。決着は次につけます、その時はダアト!……極・魔力覚醒を使ってください」


「ッまだ私に求めますか!」


「無論、言ったでしょう。対等がいいと、エリスだけ極・魔力覚醒じゃ対等じゃありません!」


「……眩暈がして来ますよ、エリスさん」


二勝二敗。東部で一敗、サイディリアルで一敗。フリードリスで一勝、そしてここで一勝。通算で見たらエリスとダアトの戦績は並んだ。つまりあれです、次でエリスの勝ち越しが決まるんです。なのにここで命を奪ったら戦績で並んだままじゃないですか!


そんなの嫌です!エリスはダアトに勝ちたいんです!完膚なきまでに!だから次は全力を出せ!!


「ダアト、この場は生かします。次で決着です」


「…………私の心配事が、馬鹿みたい」


「心配事?」


「私、貴方に完全に超えられたら、完全に勝敗が決まったら、見向きもされないんじゃないかと……心配してたんですよ?」


へ?そんな事心配してたのか?なに言ってるんだ、勝敗が決まったらって、そんなこと言ったらエリスはシンに勝ってますよ?けど今いい関係になれてますし、まだライバルだと思ってます。


まぁなんですか、つまりは。


「ライバルって、そういう使い捨ての関係じゃないでしょ。この関係で結ばれたら、一生です。もし次エリスが勝っても、お前はきっと強くなってエリスの前に戻ってくる。そしたらまた戦えばいい」


「一生、私と戦う気ですか?」


「はいっ!一生殴り合いましょう!ヨボヨボのおばあちゃんになっても!棺桶に入っても!ずっと!」


「ははは、死後もって、一生の範疇から足が出てますよ……でも。ロマンチックですね」


エリスの差し出した手を受け取るダアトの手に、ポーションが渡る。エリスはこいつをライバルだと思っているんです、殺すべき宿敵ではなく。


「次、エリスはマレフィカルムの本部に乗り込みます。そこでケリをつけましょう、ダアト」


「いいんですか?私が生き残ってるとまた今回みたいに手酷い被害を仲間が負うことになりますよ」


「いいんです、エリスの仲間はそんな弱くないですから」


「そうですか、なら……そうしましょう」


ダアトはエリスからポーションを受け取り、グビグビと飲み干すと。ある程度楽になったのか口元の血を拭いながらフリードリスの方を見る。


「どうやら決着がついたようなので、私は逃げますね」


「そうしなさい」


ラグナがイノケンティウスに勝ったようだ、信じていましたよ、ラグナなら勝つって。しかしラグナの魔力凄いな?これエリスも超えてるんじゃ……。


「それじゃあエリスさん」


そう言って歩き出したダアトは数歩で立ち止まり、ふとこちらを向いて。


「あの、一つ伺いたいのですか」


「なんです?」


「マレフィカルム本部の場所ってもう知ってますか?」


「……タロスの地下、じゃないんですか?」


「そこはもう移設しました。今は別の場所にあります」


「別の場所?どこですか、それ」


エリス達はこの後その本部の場所を探さなきゃいけないんだ、そこが見つからないとダアトと決着がつけられないし、シリウスが蘇ってしまう。教えて欲しいが……。


「流石に私の口からは言えませんよ」


「むぅ」


じゃあなんでそんな思わせぶりな話題を振ったんだ!今から捕まえてボコボコに殴り倒して聞いてやろうか!とエリスが歯茎を見せるとダアトはクスリと笑い。


「まぁなんです、こういう時は一番最初、『始め』に立ち返ってみるといいんじゃないですか?色々見えてくるものもあるでしょうし」


「始め……?ッ!」


そんなダアトの言葉を聞いて、一つ……思い当たるものが脳裏に過ぎる。まさか、こいつ。


「それじゃあ、楽しみにしてます。決着の時を」


「……はい!!!!」


「声デッカ」


それだけ言い残しダアトはフラフラと立ち去ってしまう。しかしよかったんだろうか、普通に敵を見逃して、うーん。みんなに知られたらなんて言われるだろう、怒られるかな。


これでよかったのかな。エリス的にはよかったが、魔女の弟子的にはまずかったのでは?なんか勢いとノリでやっちゃったけどよくなかったのでは。


(まずい、後から猛烈に後悔して来た……)


『アホかお前』


(ッ!?シン!?貴方さっきまでどうしてたんですか!?)


そんな中シンの声が脳裏に響く。さっきまで呼びかけてもうんともすんとも言わなかったのに。


『さっきまでお前の中に乗り込んできたダアトと戦っていた。病原菌と戦う白血球の気持ちがよくわかったよ』


(なるほど、勝ったんですか?)


『勿論消し去ってやった。それよりエリス。この後サイディリアルに立ち寄る予定はあるか?』


(え?さぁ)


『そうか……まぁいい、それより疲れた。私は寝る』


(あ、ちょっと)


それだけ言い残しもう一人のライバルも応えなくなってしまう。エリスの精神の中に入り込んできたダアトをシンが撃退してくれたのか。


……うーん、みんなになんて説明しよう。


────────────────


(言えないよなぁ、逃したってさ。自分で)


エリスはデティを前に苦笑いしながら、誤魔化す。ダアトを自分の手で逃しましたなんて、仕事をしたみんなに向けて言えるわけがない。ので、誤魔化すことにしました。不誠実ですが、ここは許してください。


「まぁいいけどさ、それより他のみんなは……」


デティがそう告げると、次々とテントの中入ってくる足音が聞こえる。どうやらみんな来たようだ。


「ん、揃っているな」


「どっちかってぇとこっちが揃ってるとも言えるが」


「皆さんお疲れ様です」


「どうやら皆様ひと段落したようでございます」


「みんな!」


入ってくるのはメルクさん、アマルトさん、ナリアさん、メグさんだ。みんなセフィラや魔神との戦いを乗り越えてなお元気いっぱい。そのまま各地で復興の手伝いやら調整やらをしていたのだ。


「ラグナ、復興の目処はなんとか立ちそうだぞ。ベオセルクさんが気合を入れてくれている」


「ラクレスさんもすげーやる気だぜ、まぁすぐに再興ってわけにゃいかねぇだろうが。まぁ任せてもいいと思うぜ、帝国もデルセクトも力を貸してくれるみたいだ」


「けど城の上に残ったフォルミカリウス改の残骸はどうするか協議中みたいです」


「その協議に国王の俺呼ばれないのか」


なるほどとエリスは大きくどうやら復興は順調に進んでいるようだ、伊達じゃないぞアド・アストラ。流石は世界中の力を結集した秩序維持機関、本領発揮と言えるだろう。


「それでさ、デルセクトの方はどうなんだ?アーデルトラウトさんから続報は?」


そこでラグナがメグさんに問いかける、まだ戦いは完全に終わったわけじゃない。デルセクトに現れたエクス・ルナ・スキエンティス。あちらがどうなったかの続報がない、敵は凄まじく強いようだが……。


「それがまだ連絡がなくて、ユグドラシルの転移機構が壊されてしまったせいで連絡を取るのに苦労しているようです」


「そうか、流石にアーデルトラウトさんがいるからやられたってのはないと思うが」


「エリスが行きましょうか?」


「いえ、流石にエリス様が出る幕はないでしょう。というか貴方は既にアド・アストラの切り札なのですから安売りは出来ません」


断られてしまった、別にエリスは出てもいいんだけどなあ。それに安売りって、安売りも何もデルセクトが危ないんじゃないのか?まぁそれがメグさんの判断なら従いますが。


「この分なら、マレウスに戻ることもできそうだな」


ラグナがそう呟く、マレウスに行くか。この状態の国を残して……と思うが、どうせ後二週間そこらで帰ってくるんだ、だったら世界救ってからでも遅くはないだろう。


「だな、今日中にでもマレウスに戻りマレフィカルムにこの件の責任を取らせることが出来るだろう」


そう力強く呟くメルクさんの一言でみんなの目つきが変わる。結局今回は一人もセフィラを倒しきれなかった。ケテルには逃げられ、ホドも先程捜索に行ったらいなかったそうだ。

コクマーもネツァクもレナトゥス……イェソドも見つからない。上手く逃げられた格好になる。


……そしてダアト、これはエリスが逃しましたが。決着は近いんだ。


「ダアト……」


そうエリスが闘争心を燃やしながら呟くと。


「ホド……」


「ネツァク……」


「コクマー……」


「ビナーめ……」



「ら、ラグナ。こいつらみんな燃えてるぜ、なんか宿敵関係みたいなのがもう生まれてる。これやばくない?俺達置いていかれてね?」


「みんなやる気十分だな。よろしい」


「よろしいかな、よろしいかなこれ。このままじゃあれじゃない?俺達余りものみたいな奴と戦わせられんじゃね?やだよ俺、やるならかっこいい奴と戦いたいよ」


みんな燃えている、今回の一件でみんな宿敵というものが出来たようだ。セフィラ……全員かなりの使い手だがエリス達だって強くなりましたからね。今や将軍にも引けを取らない大戦力軍団だ。


さぁ戦え!魔女の弟子!そしてボコせ!マレフィカルムを粉砕だ!!


「さて、というわけで」


するとメグさんがこちらを向き直り。


「そろそろでは?」


「ん?何が?」


ああそろそろか……ってラグナ!


「忘れたんですかラグナ!もう!今朝あれだけ言ったのに!」


「へ?ああ!あれか!悪い、忘れてたわけじゃないんだよ。ただこう忙しくて上手く結びつかなくてさぁ」


「もう、友達のことなのに!」


「怒らないでくれよぉ」



「尻に敷かれてんぜメルク」


「もう結婚すればいいのにな」


エリスは腕を組んでそっぽを向く。ラグナったら、忘れるなんてあり得ません。エリスはこの時を楽しみにしてたんですから。


……そう、今アド・アストラ、延いては魔女大国全体に暗澹とした空気が漂っている。戦いには勝ったが被害が出た、それはアド・アストラの絶対性を揺るがすものになった。

けど、そこに重なるように一つの朗報が生まれたのだ。


「じゃあ、早速いきましょうか、オライオンに!」


「ええ、『教皇就任式』に参りましょう」


それは、『ネレイド・イストミアの第二代テシュタル教皇就任式』である─────。


……………………………………………


「なんか久しぶりにここに来たな」


「前来た時は全員で乗り込むぞ!って時でしたからね」


「ふむ、久しいな」


そうして時界門を潜ってやってきたは灼熱のアルクカースから一転、極寒のオライオンだ。場所はテシュタル神聖堂。かつて師匠を追いかけてエリス達が乗り込んだ場所に、エリス達は再びやってくる。


相変わらず青黒い石造の室内は寒く、静謐な空気はさながら吹奏楽器の如く廊下を吹き抜け音を鳴らす。この感じも懐かしい。


一応復興の最中で、指揮を取る人間がこんなに抜け出して大丈夫か?と思いもしたが、そこはアド・アストラという組織のいいところ。指揮を取れる人間は多くいる、ラグナが抜けてもメルクさんが抜けてもデティが抜けても大丈夫。


だからエリス達はみんなでこうやってオライオンに来れるんだ。


「にしても、まさかネレイドが教皇に就任するとはな」


「あれだけ嫌がってたのにどんな風の吹き回しかねぇ、別にいいけど」


メルクさんとアマルトさんの話が耳に入る。そう、ネレイドさんはテシュタル教の教皇に就任することになった。本人は『私はそういうのに向いてない』と言っていたが、立場的に彼女は初代教皇リゲル様の弟子であり義理の娘。


教皇は国王のように世襲制ではないとは言え彼女の活躍と人気ぶり、そしてネームバリューから考えるに彼女以上の適任はいない。今まではゲオルグさんやベンテキシュメさんが代理として働いていたが……この度正式に就任する覚悟が決まったそうだ。


「今回の一件で、ベンテキシュメが死にかけたの。それで彼女の命を危険に晒すくらいなら私がって、ネレイドさんが言い出したの」


「ネレイドらしいな、ってことはベンテキシュメは神将復帰?ネレイドは神将引退か?」


「ネレイドさんは神将の座から退かないみたい。教皇兼神将だって」


「いいのかねぇ、教皇って実質オライオンのトップだろ?それがお前、戦場に出るなんて〜……いやなんでもない。国王やら首長やら魔術導皇が出てる現状でそれ言ってもおかしいだけだわ」


「まぁ、彼女は戦場が似合っているしな」


エリス達はそう談笑しながらテシュタル神聖堂の廊下を歩く。あちらこちらで信徒の皆さんが慌ただしく動いている。どうやら就任式は近いらしい。


なんて考えていると、ナリアさんが一歩前に出て。


「いやぁ〜それにしてもやっぱりいいですね、ポルデュークは。少し寒いですが僕はこれくらいの気候が一番過ごしやすいですね!」


そう言いながらクルクルと踊りながらステップを踏んでいる。彼的には熱い気候は肌に合わない。最近は徐々に寒くなる冬場ではあるが、アルクカースは基本暑いですしね。彼からすればポルデュークの空気が恋しかったことだろう。


「はぁ、私は正直寒くてたまらないよ」


「デティ、防壁を使えばいいじゃないですか」


「使っても寒いの」


因みにエリス達はみんな防壁で空気の壁を作り断熱を実現している。ポルデュークに来た時は無理だろそんなのと思ったが、それもこうやってみんな出来るくらいまで成長できたわけだ。

だから昔みたいにもこもこの服を着る必要はない。とはいえ完全ではないので若干寒いのは事実ですが。


「そういやラグナ、お前寒い寒いとか言わねーな。昔はあんなにガタガタだったのに」


「へ?ああ、まぁ。強くなったからな、もう平気だ」


「そういう問題かね」


ラグナは一番寒さに弱かったのに、今じゃなんでもないかのように歩いてる。何なら防壁も展開してない、寧ろそれは逆に心配になりますよラグナ。


そうやって廊下を歩いていると、ふと。廊下の奥に扉が見える……それと共に、その前に立つ三つの影。


「ようやく来たな、神敵」


「む」


「フッ、冗談だ。ここでこのメンツを見るとどうにも昔を思い出してな」


扉の前に立ってエリス達を待っていたのは……三人の神将。ベンテキシュメさんとトリトンさんとローデさんだ。三人も神将の服を着てエリス達を待っていた、それはかつてオライオンを旅した時を思わせるようだ。


あの時から時が経ったとはいえ、こういう軽口を叩ける間柄になれたんですね、エリス達は。


「お久しぶりです〜!ローデさん〜!」


「ナリア君〜!久しぶりですね〜」



「トリトン、ベンテキシュメ。待たせたか?」


「いや、今から就任式だ。中に入れ、奥で御大将が教皇就任をやる」


「じゃあ、お邪魔して。就任式って何をするんですか?」


エリス達はベンテキシュメさん達の案内で扉を潜る。すると奥にはステンドグラスに囲まれた荘厳な空間に人が押し寄せている。ここは祈りの間……ではない、何のための部屋かは不明だが凄く綺麗だ。


そして、その中心には白いドレスに身を包んだネレイドさんが見える。それを見てエリスが抱いた二つの感想。


一つは綺麗だという率直な話。もう一つはこんな急な話なのによくあの人用のドレスがあったなという話、ネレイドさんの服は基本オーダーメイドだが。或いはリゲル様がこの時を見越して作っておいてくれたのかな。


「別に大したことはやらねぇよ、ただ神様に今から教皇になるぜって宣言するだけだ」


「それと、国民に挨拶もしておくかな。教皇は民の代表者だ、急な話だがエノシガリオスのみんなが駆けつけてくれている」


チラリと窓の外を見ると、トリトンさんの言う通り多くの人が詰めかけている。そりゃそうか、なんせ史上初めて行われる教皇就任の儀。今まではずっとリゲル様がやってきたそれを今後はネレイドさんが受け継ぐことになるのだから。


(前日までは神将として戦場に立ち、今日は教皇として民の前に立つか。あの人の背には多くのものが乗っているのに、ネレイドさんは本当に強いな)


そうしている間に、エリス達は揃って壁際に立ち、テシュタル教関係者に囲まれたネレイドさんを見つめる、天から差し込む光に照らされた……生きる神を前に。、


「では、これより教皇就任の儀を始める。ネレイド・イストミア、準備はいいか」


「……はい」


そして、その前に立つのは枢機卿ゲオルグさんと先代神将カルステンさん。昔ほどの威勢の良さは感じない、もうすっかりおじいちゃんって感じの二人だが、娘も同然のネレイドさんの晴れ舞台を前に二人は目元が赤くなっている。


「では、これより。星神王テシュタル様に宣言を」


「……テシュタル様」


そして、彼女は見上げる。ステンドグラスに書かれた八つの星を背に立つ巨人の像を。あれテシュタル様ですね、マレウス東部にもありましたねあの像、ちょっとデザインは違いますが。


「我、ネレイド・イストミアは。貴方を信ずる者達を導き、貴方が作り上げたこの地上を、星を守り抜くことを。この場、この身に誓います「


そう言って両手を合わせ、一礼する。するとみんながパチパチと手を叩き……え?


「では、これが教皇の錫杖だ。失くすなよ」


「失くさない」


「折るなよ」


「頑張る」


「では行け、新たなる教皇よ」


なんか空気が、あれだ。もう終わった感がある、え?これで終わり?これで就任式って終わり?


「ベンテキシュメさん、これで教皇就任式って終わりですか?」


「ん?ああ」


「もうちょっと色々あるんじゃないですか?」


そうエリスがベンテキシュメさんの耳元で聞くと、彼女はぐぇと表情を歪め。


「仕方ねーだろ、正式な教皇就任式なんてどうやってやるか分からねーもん」


あ、そうか。テシュタル教の教皇が入れ替わるなんて史上初めてなのか。それこそ前の教皇就任式を知るのはリゲル様だけだから。どうやったらいいか分からないから取り敢えずそれっぽいことをやってるのか。


「あたしの時はそれこそ書類にサインしただけだし。まぁ、これからじゃないか?」


「これから?」


「そう、これからは人間が教皇をやる。魔女様と言う存在への依存から脱却し、人間が教皇をやる。そうなれば就任式なんてのは数十年に一度単位で繰り返されるし、繰り返すうちに伝統ってのは出来上がっていくだろう」


「……そうですね」


今までは魔女が担っていた、背負っていたものを。これからは人間が背負っていく、人間は老いるし衰える。故に時間が経てば別の誰かがやることになる。

それこそが、魔女の依存からの脱却。そして魔女はしがらみから脱却する、か。


(……イノケンティウス、貴方が望む世界へまた一歩近づきましたよ)


彼を思う。魔女世界のことを真摯に考え敵対という道をとっただけの同志を。この教皇就任を、彼はどう捉えるのだろうか。

それでも確かなのは、彼の語った人間の世というものに近づく一歩は。今この就任式で行われるのかもしれない。


「では教皇ネレイドよ。民衆に挨拶を」


「……うん」


そうしてネレイドさんはドレスを揺らし、歩き出す。ステンドグラスの向こうにあるテラスへと。手には教皇の杖、彼女の大きさからするとややアンバランスな小ささに見えるが、それを片手で握って……歩き出す。



『新教皇就任おめでとう〜〜!!』


『ネレイド様〜!これからオライオンをよろしくお願いします〜!』


「みんな」


テラスに立てば、ワッと街が騒がしくなる。彼女はそもそも好かれているからね、街の人達も大盛り上がりだ。


「……皆、ありがとう」


そしてネレイドさんは錫杖を掲げながら、高らかに声を上げる。


「…先日、アルクカースでの戦争が終わったことは皆聞き及んでいるだろう。マレフィカルムという恐ろしい存在が我々の秩序を乱すため、混沌を撒き散らしに来たのだ。それを我々は振り払った!」


ネレイドさんの演説は続く。皆が拍手をやめシンと静まり返る中に彼女の声だけがぼんぼんと響く。というか拡声魔力機構を使わず街全体に届かせてるよ、凄いなネレイドさん。


「だが、忘れないでほしいことが一つある。我々は人である、人間である、敵と味方である前に人間である。我々もマレフィカルムも同じ人間なのだ」


そしてそれは、彼女の祈りにも似た言葉となって。


「私達の秩序は、誰かの混沌になり得る。私達の平穏が、誰かの生活に影をもたらす」


今回の戦争に、ある種の結論を出す。


「それをどうにかすることは、悲しいが。出来ない」


それは非情な現実でもある。エリス達がいる限りマレフィカルムという存在は生まれるし、彼らをみんな救う事はできないやしない。それが答えだ、だが。


「けれど、我々は神の下、星の上、生まれた人間同士。ならばこそ、……彼の信じた秩序と未来には。最大限の敬意と尊重を持って、今この一瞬一瞬を責任持って生きる!それがこの世界を守るために散った戦士達への手向であり、この世界を変えようと駆け抜けた彼らへの最大限の敬服である!」


だからこそ、想うこと。イノケンティウス、彼の信じた未来をエリス達は否定したが、彼の信じた未来を完全に捨てることはなく、ただただ尊重し……記憶に留める。


それが、エリス達が送れる唯一の花なのかもれしない。


「故に、私は教皇として!皆の秩序を守り!皆の未来を守る為に尽力することをここに誓う!!教皇として!!神に誓う!!」


その言葉と共に再び世界は万雷の喝采に包まれる。世界は残酷だ、過酷で恐ろしく、悲しいことで溢れている。だからこそ人は駆け抜ける、少しでも良くしようと、少しでも良いものであると信じて。


駆け抜ける途中、ぶつかることもあるかもしれない。蹴落とすことになるかもしれない。


だが、エリス達が駆け抜けた八つの同盟を巡る戦いで潰えた八つの未来は、エリス達の中に残っている。


「おめでとう、ネレイドさん」


エリス達は手を叩く、エリス達が信じた未来を祝うように、そして失われた八つの未来を見送るように。


出来ることなら、永遠に。この世界が続くように……祈って。




……………………………………………




「兄ちゃん、イノケンティウス様……」


トボトボとアルクカースの平原を歩く。戦争は終わった、俺達の敗北で終わった、魔女大国は強かった、理不尽なまでに強かった。無敵だと思われたゴルゴネインは粉砕される形で敗北し、一千万もいた軍勢は半分近くに減った。


イノケンティウス様は言った、戦いが終わったら逃げろと。それが勝利であれ敗北であれ変わらないと、イノケンティウス様がいなくなった以上オレ達に奴らに対抗する手段はないから。


「バティスタ、これからどうするよ」


「知らねーよ、こっちが聞きたい」


隣に立つブラッドに声をかけられて、項垂れる。一応十天魔神はみんな連れ出せた、けど兄ちゃんは見つからなかった、途中からどこかへ行ってしまって……置いていかざるを得なかった。

オレは最愛の兄と敬愛する王を失った、お先真っ暗だ……。


「フォルミカリウスもなくなっちまった、戦力も大幅ダウンだぜメーン……」


「まさか魔女大国があんなに強いとは、驚きよ」


「なんとか生き残ったって感じだよねー……」


デスペラードもバフォメットもペティも全員気落ちしている。他のみんなもそうだ、簡単に言っちまえば絶望、それがオレ達の脳内を駆け巡る。今から、踵を返して魔女大国相手に死ぬまで戦おうか、その方がむしろスッキリするんじゃないか。


いや……でも第一神も神王もいなくなった以上、暫定的に次の神王はオレだ。神王がそんな無茶苦茶をやってもいいのかなぁ。


「ここらが、潮時かもしれないな」


「は?ホプキンス。お前何を……」


そんな中、ホプキンスが体を引きずるように歩きながら、そう言う。ここらが潮時と。


「今回のゴルゴネイオンははっきり言って歴代最強クラスの戦力を抱えていた。そこに大量の傘下組織に加え、セフィラも加え、はっきり言ってこれはマレフィカルムの全戦力を使った戦いだった。そしてそれに負けた……」


「だから、諦めるってか?」


「ああ、少なくとも。ゴルゴネイオンは解体だろう」


「………」


オレ達はセフィラにも弓を引いている。このままマレフィカルムの本部にも戻れない、お咎めなしは無理だ、ならせめて……責任をとって組織を解体するのが筋か?

数百年続いたゴルゴネイオンの歴史に幕を下ろすのが、オレの仕事?そんなの嫌だ、嫌だけど……これはもう。


「……そうだな、分かった」


ホプキンスの提案に首を縦に振り、ゴルゴネイオンの解体を決断する。もうゴルゴネイオンには何かを支える力はない、無責任かもしれないが安全な場所まで逃げたら解散を宣言して……。



「お、いたな。ゴルゴネイオン」


「ッ!」


瞬間、正面から何かがやってくる。声が聞こえる、もしやアド・アストラか!と思ったが違う。アルクカースの地平を引き裂くように現れたのは……黒い車の群れ、パラベラムの駆動車達?いやその上に乗るのは。


「よう、テメェらゴルゴネイオンだろ、そこのハゲ頭にゃ見覚えがあるぜ」


「お前は……!バシレウス!?」


車の上に座りながら現れたのは、魔王バシレウス。別名『王国』のマルクト……セフィラの一員だ。今回の戦争に参加していなかったはずのセフィラがここに来た、それは恐らくオレ達を始末に来たのだ。

そうとしか考えられない、ダアトが報告してガオケレナが差し向けたのだ。現状マレフィカルムの最強の男を。


「テメェ、オレらを殺しに来たのかよ!!」


「おうそうだ!全員ぶっ殺しに来たぜ!!」


ドスンと音を立てて車から降りたバシレウスはポケットに手を突っ込みながら……ふと、周りを見渡し。


「で?相手は?アド・アストラはどこだ?」


「は?」


「は?じゃねぇだろ、なんだその木の抜けた返事は。戦争やってんだろ!一番強え奴決める戦争を!バカクソが、一番強い奴を決める戦いになんで最強の俺を呼ばねぇんだよ」


何言ってんだ、こいつ。と言うかなんか話が噛み合わないぞ、そもそも。


「終わったぞ、戦争は」


「なにっ!?」


「イノケンティウス様は死んだ」


「ああそう、ってか戦争終わったのかよ!早く終わりすぎだろ!ここまで急いできたってのに……はぁー、バカバカしくなってきたぜ」


乗り遅れかよとバシレウスは急に白けた顔をして、冷めたように頭を掻いてクルリと踵を返してしまう。い、いやいや!なんなんだこいつ!!


「お、おい!オレ達を殺しにきたんじゃないのかよ!」


「戦争終わったんだろう、でテメェらの顔見りゃ分かる、負けたな?負け犬にゃ興味はねぇ。ボコボコにされた負け犬を痛めつけても情けないだけだ」


「ガオケレナに指示されて、オレ達を始末に来たんじゃ……」


「俺がガオケレナの指図を聞くと思うか?いや聞くこともあるが、でも十回に八回は無視する。つーかそもそもが命令されてねーから」


「じゃ、じゃあなんで来たんだ!?」


「なんか戦争やってるって聞いたから」


なんじゃそりゃ、こいつ……アホか!?そんな気分気ままにここまで来て戦争荒らす気でいたのかよ!

噂にゃ聞いてたがバシレウス、こいつとんでもねぇ奴だな。総帥が一切手綱を引けてねぇって話もあながち嘘じゃなさそうだ。ってことは敵じゃねぇのか……。


「仕方ねぇ、戦争終わったんならもう帰るか……」


「キング、今ならアド・アストラが弱ってるかもしれませんぜ!俺達で叩き潰してやりましょう!」


「馬鹿野郎、そんなの勝っても『ゴルゴネイオンの後で疲れてただけー』って言い訳されんだろうが!俺ぁそういう言い訳の余地が残る勝ち方は好きじゃねぇんだよ!どの道手段選んでも選ばなくても勝てるんだ、なら別に今じゃなくていいだろ」


そう言って踵を返すバシレウスの背中から漂うのは……圧倒的自負と自信。たった一人でラダマンテスの荒くれ者を纏め上げるカリスマ性、なるほど。イノケンティウス様が次期魔女狩り王に使命するだけは……。


「ああそうだ」


するとバシレウスは肩越しにこちらを見て。


「お前ら、イノケンティウスが死んだんだろ?行く場所ねぇなら俺が面倒見てやろうか」


「は?」


「どの道イノケンティウスからはラダマンテスの連中押し付けられてんだ、なら今更お前ら程度増えたってなんともねぇ」


「な、なに言ってやがる!オレ達がお前の部下になれってのか!セフィラの部下に!!」


「セフィラのじゃねぇな、俺のだ」


バシレウスは車の前面に乗り、玉座のように腰を落ち着けると、歯を見せ笑う。平原に吹く風すら味方につけるような彼は手で膝を叩き。


「別に強制はしない、けどどーせやる事も行く所もねーなら俺といた方が好きにやれると思うぜ」


「誰が、お前なんかの……お前らセフィラは!シリウス復活を第一にしてんだろ!!」


「シリウス?……あー、なんかどっかで聞いたな。ああ、あいつか。この間倒した奴」


「倒した?」


「コルロの奴が復活させようとしてたから、叩きのめした。あの世に行った人間が今更未練がましく戻ってくるなってな」


「邪魔したのか!?シリウス復活はセフィロトの悲願のはず!」


「なんでセフィロトの話をすんだよ、俺の話だろ」


「お前もセフィラだろ!?」


いや、これがバシレウスの価値観なのか。自身の立場を分けて考える、セフィロトの大樹の一員でありながら、セフィロトとは相反する思想を持つ。それはこいつの中では矛盾していないんだ。

よく言えば天衣無縫、悪く言えば傍若無人。……そうか、そうなのか。


(だから、イノケンティウス様はこいつを次期魔女狩り王に)


イノケンティウス様は分かっていたんだ、立場と責任に縛られている自分とは異なり、それらに一切縛られる事なく人を惹きつけるこいつの性質を。だから……そうか、イノケンティウス様は自分が死んだ後のことも考えて。


「ひとつ聞きたい」


「なんでハゲ頭、テメェムスクルスと感じが被ってる、俺の部下になるなら髪生やせよ」


「ここに来るまで、どうやってきた」


「え、車で」


「マレウスからか?だが間にはデルセクトがあったはずだが」


「ああ、全部ぶっ潰してここまで来た。途中将軍とかなんとか色々襲ってきたが、軽く小突いたら泣いて逃げて行きやがった。あんな雑魚になんかもう興味もねぇ」


(マジかよ、将軍って。この間の戦いに参加してなかったアーデルトラウト達のことだよな!?それを、小突いて追い返した!?つーかこいつよく見たら無傷じゃねぇか)


デルセクト軍を単独で跳ね返し、ホドとケテルに匹敵する将軍を寄せ付けない。一体どれほどの強さなんだ、どこまで強くなったんだこいつ。


「バティスタ、これはもう決まりじゃないか?」


「う……」


「どの道このままではゴルゴネイオンは立ち行かない。だが彼の下なら、少なくともここにいる全員を見捨てるような真似はせずに済む、それこそがイノケンティウス様が望む結末じゃないだろうか」


「……確かに」


今ここで解散すれば、何人が生き残るか。路頭に迷うことに変わりはない、それはあまりにも無責任だ。転がり込んできたものでも、望まないものでも、それでも俺は今このゴルゴネイオンを指揮する存在なんだ。


なら、選択しなければならない。


「バシレウス……頼む、ゴルゴネイオンはもう一人では立っていられない。だからお前の組織に入れてくれ」


「いいぜ」


バシレウスは軽く返事をして頷き、以降何も言わない。しかし意外だ、まさかあのバシレウスが受け入れてくれるとは。


「なんだよ」


「い、いや。暴君と聞いていたから……まさか受け入れてくれるとは」


「別に受け入れるとか取り込むとかそういうつもりはねぇよ。ただなんつーのかね」


バシレウスはあーとかうーとか言いながら言葉を選びながら空を見て。


「俺ぁ責任とか命令に縛られんのが嫌いだ、けど自由に縛られるのも嫌いだ。俺は俺の思うように好きにやりたい、俺が好きにやるんだから他の奴らも好きにやればいい。そう思ってるだけで、まぁ一応こういう連中の代表やってんだから他の奴らが好きにやれるようにしてやらなきゃなんねぇだろ?」


「つまり……」


「自分が好きにやるために、出来る限り多くの人間にも好きにさせたいと」


「そんな所だな」


真なる傍若無人、他者に揺るがされる事なく自信を貫き、そして自身が好きにするからこそ他者にも好きにさせる、責任を与えられる事も与える事もしない。それは究極の自己責任である究極の自己完結。……即ち自由。


イノケンティウス様とは真逆の性質だが、それでもあの人が望んだものは……あるいはこういう──。


「じゃあ帰るか、おいお前らついてこいよ。ちなみに車の空きはちょっとしかねぇから他は歩きな」


「なぁ!バシレウス!」


「ああ?」


早速マレウスに引き返そうとするバシレウスの車の屋根にオレは飛び乗ると、車の前面に寝そべるバシレウスはうざったそうにオレを見る。けど、聞いておきたいことがある。


「もし、ガオケレナがシリウスを復活させようとしたら……いや、もしシリウスが復活したら!どうする!」


「シリウスがぁ?……あいつって確かあれだよな、史上最強とかなんとかって」


するとバシレウスはニタリと牙を見せて笑い。


「決まってんだろ、教えに行く。俺こそが最強だってな」


その答えを聞いた瞬間、オレは理解する。こいつなら問題ない、こいつなら従ってもいいと。魔女は恐ろしいやつさ、けどこいつはそれと相対してなおここまで啖呵を切れるなら……言う事なしだ。


兄ちゃん、イノケンティウス様、オレ……二人分までゴルゴネイオンを生かすよ、そのためにこいつと歩くよ。だから、見ててくれよな。


「そうかい!なら今日からアンタはオレ達の王、いやキングだ!!」


「キングって言うな!……まぁ、呼びてぇなら好きにしろ」



───────こうして、バシレウスの戦いも終わった。多大な被害を出したアド・アストラ、壊滅し解体されたゴルゴネイオン、双方痛み分けに終わる中……。


唯一、バシレウスの組織『エクス・ルナ・スキエンティス』のみが肥大化する。今回の戦争に帯同していた他の八大同盟の傘下組織達、そしてゴルゴネイオンそのもの。他にもクロノスタシスの残党や各地の反魔女勢力を飲み込み急速に肥大化し。


いつの間にか、マレフィカルム全体の八割を締める超大規模組織へと進化していくのだった。


それは、新たな禍根、混沌の種となるのか……或いは──。

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エリスとダアト、愛想尽かされそうで怖いだの一対一じゃないだなんだと、ガワだけ見ると花の乙女の会話だか、中身は仁義だ勝負だタイマンだとラグナとイノケンティウス顔負けの雄みが… あの余裕綽々なダアトが感情…
その壱 なんでも常時極・魔力覚醒を薄ら保ち続けているようで、それがラグナにとってのデフォルトになったそうな。そして更にその極・魔力覚醒の限界を超えた姿『紅星魂体』と言う凄まじい状態も手に入れたようで……
流石バシレウス…… そろそろ手綱に戻って貰わないと制御効かなくなりそう。元々きいてないけど。 バシレウスのマナーとかまだ大丈夫なんだろうか……かつてのクチャラー時代に戻ってないか心配 シリウスは人間判…
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