849.魔女の弟子と戦場の運命を握る者達
『私は戦士として戦場で死ぬ。それが戦士たる私の務めであり、そうする事でしかこの国を守れない』
幼き日の記憶、母は俺にそう語った。
『けれどラグナ、お前は違う。お前は私と違って王族の血を引いている、お前にはお前の守り方がある』
アルシア・グナイゼナウ。現アルクカース国王ラグナ・グナイゼナウ・アルクカースの実の母であり元第一戦士隊の隊長を務めていた彼女はひたすらに強く、ひたすらに実直で、その直向きな愛国心と頑強な肉体にて王の寵愛を受けた根っからの戦士。
それが俺の母だった。
『王の子として、国を導きなさい。戦士の子として、国を守りなさい。私はお前にそれを求める、ラグナ』
母は強く、逞しく、俺にとっていつまでも変わらず憧れの人でもある。そんな人が言うのだ。
『けれどもし。負けそうだ、挫けそうだと思ったなら……』
俺と肩を掴み、ジッと紅蓮の瞳でこちらを見つめながら……。
『ちょっとだけ、振り返ってみなさい。たまには守っているもの、背負っているものを確認してみるのもいいかもしれない』
と、母は俺にそう言った。それが母が戦地で討死する数日前に俺に残した言葉であり、俺が王を目指したきっかけでもあった。
……俺は、戦士と王の二人の血を継いだ男だ。故に戦王、戦の国アルクカースの王である。
そして今俺はアルクカースどころか、時代を背負っている。新たなる時代を、俺が。
「ふぅーー!まだまだいけるぜ、イノケンティウス」
「以前とは動きがまるで違う。体力面か、魔力面か、いや双方共に変化はない。ならば感情面か」
燃え上がる地獄のような世界の中、俺は荊の上に飛び乗りイノケンティウスの猛攻を防ぐ。臨界魔力覚醒内部での戦い、謂わばイノケンティウスの懐の中とも言える最悪の状況下で俺は今も耐え抜いている。
以前は面食らって一発でやられたが、一発でやられると分かっているならそれを織り込みで動く。直撃は貰わないように捌き、相手の大技はなるべく阻害し、立ち回りにのみ気を使い長期戦上等で動く。おかげで今回はまだやられていない。
いや、それだけがまともな戦いができている要因とは言えないな。
(妙に勘が冴えてる、いつも以上に力が出る。これがイノケンティウスの言ってた英雄として完成が近いってやつなのか?)
イノケンティウスが腕を振るえば、それだけで天を引き裂く火球が雨のように降り注ぐ。高速で動く荊の群れを掻い潜り、踏み締め走り、火球を無視して駆け抜ける。火球は対処しなくていい、荊の方は下手に受けると致命傷になるからそっちにだけ注意をしていけばいい。
「ふむ、属性は効果なし、魔法も物理的に打破する。これは仕留めるのがやや難しいな」
「悪いが、今回は簡単にやられるわけにはいかねーんだよ!」
「そうか、それならこれはどうだ」
パンッとイノケンティウスが手を合わせると、奴の左右に巨大な柱が現れる。大地を引き裂いて柱が乱立し並び立ち、それらが一斉に大地を焼き焦がす光線をばら撒き始める。
「うぉっ!?この光線……普通に痛い」
刹那、頬を掠める光線。属性攻撃は効かないはずなのに頬に傷が入り血が流れる。いやおそらくあれは光線の形をとっているだけで、斬撃そのものの概念が混ぜられているのだ。流石に斬撃は効くぜおい!
「けど!イノケンティウス!あんたさっきから戦い方を見てたが、あんまり臨界魔力覚醒の扱いに慣れてないように見えるな!!」
しかしそれでも、光線くらいなら避けられる。雨霰のように降ってこようが頑張れば突破は可能だ。
威力の高さ以外に、特筆して凄まじい点はない。この覚醒の内容だけで攻め立ててくる感じ、思えがある。……そう、魔力覚醒したての覚醒者だ。
思ってみればそれもそのはず、奴が臨界魔力覚醒を使うのはこれで三度目。エリスの時には攻撃を行っていないから戦いに用いるのは二度目。いくらイノケンティウスでも使い慣れるには時間が足りていなさすぎる。
「ゴリ押しで勝てるほど、甘いと思われてんのか?俺はさ!」
「む……」
クレプシドラと戦った時感じたのは、その理不尽さ以上に『一体どんだけ鍛錬積んだのか分からない』と言うレベルの魔力運用の巧みさ。それはイノケンティウスも持ち合わせているはずだが、その旨みが完全に臨界魔力覚醒により潰れている。
故に、これは軍団を相手にするには効果的だが、エリスのように高速で動き続ける相手には寧ろ粗の多い雑な攻撃に成り下がるのだ。
ゴリ押しだ、単なる。範囲攻撃は強力だが、見極めればなんとでもなる。
「確かに、余はまだこの覚醒の本質を掴んでいない、真髄を知らない。ただ目覚めただけに過ぎない……だがラグナ・アルクカース。何故余がその段階にも関わらずこうして命懸けの場にこの力を持ち込んだか分かるか」
「さぁな!見立ての甘さか!」
「違う、確かにこの覚醒の本質は知らないが……それでも」
瞬間、イノケンティウスが手の形を変える、指を広げて手の平をつけるように両手を合わせ。
「余は、世界というものを知っている、お前よりも深くな」
空間が歪む、光の軌道が変わる。光線が円を描くように、嵐のように飛び、逃げ場を奪い一気に俺の体を切り刻んでいく。
「臨界魔力覚醒は他の覚醒と異なり、その人物の心情や経験、記憶がより色濃く反映される。より多くを知り、より多くを感じた覚醒者の臨界魔力覚醒の方が一層強力となる」
「ぐっ!!」
「余は知っている、何もない平原で身を打ちつける嵐雨の恐ろしさを。まるで矢が身を裂くように冷えた体に突き刺さる痛みを」
俺は地面に足を突き、両手で光線の雨を防ぐことしか出来ない。周囲に遮蔽物はない。ただただ手の届かない場所から一気に降ってくる光の斬撃が体を裂いていくんだ。
「余は知っている、嵐が過ぎ去り、雲一つなく晴れ渡る空の恐怖を」
一転、光線の雨が消え去り。天から光が差し込む、見れば紅光が形をなし超巨大な太陽がすぐそこに出現していた。
そこから発せられる熱は、俺の衣服を焼き、汗が滴る。自然現象に疎くなっている俺でさえ、苦しいと感じる灼熱が襲う。
喉が渇く、なんだこの光……!
「ゔっ……!」
「暑く、苦しく、あれほど恐ろしかった水を求める理不尽。脳の中心から発生するような熱は判断力を奪う」
膝を突く、なるほど。イノケンティウスの経験が事象となる臨界魔力覚醒、それはイノケンティウスがこの世界に感じていることがそのまま攻撃となることを意味する。奴が地獄だと思えば地獄の様相が繰り広げられ、より鮮明な旅の経験を思えばその苦しみが敵を襲うか!
「そして、いつも決まってそういう時には……現れるのだよ。野盗がな」
「ッ!?」
気がつけば、あれほど遠かったイノケンティウスが目の前にいる。これほどの熱の中を悠然と立ち尽くすイノケンティウスは、静かに拳を振り上げ。
「成長が己だけの特権とでも思ったか、このイノケンティウス・ダムナティオ=メモリアエ、既に老齢の域に差し掛かろうとも……前進をやめたことなど生涯において一度もない!!」
「ぐぶふっっ!?」
アッパー気味に叩きつけられるイノケンティウスの拳に吹き飛ばされ、俺は地面を転がる。こいつ、戦い方を変えてきた、いやより一層アイツに適したものになったのか!?
「要はやり方だ、今のやり方が通じないなら別のやり方を模索する。使い慣れていないのは事実、なら使い慣れるまで。悪いがこれでも天才と呼ばれた身の上、新たな力くらい数度振るえば本質など掴めるわ!」
「ッだったら、俺だってもっともっと高みに登ってやる!!」
そのまま立ち上がり、大きく息を吸う。多くを知っている?俺だって知っている、俺だって旅をしてきたんだ、多くの敵と戦ってきたんだ。ここまで乗り越えてきたんだ、それは誰と比較しても負けるものではないはずだ。
故に……勝つ、勝ってみせる!!
「更に魔力が膨らんだ、英雄として更に一段高みに登ったか。この短期間で」
「うるせぇよ!!」
「む」
一閃、光となってイノケンティウスの前に転移するが如き勢いで跳ね、その拳を一気に固め。
「『熱焃一掌』!!」
「ッ!!」
叩き込む。噴き出す紅蓮の魔力がイノケンティウスにぶつかり、奴の体が背後へと押し下がる。よし、当てた!まず一発!そしてなにより。
「こっからだ!」
持ち込めた、向こうから近づいてきてくれたから近接戦が出来る。殴り合いが出来る、一方的に避けられない攻撃を叩きつけられるフェーズは終わりだ。
「近接戦が所望か、なら受けて立つ。踊ろうか、アルクカース!!」
「絶対引かん!!」
火花が迸るようにイノケンティウスの両拳が炸裂し俺は打ち崩されるが、即座に体勢を整え鋭い蹴りによりイノケンティウスの足を払い、同時にその懐に肘を叩き込む。同時に奴が着る鎧が砕け、そこから更に拳を振るい──。
「フンッ!」
「ガッ!?」
しかしイノケンティウスが指を払った瞬間、地面から一本の荊が突き出し、拳のように俺の頬を射抜き、口から血が噴き出して。
「幾度となく修羅場を潜り抜けたのだろう、幾度となく強敵を倒したんだろう。だがそれは余も同じこと!これしきで揺らぐわけがなかろう」
手刀、掌底、そこから蹴り。多分俺が第三者で見ていたら『あの爺さんめちゃくちゃ動くじゃん』と感嘆した程機敏な動きからの攻め、と言うかイノケンティウス……俺のさっきの攻撃全然効いてねぇじゃん。
「フンッ!」
「痛ッ……てぇな!おい!」
殴られた、殴り返す。しかし即座にイノケンティウスは俺の攻撃に反応し身を引いて指先を向け、そこから小型の魔力弾を放つのだ。それが俺の顔面に当たり思わず目を閉じてしまい。
「どうやら魔法に干渉出来るというだけで、効かないわけでもないようだ」
「ブッ!?」
追い討ちの掌底、尻餅を突かされる。俺が真っ向からの殴り合いで負けた……嘘だろ、これも通じないんじゃやりようがないぞ!?
「どうした、アルクカースは戦士の国だろ、この程度で挫けるのか?」
「この……!」
咄嗟に俺は立ち上がり構えを取った。その時だった。
『ラグナ!ラグナ!聞こえる!?』
「あ?え?デティ?」
『あんた今どこにいるの!?』
耳元からデティの声が聞こえる、俺は咄嗟にイノケンティウスを見るが、イノケンティウスは構えを解いて手をゆっくりこっちに出して、通話を優先していいと合図してくれる。こいつマジで変なところで紳士的だな。
まぁいいや、俺は耳元に手を当て、耳の穴の中に入れていた遠距離通話用魔力機構を触る。
「ああ聞こえる、って、こっちの話は通じないんだったか」
遠距離通話用の魔力機構は向こうの声は聞こえるがこっちの声は聞こえない……というか、これって臨界魔力覚醒の中でもいけるもんなんだな。
『聞こえるよ、ただ私の魔術でその魔力機構を依代に会話魔術を使ってるから』
と思ったらデティが洒落にならないだけだった。
『それよりラグナ!大変!敵がユグドラシルに入ってきた!!』
「なんだと!?誰が入ってきた!』
『ジョバンニとケテル!部下を大量に連れてる!!』
「ジョバンニとケテルだと!?」
「……なんだと?ジョバンニが?」
ユグドラシルにって……ああそうか!フリードリスの転移を使われたのか!まずいな、デルセクトへの援軍にユグドラシルの戦力を動かしちまった。目の前の事態に目を取られて潜在的な脅威を忘れるとは、なんて初歩的なミスをしたんだ俺は!
「デティ!今すぐユグドラシルの守りに入ってくれ!アーデルトラウトさんもだ!」
『ごめん!もうアーデルトラウトさん達は行っちゃったし、転移機構が壊された、私達しかここにいない。メグさんと接触してこちらに戦力を回して!!』
「うっ……わ、悪い!今俺イノケンティウスの臨界魔力波覚醒の中なんだ!」
『えぇ!?いやそういう話だったしね、参ったな。他に受信機能持ちの通話機構を持ち歩いてる人がメグさんしかいないけど……メグさんなんか通話に出れないくらい大変みたいだし』
「……そうか」
俺はモノは試しにイノケンティウスに一旦ここから出してくれない?と視線を向けるが、そこは流石に無理と首を振られる。
「悪い、こっちも動けない……無茶は承知だが、なんとかしてくれ。デティ、みんなを守ってくれ」
『…………なんでそう言う事言うかなぁ!断れないでしょ!もう!』
怒られてしまった、だが最早これはデティ達になんとかしてもらうしかない。
『分かった、なんとかする。だからラグナ、あんたも死なないでね』
「分かってる」
『ほんとに?あんたが死んだら……エリスちゃん一人だからね』
「……勿論、そうはさせない」
『ん、じゃあ切るね!ってか臨界魔力覚醒の中でも通話できるんだね、イノケンティウスの攻めは大した事ないのかな』
そんな事ねぇよ、あっちが許してくれているだけだ。と言うまでもなくデティは通話を切り……。
「その、悪い」
「いや、謝るのはこちらだ。何故ジョバンニが向こうに……そんな事は命じていないはずだが」
は?なんであんたが命じてないのに、いや。ケテルが一緒だと言っていたな、ってことはセフィラの入れ知恵か?どちらにしても俺はもう祈ることしか出来ない。頼むぞネレイド、デティ。俺は……。
「さて、休憩はもういいか?言っておくがもう頼まれても攻撃はやめないぞ」
「構わない。もうこんな事は言わない、ケジメはつける」
俺は耳から通話用の魔力機構を外し、踏み潰す。今後のことを考えたらあった方がいいが敵に話す時間を与えられるなんて変な話をもう二度と起こさない為には必要な工程だ。
「さぁやるか」
「ああ」
顎の汗を拭い俺は動き出す。圧倒的な力を持つイノケンティウスをどうにかこうにか攻略する為……か細い可能性を手繰る。
……………………………………………………
「エウポンペ・クローズライン!!」
「ぐぎゃぁあああああ!?!?」
「ふぅ!まだいる!」
ユグドラシルの中層にて私は駆け抜け、腕を振るい廊下にいるマレフィカルム兵を吹き飛ばし次々と蹴散らす。だがまだ動く奴がいる、圧倒的に手が足りない。
デルセクトに向かうはずだった私とデティ、しかしそこで居合わせた大量の敵の出現。転移機構を使われた、乗り込まれてしまった、敵に……マレフィカルム達に。
今対応できる戦力は私とデティだけ。兵士はいない、誰一人。完全に手薄になったところを襲われた。
「きゃあああ!敵がそこに!」
「殺す!ぶっ殺してやる!アド・アストラの連中め!!」
「チッ!」
ふと、廊下の向こうで悲鳴を聞きつけ私は即座に走り出し、なんの力もない女性職員を前に剣を振り上げるマレフィカルム兵を見つけ。
「やめろ!!」
「がばぁっ!?」
張り手で地面に叩きつけ、守る。戦う力を持たない人間にまで憎悪を向けるなんて……!
「あ、ありがとうございます。えっと、あなたは闘神将ネレイド様ですよね」
「そうだよ……、んッ!?」
瞬間、別の場所からも悲鳴が聞こえる。ダメだ、もう完全に決壊してる。転移すればどこの階層にも行けるユグドラシルの構造が完全に裏目に出てる。全ての階層にマレフィカルムの兵士達が散ってしまった!
今はデティと一緒に駆け回っているけど……これじゃ、一体何人死ぬか!
「クソッ……クソッッ!!」
汚い言葉を吐きながら私は廊下を突き破り上層に向かい、そこでマレフィカルムの兵士達を打ち倒す。けれど……。
『うわぁあああ!』
『や、やめてくれ!俺には娘が──ギャッ!?』
『やめ、やめてッ!!』
『誰か助けてぇぇ!!』
「う、うぅ……!」
超人の耳は、遠くの階層にいる人達の悲鳴を捉えてしまう。耳を押さえたくなる程凄惨な悲鳴が、次々と聞こえ、どんどん声が消えていく。
守りきれない、私の体がこんなにも小さいと感じたのは初めてだ。私の手から、どんどん命がこぼれ落ちて行く!!
「はぁ……はぁ!」
全力疾走で敵を片付ける。片付けても片付けても足りない、廊下を走り回り敵を倒しても悲鳴が止まらない。どうしたらいいんだ……どうしたら。
「アド・アストラめ!よくも俺の故郷を!!」
「お前達のせいでうちの国はなぁ!お前らが支援を打ち切ったから!打ち切ったから!!」
「お前達のせいだ!俺が不幸なのも!こんなところにいるのも!全部!!」
巡る憎悪の螺旋に向けて腕を振るい、打ち砕きながら……駆け回り、私は。
「もうやめろッッッ!!」
「がぶふっ!?」
全力で突っ込み、吹き飛ばす。ユグドラシルの中層、大会議室に逃げ込んだ人達を襲っていたマレフィカルム兵を壁に打ち付け、血を吹かせ、倒す。
「う……ごめん、ごめん」
だが大会議室の地面には……既に血溜まりが出来ている。ここに逃げ込んだ数十人の職員達は武器も抵抗の手段も持っておらず、私が駆けつけた時には、バラバラにされていた。
「ごめん、ごめんよ……」
両手で顔を覆い、私は膝から崩れ落ちる。守れなかった、私のせいで守れなかった、私の体がもっと大きかったら、早かったら、強かったら、死なずに済んだ人達なのに。
「ごめん……私が弱いせいだ」
私が、弱いせいで。全部全部、私のせい────。
「あんたは……」
「ッ!?」
瞬間、背後に迫った気配に咄嗟に振り向いた……その時。
「なに言ってんだ!」
「痛っ」
コツーンと殴られる、私の頭を拳骨で。痛い、いやあんまり痛くない、と言うより。
「え?ベンちゃん?」
「昔から言ってんだろ御大将、一人で背負い込みすぎんなってな!」
そこにいたのは、豪勢なシスター服を着込んだ古傷だらけの勇ましい女性。ベンちゃんことテシュタル教の二代目教皇ベンテキシュメ、私の親友だった。
「ベンちゃんはやめろって!一応教皇なんだからさ、あんたの代理とは言え」
「私よりベンちゃんの方が教皇に相応しいよ。それよりなんでここに?」
「だぁくそ、反論させろよ。まぁいいや、なんでってそりゃあ今でこそ教皇だけどアタシは神将の座まで降りたつもりはねぇ。この有事だ、出撃しないわけにはいかないだろ」
「だ、ダメだよ。ベンちゃんは六王なんだから」
ワタワタと手を振ってとにかく避難を……と言いかけたが、睨まれてしまった。怒ってる、怖い。
「あのな、六王だから避難が必要なら、ラグナやメルクリウスはどうなんだよ。それともアタシ達は守られなきゃいけないくらい弱いって言いたいのか?」
「そうじゃないけど……」
「今、イオやヘレナが動いてる。ユグドラシルの防衛システムを動かして敵を撃退しながら、職員を出来る限り逃してるんだ。戦ってるのさ、あいつらも」
「イオさんやヘレナさんが……」
「アタシ達だってな、国を守る為に六王になったんだ、守られる為なんかじゃねぇ!」
「……そうだね」
みくびっているわけじゃない、けど……やはりどこかでラグナ達とは別に見ていたのかもしれない。けど違う、六王はみんな同じくらい志が高い人達の集まりなんだ。
「アタシも今オライオンに要請してトリトンやローデを呼んだ、オライオンの屈強な野郎達もがすぐに来る。それまで持ち堪えるんだ、行けるよな?御大将」
「勿論!アタシ達四神将が揃えば無敵だよ!」
「おうともさ!」
そう私とベンちゃんが拳をぶつけ合った、その時だった。
「あらまぁ、随分青い春な友情物語じゃあませんこと、この血生臭い戦場にはやや不釣り合いでは?」
「ッ!お前は……ケテル」
ぬるりと木の根が地面から這い出し、そこから現れるのは……ケテル。今回の事件の首謀者だ。彼は白い髪を手で撫でるように払い、黒色の杖を手に会議室の机の上に座り。
「しかしね、可哀想可哀想とアド・アストラの人達に憐憫向けちゃあいますが、そこで今あなたがぶっ飛ばしたマレフィカルムとの人達にだってね、事情はあったんですよ?」
「……何が言いたい」
「詰まるところ、結局貴方達の優しさは一方通行なんですよ。聖人だのなんだのと言われても、やってる事も鑑みれば自己都合的な暴力装置に他ならないでしょう?」
ね?とケテルは仮面の向こうで笑い、私が倒したマレフィカルムの兵士達に視線を向ける。確かに彼らの憎悪は異常だ……それなりの理由があったのかもしれない。
けど、そんな私の思いを打ち砕くようにベンちゃんは前に出て。
「ふざけんじゃねぇよ!人間の社会ってのはそれぞれの境界が敷かれてんだ、国に国境があるように人にもある!それを無視して突っ込んできて暴れたんなら優しさを向ける以前の話だボケゴルァ!お互い暴力を振るわず済むように境界があんだからそれを守ってからもの言えカス!」
「おやおや、なんだろう、論破されました?私、いやぁ随分な物言いですね、二代目教皇ベンテキシュメ、いや教皇代理ですか」
「だったらなんだよ、言っとくがテメェにどんな肩書きがあろうが関係ねぇぞ、テメェの論法使うなら今のお前は不法侵入者、単なる無法者だ!」
「ちょっとベンちゃん、下がって」
流石はベンちゃんだ、私の言い返せない事を軽々言い返す、けど……流石にベンちゃんをケテルと戦わせられない。こいつは本当に強い、ベンちゃんを見くびるわけじゃないとは言ったがこれは別。第三段階の相手は第三段階がやらないと。
「なんだよ御大将!アタシにも戦わせろよ!」
「ベンちゃん……下がっていろ、あれの相手は私がやる。お前はバックアップを、ベンテキシュメ」
「はぅ……わ、分かったよ」
闘神将として、罰神将だった頃の彼女に命令するときのような感じで告げれば彼女は言う事を聞いてくれた。……さて。
「ケテル、お前の無法は目に余る。よってここで沙汰を下す、温情は期待するな」
「ほほほ、……ええいいですとも。ククク、アハハハ」
両手を開き、両腕を上げて、構えを取る。ケテルもまた杖を構え……私達は対面する。出来ればこいつの相手に時間はかけたくない、私が動けないってことはそれだけ被害が出るって事だから。
……速攻で片付ける、多くを守る為に!!
………………………………………………………
「第四十四から五十八隔壁まで閉鎖完了!イオさん!そちらは!」
「こっちも緊急用転移機構を作動させた、既に四千人近い職員を近隣の支部に転移させられた!」
ユグドラシル最上階、許された人間にしか立ち入れない六王の間にて私とヘレナ女王は共に魔力機構を操作してユグドラシル全体の敵に対処する。
六王に与えられた緊急時の権限、全魔力機構掌握権。これが有効に働く日が来るとは……。
「ッ……まさかこちらにまで飛び火するとは、アマルトは無事なのか!?」
嫌な考えが脳裏を過ぎる。アルクカースで一大事が起きているのは知っているし、今来た連中がその手勢だと言うのは分かる。そして使ってきたのはアルクカースの転移機構、フリードリスのものだ。まさかアルクカースがやられたのか?
アルクカースにはアマルトが向かっていた筈。アイツがそう簡単にやられるわけがないとは分かってるが……それでも不安だ。
「イオさん」
「ッ……ヘレナ女王」
すると、隣に立っていたヘレナ女王は私の手を取り、静かに頷く。
「魔女の弟子の皆様は強いです、簡単には負けません。事実ネレイドさんやデティさんも来てくれています、きっと大丈夫ですよ」
「……ああ、そうだな。アマルトはやばくなったら逃げる男だ、簡単には死なないか」
あいつはそう言う奴だ、逃げるのがお得意と公言するようにやばい時にはすぐ逃げる。だが、同時に友や仲間の為ならどんな窮地でも逃げずに戦い切る男でもある。きっと、アルクカースを守る為に今も戦っているんだろう。
「アマルト、信じるぞ」
だから、今はただ……彼が帰ってきた時酷い有様じゃないよう、努めて戦うだけだ。我々がここで─────。
「ここか」
「ッ!?なんだ!?」
瞬間、六王の間の中心が割れ、下から何かが現れる。男だ、赤黒い髪をした黒いコートの男、目元にアイシャドウを塗ったそいつは、ギロリと我々を見て。
「敵か!」
「ゴルゴネイオンを統べし十天魔神が一人で、『第一武神』ジョバンニ……お前達を殺す為、参った」
そう語る彼はブラリと手を揺らしこちらにやってくる、まずい。かなりの手練れだ、ヘレナ女王は戦えない!ここは!!
「『黒呪槍』!ヘレナ女王!後ろに!!」
短剣で指先を切り、そこから這い出た血を使い黒い槍を形成、即座にジョバンニに向け飛びかかり──。
「邪魔だ」
「な……ぁっ!?」
しかし、ジョバンニの手がブレた瞬間。私の腕が捻れ、へし折れ、槍もバラバラにへし折れる。な、何が……起きて!?
「ぐぅっ!?」
「イオさん!!」
そして首元に蹴りを受け、倒れ伏す。両腕が……クソ、桁外れ過ぎる。私が知ってるマレフィカルムと……大いなるアルカナ達とは次元が違うぞ、アマルトは今こんな奴と戦ってるのか!?
「その魔力機構が、ユグドラシルの制御をしているのだな。なら……破壊させてもらう。一人でも多くを殺す為」
「それは……」
私は立ちあがろとするが、激痛により立てない。あと基盤が破壊されたら、それこそ何万人死ぬか分からん!守らなければ……!
そう、歯噛みした瞬間。鋭い轟音が鳴り響く……。
「させません」
「…………」
ヘレナ女王だ、懐に忍ばせていた拳銃を迷いなく撃ち放ちジョバンニを攻撃した。しかし。
「いや、その前に六王を殺すべきか」
「ッ!効きませんか」
ジョバンニは軽々と指先で弾丸を受け止め、親指で逆にそれを弾き返しヘレナ女王の足を撃ち抜くのだ。
「キャッ…ぐっ、ぅうう……!」
「泣いて喚いても、許さん。お前達アド・アストラの人間のせいで私は、幾人もの同胞を失った!その責任、最たる責任があるのはお前達六王だ!!」
ヘレナ女王に迫るジョバンニ、既に逃げる術を失ったヘレナ女王に……その殺意が向いた瞬間。ヘレナ女王は。
「なら殺しなさい!!」
「ッ!?」
ジョバンニの手が止まる、ヘレナ女王の叫び声によりピタリと止まる。なら殺せと言う言葉に、いやその気迫に。
「最たる責任がある、ええそうでしょう。現場で戦う兵士達は私達の命令で動きました、ここで働く職員を動かしているのは私です!アド・アストラに恨みがあるというのなら!私を殺しなさい……でもその代わり、私がこの命を持って責任を取るので、他の人達には手を出さないと約束しなさい!!」
ヘレナ女王はその手の拳銃をクルリと持ち変え、ジョバンニに突きつけ押し付ける。足を撃ち抜かれ激痛が走っているのは事実、顔からは常に脂汗が出ている。だと言うのに全く衰えぬ気迫、これが芸術の国エトワールで最大と言われる歌劇団を持つヘレナ・ブオナローティの…土壇場の演説か!!
「……せめて、命乞いでもしてくれれば、気持ちよく殺せたものを!!」
「命乞いはしません、争いの中に身を投じているのは魔女の弟子の皆様だけではありません、私達もです。この命、戦火に散る覚悟はとうの昔に出来ています!」
「…………」
ジョバンニとしても我々が悪人として死んでくれる事を望んでいたようだが、それは叶いそうもない。そう見た瞬間彼は動き出し、拳を握り。
「なら、散れ。例え私が悪であろうとも、貴様らもまた悪であることに変わりはないのだから!!」
「ッ!!」
握られた拳がヘレナ女王に振り下ろされた……が、その瞬間に私の頭上を何かが通り過ぎ────。
「あんたねぇ、優先順位ってもんがあるでしょ〜がぁ〜」
「むッ!」
ガキンと音を立ててヘレナ女王に向けられた拳が防壁に阻まれ止まる。いや、その前に立ったのは……。
「一番は私でしょ、勿論。脅威度的に」
「デティさん!!」
「魔術導皇ッ!」
「そう!私!また会ったねクソ武術家、遠路はるばるご苦労様。じゃ……ぶっ飛ばしちゃうから」
不敵に笑うデティフローアがそこに立っていた。ああ、相変わらず、彼女は昔からずっと頼りになるな。いやまぁ学園時代はもう少し可愛げがあった筈だが……そこはまぁそれだ。
彼女ならば、やれる筈だ。頼む、デティフローア!
「頼む、この国を守ってくれ!!」
「頼まれずとも!」
錫杖を振るい、ドンッと胸を張った彼女は叫ぶ。
「私の国ですもの!!」
そうして、魔術導皇デティフローアは、自らの国を守る為燃える魔力と共に……立ち上がる。
……………………………………………………
「死ねカスゴルァ!!」
「テメェが死ねや!!」
瞬間、交錯する打撃と打撃。フリードリスの大広間、乱戦から少し離れた場所でぶつかり合う意地と意地、それは……。
「ぐぶっ!」
「ぐげっ!?」
片一方は赤黒い髪をした大男……第二龍神バディスタ、そしてもう一人は。
「がぁあ!クソ野郎がぁああ!」
「アマルト君って呼べやオタンコナスビがぁぁあ!!」
俺。即ちアマルト・アリスタルコス。ケテルに逃げられた俺はクレアとの戦いから離脱したバディスタと偶然バッタリかちあったのよ。なにやらクレアも乱戦に揉まれてバディスタを見失っちまったようだ。
まぁそこはいい、俺も相手がいなくなったわけだしな。で、丁度いいから……ここでぶっ飛ばそうってんだ!!
「うがぁああああ!!」
「っしゃあ!来いやぁあ!!」
バティスタは白目を剥く程に激怒し腕を鱗で包みながら突っ込んでくる。それを前に俺は両頬を叩き立ち上がると共に迎え撃ち。
「『炎龍拳』!」
「『魔拳エクラゼ』!!」
そして再び交錯する、炎の拳を纏ったバディスタの拳が俺の頬を、黒い龍の鱗を纏った俺の拳がバディスタの頬を殴り抜き、両者共に大きくバランスを崩し。
「ぐぅ……ぐぉおおおおお!!」
「どっ……こいしょおおお!!」
持ち上げる、体を。根性と気合いで持ち上げ拳を握り締め目の前の相手に負けぬよう雄叫びをあげ。
「どらぁあああ!!!」
「『魔連拳モルティエ』!!」
打ち合う、打ち合う、右払いの拳がバティスタを打ち。左払いの拳が俺の頬を打ち、バディスタの、俺の、腹を、鳩尾を、顎を打ち据え続け、そして。
「『爆龍脚』!!」
「ぐっ!?」
鋭い蹴りが俺の顎を打ち、俺の体が浮かび上がる。と同時に俺は腰の剣を抜き放ち……。
「『ポワヴル──!!」
「ッまだ動くのかよ!!」
「──コンカッセ』ッッ!!」
剣の重量をひたすら膨大にし、塚頭でバディスタの脳天を叩き抜き、地面に打ち倒す。まだ動くかって?動くに決まってんだろ、こちとらダチの国を、ダチの城を、やられてんだからよ!
「オラ、立てよトカゲ野郎。ションベン引っ掛けるぞ」
「っグッ……!」
顎先に滴る血を拭いながら俺は起き上がるバティスタを睨む。上等〜、まだまだやれるぜ俺はよぉ!
「クソがぁあ!クソクソ!ゴルゴネイオンはなぁ!無敵なんだよ!!」
「急にどうした」
「もっと、もっと圧倒的な筈だった!ゴルゴネイオンだけでなんとかなる筈だった!俺達ぁ最強の組織なんだよ!!分かるか!」
「まぁ規模はスゲェし、実際戦力で見れば他のどの組織とも比較にならねぇな」
確かにそう考えればゴルゴネイオンは洒落にならねぇ戦力持ってた。もしこれが一番最初に当たった組織なら、俺達ぁ多分第五紅神すら引き出せたから怪しいレベルだ。
けど、だとしてもだ。
「だけど、喧嘩売った相手が悪いぜ。テメェらそう言う相手に喧嘩売ってんだろ」
「あぁああ!ウゼェ!マジでウゼェ!」
「うぇ〜い!ウザいでーす!ベロベロー!」
「こいつマジで……!!」
正論叩きつけられたくらいで怒るような奴にゃこれくらいでちょうどいいだろ。
「クソッ!こんな奴らにゴルゴネイオンが負けるわけねぇ、オレや!兄ちゃんが!負けるはずがねぇんだ!十天魔神が負けるわけがない!!なのに……なのに!!」
「なんだよ」
「テメェのせいで、テメェらのせいで、大勢仲間が死んだ」
「だから?テメェらが仕掛けた戦争だろ、今更被害者ヅラすんなよ」
「大元を糺せば魔女大国が悪いんだろ!!」
「あのさ、前々から聞きたかったけどその魔女大国って誰だよ」
「あ?」
「テメェらが今回の戦争で殺し奴の中に『魔女大国』って奴はいたか、テメェらを傷つけた『魔女大国』ってのはどんなツラだ、言ってみろ!テメェらが!襲って傷つけ殺した奴らの中に!!一人でもテメェらの何かを直接奪った奴がいたかよ!!」
「き、詭弁だろうが!!それに、テメェらが殺したんだろうが!オレの仲間を!そこに変わりはないだろ!!」
するとバティスタは大きく足を踏み込み、涙を流しながら……拳を構え。
「デモンズだって!その一人だ!」
「あ?デモンズ?」
デモンズって……あいつだよな、人に仮面着せて服脱がすど変態。だがあいつこそ俺たちが殺してねぇだろ!?まさかこいつ!!
「アイツはな!いい奴だったんだ!!それを……守りきれなかったオレ達にも罪はある、だけど!!」
「ま、待て!そいつは──」
「あの場に、お前がいたことは知ってんだ、お前が殺したことは!!知ってんだ!!!アマルト・アリスタルコス!!」
瞬間、踏み込みを力に変え一気に突っ込んでくるバティスタのタックルを受け、俺は吹き飛ばされ……。
「『極・魔力覚醒』!!!」
そして光り輝くバティスタはの体。それはそのまま肥大化し……。
「『超極龍大転生』!!」
「ガァッ!!?」
フリードリを半壊させる程のサイズに変化。同時に突き出た角が俺の体を打ち抜き、隕石の如き速度で街に叩き出され、俺は地面を転がる。
ヤベェアイツ、変な誤解でキレてやがる!!
「ま、待て!デモンズを殺したのは俺じゃあねぇ!あいつだよ!マクスウェル!!」
「ふざけんなよ!!」
俺は立つ、ビスルマシアの廃墟の只中。そして目の前にドスンと音を立てて着地するのは……紅蓮の超巨大龍。四つ足を突き巨大なツノを振るう馬鹿でかい飛龍だ。
「で、でっけぇ……」
「マクスウェルが殺しただと?あいつはなぁ!あの時ヴィルヘルムにいたんだよ……バカにするんじゃねぇ!!」
「ちょ!!」
大きくなってもスピードはバティスタのままだ、これがあいつの極・魔力覚醒!?洒落にならねぇじゃねぇかよ!こんな超ラージサイズな極・魔力覚醒があってたまるか!!
「消えろや!!デモンズの仇がぁああ!!」
「ぐっ!そっちがその気なら……」
口から大量の火炎を噴き出すバディスタドラゴンに対抗し、俺もまた極・魔力覚醒を展開。そのままベルトのバックルからアンプルを取り出し、口元に運ぶ。
「『ビーストブレンド』!」
取り込んだのは多くの魔獣、そしてレッドランペイジの因子。そいつを極・魔力覚醒でとにかく弄り回して……生み出されるのは。
「『魔黒龍ヴィルヴル・ノワール』!!」
「うぉ!?ドラゴン!?」
変化するのは同じく超巨大なドラゴン、レッドランペイジの因子のおかげで膨れ上がった体はバティスタにも引けを取らない程のものに変わり、その上パワーもオーバーAランクそのまま!これなら!!
「やってやるぜ!龍喧嘩じゃオラァッ!!」
一閃、黒い尻尾を鞭のように振るいバティスタの顔面を打ち────。
「オレの極・魔力覚醒はな……」
「へ?」
がしかし、俺の尻尾が当たった瞬間。尻尾が弾け飛ぶ、バティスタの肉体の強度に全く太刀打ちが出来てねぇ!?
「最強のドラゴンになる覚醒なんだよ、ドラゴン勝負で勝てるわけねぇだろ!!」
「ぐぅっ!?」
鋭い龍拳が俺を打ち、弾き飛ばす。しまった、あの覚醒はドラゴンに覚醒するものじゃなくて、バティスタ自身のイメージを具象化する覚醒か!ドラゴン相手には負けねぇって思ってる以上、ドラゴンで勝負を挑むのは悪手だったか……!!
いや、そもそも……!
「がはぁ……!」
「本物のドラゴンに、偽物が勝てるわけねぇだろうがァァアア!!!」
四つ足のドラゴンが目の前に立ち、咆哮を轟かせる。そもそもの話、あれのイメージが反映されてるなら……あいつ、今はそれこそ無敵じゃないか?
俺たち相手に負けられないと思えば思うほど、奴は強くなる。こんなの一体どうやって倒せば─────。
「なら、こう言うのはどうでしょう……」
「は?」
「ん?なんだぁ?」
その時、空からヒラヒラと何かが降ってくる。バティスタの上に大量の紙が降り注ぎ、バティスタの視線がそちらに向いたその時。
「『爆炎陣』!!!」
「がぁあ!?クソがぁああ!なんだこの紙!燃えやがった!!」
「あれは!魔術陣か!」
大量にばら撒かれた紙、それは全て魔術陣が書き込まれたもの……ってことはこれをやったのは。
そう確信したと同時に、バティスタを飛び越し現れた影は巨龍となり倒れ伏す俺の胸の上に着地。同時にどこかから拾った鉄剣を高らかに構え。
「これより開かれるは龍の殺し合いに非ず!壮絶かつ豪勢で、豪胆かつ壮大な!龍殺しの一幕である!!」
「ナリア!!」
ナリアだ、助けに来てくれたのか!いやでも第二段階のナリアじゃバティスタの相手は……いや、待てよ?
「ぐぅ!お前は誰だ!!」
「僕はサトゥルナリア!人呼んで『龍殺しの勇者』サトゥルナリア!幾万の龍を屠り!龍達を恐れさせるドラゴンスレイヤー・ナリアだ!」
「な、なに!?龍殺しの専門家……ドラゴンスレイヤーだとぉぉ!?」
効いてる、効いてる!そうか!ルビカンテの時と同じ!感情が起因となる力に対してナリアはまさしく特効!こいつなら……いけるか!際限なく強くなるバディスタのイメージを逆手に取って、戦える!!
「アマルトさん、エリスさんからアイツの覚醒については聞いてます。付き合ってくれますか?」
「おうとも、付き合うぜ。脇役だろうがなんだろうがドンと来いだぜ」
「違います、これは僕とアマルトさんの……ダブル主演です!」
巨龍となった体を起こし、頭の上にナリアを乗せ。ただの鉄剣を伝説の剣のように構えるナリアと共に。挑む、最強のドラゴンであるバティスタに!!




