846.魔女の弟子と決戦開始と混迷化
「ふむ、なるほど。ダアトが裏切ったと?」
「ああ、そうだ。『栄光』のホドよ」
アルクカースの中央にある大要塞フリードリス。その謁見の間に集められたセフィラ達。私とケテルとコクマーの三人はイノケンティウスと十天魔神に囲まれ、そのように言われるのだ。
曰く、イノケンティウス達が確保したアルクカースの秘宝をダアトが強奪、そのまま持ち逃げして立ち去ったと言うのだ、それを聞かされケテルはあらまぁと仰々しく驚いているが、私は……軽く首を傾げる。
「ダアトさんがそんな事しますかねぇ」
確かにダアトは得体の知れないところはある。だがそれでも私達は十年以上一緒にやって来たが一度だってアイツは私達を裏切るような真似はしなかった、それこそ裏切れるタイミングはいくらでもあったのに。
それをここに来て急に裏切るだろうか?そんな疑問が浮かんで消えない。
「だが事実として、奴は我々がカロケリ山から掘り出した魔女の秘宝を奪い、そして行方を眩ませた……ここにいないのが何よりの事実だ」
ダアトは私と一緒に行動していたが、それこそが二日前急に『そろそろワンオペのやめ時』などと口走り、ふらふら〜と何処かへ消えたのだ。一応、時系列的には一致する。
だから恐らくだがイノケンティウス達から何かを奪ったのは事実なのだろう。それをわざわざこうして苦情を言ってくると言うことはイノケンティウス達的にも相当大事な代物だったんだろうなぁ……その秘宝とやらは。
「それで、なにが言いたいんです?」
「同じセフィラとして、ダアトを連れ戻して欲しい」
「無理ですね、彼女の居場所は私達にも分かりません」
「探せと言っている」
ジョバンニがズイッと前に出る、その顔の凄まじさたるや。めちゃくちゃ必死、超笑える。
「嫌ですけど」
「なんだと……!お前の仲間が我々からネコババしたから、その責任を取れと要求しているんだ、なぜ聞き入れない」
「何を勘違いしてるのか知りませんがねぇ、我々セフィラは貴方達の戦いの援護をしろと言われているだけで、その指揮下に入れと言われた覚えはありません。元よりこれはゴルゴネイオンの戦い、そこに手を貸しているだけでもありがたいと思って欲しいのに……そこに加えて仲間の責任?捜索?アホらしい、付き合えませんよ」
「ッ……!」
「ねーケテルちゃん」
「ねーホドちゃん」
うんうんと私達は頷きあう。そんな中、ウィリアムの体に入ったコクマーは一歩前に出る。
「一つ、伺いたいのだが?」
彼は今、髭を口元に蓄えた優美な老紳士の姿になっている。コクマーと言う生物は入り込んだ肉体によって喋り方やある程度性格というものが変わる、故にメグの中に来た時とは異なり落ち着いた口調で語り始め。
「その盗まれた状況というものを知りたい。状況もよく分からないままに非難だけを向けられても我々としては面白くない、その非難と要求が正当なものであるなら我々も一考の余地がある」
「状況もなにも、奴は我々の目の前に現れ、直接奪って逃げたのだ」
「ふむ、私の記憶が確かならイノケンティウス殿は第四段階、臨界魔力覚醒を会得していたはず。臨界魔力覚醒はその性質上逃げようとする相手の足止めにはこれ以上なく最適、使わなかったのですかな?」
「……それは」
ジョバンニは黙っているイノケンティウスの方を見る、確かにイノケンティウスがそれほど絶対的な存在ならいくらダアトだって首根っこ掴まれて捕縛されていたはず。なのに、そうならなかった。
「或いは、使えない理由があったと?」
「……………
コクマーの質問にイノケンティウスは答えない。臨界魔力覚醒を使わなかったのではなく、使えない理由があった、それなら納得も行くが……それは同時に──。
「もう良い、下がれ。お前達への要求はしない」
イノケンティウスは首を振ってそう言うのだ。
「ダアトの捜索はこちらがする。お前達はガオケレナの命令通りアド・アストラ軍と戦ってくれればいい」
「なんですかそれ」
「話は以上だ」
「そう言う事だ、下がっていいぞ」
ジョバンニの態度に私は軽くプッツンしますがケテルに肩を掴まれ制止される。ったく、ここで喧嘩してもいいですが、それはそれで面倒なのでやめておきますか。
私達三人は軽く肩をすくめて踵を返し謁見の間を出る……さて。
私達は閉ざされた謁見の間をの扉を背に、廊下を歩み出す。
「なーんか、やになっちゃうなぁ。ケテルはどう思った?」
「妙にきな臭いと言うか。らしくないと思いましたねぇ」
「らしくない?」
「ここまで明確な計画性を持って動いていたゴルゴネイオン、それがここに来て急にアドリブで動いているような、そんな変な感覚を感じました。恐らくダアトが何かをしたのは事実で、ここでダアトを取り逃がしたのは奴等の計画が根底から破綻しかねない重大なミスだったように思えるんですよ」
「だから、突かれて困るところがたくさんあるのに私達を呼び出しちゃったと」
「そうですそうです、まぁ軽くパニック状態なんでしょうねぇ」
それは私も同感に感じる、イノケンティウスはいつもほど余裕がなかった。かなり憔悴していると言うか……それこそ盗まれた何かが絶対に渡ってはいけない人物の手元に渡ってしまった。そんな顔をしてましたね。
つまりダアトは我々を裏切ったのではなく寧ろセフィラ側に利になる事をしていると、そう考えた方が良さそうです。
「しかし、それなら何故我々と連絡を取らず、そして顔を見せない」
チラリと老紳士コクマーが告げる。そこは確かに疑問ではあるが。
「いつものことでは?」
「ですね、いつものことです」
「はぁ、聞いた私がバカだった」
「ですね、コクマーちゃんはいつもバカです。ねー、ケテルちゃん」
「ねー」
お、コクマーがイライラして来た。笑える。こいつイジるとすぐイライラするから面白いんですよねぇ。
「で、それなら私達はどう動くのが正解だと思う?」
「うーん、ダアトは多分最初から我々と連携を取る気がゼロでしょうし、そんな奴と連携なんか組めるわけありません。ここはイノケンティウスに言われた通りゴルゴネイオンと共にアド・アストラと戦いますか」
「無論、ガオケレナ総帥のご意志がそこにあるのならマレフィカルムには総員そこに従うべきだ」
しかし、ダアトは一体なにを盗んだのか。まぁカロケリ山から盗み出された魔女の秘宝なんて言えば一つくらいしか思い当たるものはありませんが、もしあのお方の御体の一部をイノケンティウス達が確保しており、それをダアトが奪わなければならない状況にあったなら。
寧ろ裏切っている可能性が高いのはイノケンティウス達と言うことになるが……ま、そこは気にしないでおきましょう。ダアトがうまいことやってくれるでしょうしねぇ。
「じゃあ今から敵目掛け突っ込む〜?ケ〜テ〜ル〜」
私がツイツイとケテルの肩を突くといつも通り彼はノリ良く答えてくれて……。
「いや、それはやめておきましょう」
「あら」
首を振られた、ノリ悪いなぁ。
「それよりもっと面白いやり方しましょうよ」
「面白いやり方?」
「はい、私ねぇこの戦争に凄く窮屈な思いを抱いてるわけですよ」
ケテルは仮面の奥でニタニタ笑う、背中がゾクゾク来るような、そんな笑みを浮かべ。
「戦争ってそもそも忌避される行為です、なにしてもいいしなにされても文句言えない地獄の共同作業。今の戦争はやたらとクリーンなんですよ、スポーツじゃないんだからもっとこう……勝っても負けてもどっちも傷を負う、そもそも最初からやるんじゃなかったって、双方思えるようなコトがあるべきでは?」
「へぇ」
たまに忘れそうになる、ケテルの本名。プリンケプス・ネビュラマキュラ、元老院を創立したマレウス建国の祖の一人。それはつまりマレウスが建国される前の群雄割拠の戦争を知る数少ない人間であると言う事。
「後味悪くいきましょう、戦争終わって手に入れた勝利と失ったもので差し引きゼロどころかマイナスになるような結果に双方共に涙する。最高じゃないです?」
「面白そう、やっぱ貴方最高」
「フフフフ」
いい感じに面白くなりそう、やっぱり波乱よ、順当妥当じゃ面白くない。波を起こしていこうじゃありませんか。
こんな面白くなるんだから、最後まで付き合ってよかった。
あーあ、イェソドもネツァクも付き合えばよかったのになぁ〜。今どこにいるんでしょうか。
……………………………………………………………
「イノケンティウス様……」
「…………」
イノケンティウスは部下達に囲まれ、頬杖をついて玉座に座る。その顔はまさしく浮かないと言った様子、それもそうだ、遂に大願を成就出来ると言うタイミングで邪魔が入ったからだ。
相手は『知識』のダアト。奴はシリウスの肉体を手に持ち我々の攻撃を掻い潜り全力で逃走。臨界魔力覚醒を使うかどうかを迷ったその隙を突かれた、あと二度しか使えない臨界魔力覚醒を切るかどうか、その逡巡の隙を突かれた。
だがある種想定内ではある。ダアトは必ず邪魔に来ることは理解していた、奴は他のマレフィカルムとは事情の異なる立場にいる。
羅睺十悪星『識天』ナヴァグラハ・アカモートの弟子、エリス達が魔女の弟子なら差し詰め奴は羅睺の弟子。故にシリウスを始末しようとすれば必ず邪魔に来る。
そこは分かっていた、それ故に奴との戦いに一回分は確保していたつもりたつたが、予想外だったのはダアトが『一人で来た』こと。必ず仲間と来るものと思っていたから、ダアト一人なら或いは回数を節約できるかもしれない……そんな邪な考えを誘われた。
逃げに入ったダアトは我々の予想を超えて凄まじかった。魔力を感じ取れない肉体に幻惑超えた認識阻害、この二つを組み合わせ徹底的に離脱にのみ専念したダアトはゴルゴネイオンの総力を持ってしても止められなかった。
見るからに戦うような口振り、から一点突破の逃走。今にして思えば上手く乗せられた、完全に一杯食わされた形になる。
「イノケンティウス様、如何にしますか」
「…………」
正直、かなりまずい。ダアトはマレフィカルムとは分けて考えた方がいいほど奴の立場は特殊だ。或いはウルキと直接繋がっている人物の一人でもある。
もしこれがウルキとガオケレナに伝わり、あの二人が肉体を元手にシリウスを復活させようとすれば……最早こちら側に止める術が存在しない。
それこそアド・アストラとゴルゴネイオンが共闘してもウルキを止められない。奴は並の第四段階を遥かに超越した最上位にいる文字通り魔女級の怪物、魔女でさえ倒しきれない存在を相手に抵抗するのは難しい。ましてやそこにガオケレナも加わるとなると戦況は絶望的の一言に尽きる。
唯一希望があるとするなら、これもまたダアトの特異性にかかっている。奴がシリウス復活に対してどのようなスタンスでいるか、そのあるようによってはもしかしたら希望があるかもしれない。
とは言え、少なくともシリウスの消滅を邪魔立てしたことからある程度シリウスの復活には前向きである事は疑いようもない事実。さて……どう転ぶか。
「我々の総力をあげて必ずや奴を見つけ出して……」
「いや、不要だ」
少なくともダアトを見つける為に人を使うとは無駄の極みだ、そもそも見つけられない。それにこれは論理や確証を非常に欠いたただの直感になるが。ダアトはまだこの近辺を離れていない。
恐らくはこのアルクカース戦争が終わるのを待っているのだろう……そこから考えるに、まだ希望はある。それに……。
「もうすぐ、奴らが来るのだろう」
「魔女の弟子ですか?いえ、奴らの軍勢はまだ南部の山から動いていないと言う報告を受けています」
もしこれからアド・アストラ軍が攻めてくるならダアトに構っている暇はない、だがジョバンニ曰く南部に揃ったアド・アストラの大軍勢は今も動いていないと言う。あれだけの軍勢だ、監視そのものは容易だし動けば即座に発覚する。
それが動いていないと言うのならアド・アストラ軍はまだ動いていないのだろう……だが。
「使う、余が言っているのは『魔女の弟子』の方だ」
「へ?奴らもアド・アストラ軍と一緒に行動しているのでは」
甘い、率直に感じた事を言うのであればそれだ。甘すぎるぞジョバンニ、ここまでの魔女の弟子の動きを見ていればなんとなく分かろうものだろう、奴らは単独で動いてくる。
ならば……まさか。
(南部の山からここまでを全開の魔力加速で飛ばせば一瞬、だが……)
脳内にアルクカースの地図を浮かべ、南部の山の位置を確認。もし魔女の弟子が休息を優先して馬車で移動したならば……五日、いや旅慣れしているなら四日。だがもし相当いい馬車と馬を揃え、旅そのものに深い理解があるなら。
「二日、つまり……」
もうすぐそこまで来ている、そう立ち上がった瞬間。
響き渡る、轟音。突然フリードリス大要塞そのものが大きく揺れ、巨大な魔力が八つ内部に浮かび上がる。
「なッ!?何事!」
「兄ちゃん!この魔力!魔女の弟子だ!エリスもいる!!」
「なんだとッ!!」
衝撃が走るのは城のみにあらず、なるほど。どうやら敵も打って出たようだ……即ち。
(決戦、その心算は出来ているか、魔女の弟子)
ブローチに込められた魔力結晶を見る。残り二つ、臨界魔力覚醒が出来るのは残り二回……いや、一回か。
(面白くなってきたな、そうでなくてはここまで待った甲斐がない。今こそ決めよう、人の世か魔女の世か、どちらがより正しい道であるかを)
……………………………………………………………………
「ふぅ、なんとかなりましたね。いやぁよかった」
私はシリウスの左足を片手にフリードリスを見下ろす。私は今カロケリ山の頂上にいます、イノケンティウスと戦いシリウスの左足を確保し、そのままめちゃくちゃに撹乱しまくって持ち逃げしたのだ。
全力で戦おうぜ!って空気を見せておきながらの全力逃走、敵も面食らったでしょうね。まぁでもゴルゴネイオンは少し正々堂々過ぎるんですよね、だからこう言う手に引っかかる。
(別に私が相手してあげてもよかったですけど、どう考えてもタダじゃすみませんし。後々のことを考えたら私も疲れるわけにはいかないんです)
カロケリ山の頂上からフリードリスを見下ろしながら私は岩場に座り、手元のシリウスの足に目を移す。
「足だけで生きてるとか、我らが大将様は気持ち悪いですね」
シリウスの足は今も生きている、心臓もないし脳もない、だが魂は宿っている。どう言う理屈かは私にも見えない、と言うか情報量が膨大すぎて読み込みが永遠に終わらないと言えばいいか。とんでもない容量すぎて目がクルクルします。
「……世の魔女排斥組織全てが喉から手が出る程欲しがる代物、まさしく魔女大国の秘宝ですね」
この足を使えば文字通り何でもできる。血を抜き出し杖に仕込めば魔術初心者でも大魔術を放てる、因子を取り込めば無類の強さを得て、或いは自身に取り付ければ魔女級の強さになれる。だがその全てにシリウスの魂を掌握され塗り替えられると言うデメリットが付随するが。
魔女達が死んでも守り通したい秘密であり、隠し通したい急所でもあるシリウスの肉体。これを隠してある場所には私は立ち寄れない、シリウスに類する者が近づけない魔術障壁が構築されてあるのだ。
カノープスとプロキオンの合作である永劫結界はウルキ様でさえ突破に苦労する代物、私には立ち寄れない。だがイノケンティウス達は違う、今を生きる人間達ならこの結界は作用しない。
故に持ち出してくれたのは逆にこっちにとって好都合と言える。なら後は……。
「メトシェラ……貴方はこれを手に入れたら、どうするんですか?」
ここにはいない彼を想い、呟く。ガオケレナではなく彼のところに持っていくと言う選択肢もある。もし彼はこれを手に入れたらどうするだろう、シリウスを滅する方法を模索するのか、或いは……。
「おうお前なんじゃあさっきから汚物持つみたいにワシの足掴みよって」
「ゔぇっ!?」
ギョッと隣を見るといつのまにか見知らぬ女性が座っていた。彼女は私を見るなりにこやかに手を振り狼のような牙が生え揃ってた口元を歪ませ笑う。な、何この人……ああ。
「シリウス様ですか」
「そうじゃ、まぁワシの魂の残滓が見せる幻覚みたいなもんじゃから気にするな」
内心ゾッとするのをひたすら隠す。この足はまだ生きているのは知っていたが、まさか意識まで宿っているのか。そして足が自ら考え私に幻覚を見せ語りかけてきたと?どう言う原理で何をしているんだ、さっぱり分からない。
これが……ナヴァグラハ大師が言った『人類史上最も強く、難解で明解な怪物』か。
「お前、ワシの足をどうするつもりじゃ。と言うかあれか、見た感じ識確使いか。ナヴァグラハと同じじゃのう」
「ええ、私はナヴァグラハ大師の弟子ですから」
「ふーん、なるほどのう。或いは鍵の代用品としてナヴァグラハが用意したのか、悪くはないがもうちょい識を極めてもらわんと」
「お恥ずかしい限りです」
不思議な感覚だ、私の識は目の前のそれを夢幻の類として認識しているのに、どう考えても一個の人間のように振る舞っているのだから。
「で、ワシの肉体をどうする。ウルキの所に持っていってくれるか?或いはワシの信奉者か?」
「いえ、それはまだ決めておりません」
「なんじゃあそりゃあ、遅きに失する程愚鈍なものはないぞ?ナヴァグラハはその辺教えとらんのか、いやぁ教えてなさそうじゃなぁアイツ。割と時間にゃルーズじゃったし」
「そうなのですね、私はナヴァグラハ様とそこまでお話ししたことがないので分かりません」
「まぁええわそんなの。それより早うせえ、足だけじゃ詠唱も出来ん。せめて口つけてくれ、そうすりゃそこから治癒で再生出来る」
どう言う原理だ本当に、聞いた事ないよ足一本から治癒で再生するなんて話……ですが。
「すみませんしシリウス様、まだ貴方を移動させるわけにはいかないのです」
「ほう、何故じゃ」
「……どうあれ、私を止める人間が残っています。彼女を倒さない限り私は貴方を安全に移動出来ない」
「お前を止める人間?そんなもん避けて通れば良いと思うが?」
「いえ、無理です。理屈では説明出来ませんが……彼女はきっと私を見つける」
チラリともう一度フリードリスに視線を送れば、既に戦いが始まっている。どうやらエリスさんが来たようだ、ならここに来るのも時間の問題だろう。
であるならば、下手に逃げて後ろから攻撃されるより……ここで迎え撃ったほうがいい。
(……エリスさん、今回は色々すみませんでした。だから私、せめて最後は貴方にケジメをつけようと思います)
彼女は必ずここに来る、ここに来るなら……つけてもいい。
決着を……。彼女を倒してシリウスの肉体をこの国から持ち出す、それまで私は逃げない。
今日こそ、逃げることも逃すこともなく、とことんやりましょう。
…………………………………………………
「さてみんな、準備はいいか?」
そしてエリス達はフリードリスへの突入を前に各々準備を整える。エリスはポーションを数本バッグに入れて、その他いつもの旅道具を揃えコートを着込み準備万端。
みんな椅子に座ってそれぞれの準備を完了させる。さて、エリス達はこれから敵の居城となったフリードリスへと八人で飛び込み味方の活路を開くと言う無茶をやる。かなりの無茶だ、だがやるしかないし……エリス達なら出来るだろう。
「全員、動きに関しては理解してるよな。まずはフリードリスを取り返す、そしてその後フォルミカリウスが飛び立ったらそれを追いかけ、南部でデルセクトにで待機している軍と合流して決戦を行う」
「つまり、俺達の仕事はここで敵を追っ払うってことだろ?分かってるよ、とにかく暴れまくって味方が入れる余地を作ってやるぜ」
「腕が鳴るね」
この長かかった戦いもようやく終わる、そう考えればより一層身にも力が入ると言うもの。そんな中エリスはチラリと隣に座るデティを見る。
「デティ、準備はいいですか?」
「バッチし」
指で丸を作る彼女を見てエリスは大きく頷く、二日前になにやら思いついたようで凄い魔術を完成させた彼女はそれを早速モノにしこの戦いに引っ提げて向かうことに成功した。
デティだけじゃない、みんなこの二日で対セフィラ、対イノケンティウス用の技や力を作り上げ万全の状態で臨むことができる。
「やってやりましょうね、デティ」
「おっけーい、エリスちゃんも無茶は程々にね」
そしてエリスはデティとハイタッチをして……席に座り直す。で、だ。
「ちなみにですが、『コレ』って大丈夫なんですよね」
「って聞いてるけど、メグから」
「はい、大丈夫でございます。こちらの説明書に書いてありますから」
なら大丈夫か……とはならん!なんでそんな不安な返答しか返ってこないんだ!?
そう、エリス達は今馬車の中にいるのではない。エリス達は今……空を高速で飛翔する砲弾の中にいる。その名も『帝国式人員投下砲』だ。
サイズは普通の砲弾だが、内部が空洞になっている上空間拡張で人が十人くらい入れるスペースになっている。それに特注の魔力機構で入り込み、射手に砲撃してもらうことで敵陣に投下されると言う仕組み。
ちなみに、実戦配備はされていない。何故なら危険すぎるからとそもそも転移機構があるなら必要ねぇだろって意見が多いから。まぁ今回みたいに転移機構が使えない場合に限り似たような使い方が出来ると言うわけだ。
とは言え……危ないよね、今エリス達は砲撃されている砲弾の中にいるわけですから。
「これ出る時どうやって出るんだ?」
「砲弾が爆散した勢いで全員弾き出されるそうです」
「それ先に言ってくんないかなぁ!」
「と言うか今気がついたが窓がないぞ!?」
「当たり前ですよメルク様、砲弾に窓がついてるなんて変でしょ?」
「いつ着弾するか分からないだろ!」
「確かに、開発局には次回から取り付けるように言っておきます」
「乗るんじゃなかった!!!」
「これ僕達着弾と同時に全滅とかないですよね」
「分からん、強ちあり得ないとも言えんのが怖い」
全員が戦々恐々とする中、ラグナが叫ぶ。
「ともかくだ!やるしかない!出たらそこからは終戦まで一直線だ!気合い入れろよ!みんな!!」
「き、気合の問題か!?」
「…………来るよ」
「え?」
ネレイドさんがポツリと呟く……それと共に────轟音が鳴り響く。
「うぉっ!?」
「マジか!」
「これ!もう城の中です!!」
爆散する砲弾、それはフリードリスの壁に直撃、同時に爆発し内側にエリス達を吐き出し……エリス達は踏み込む。八人揃ってフリードリスの内部に。
「う、うわぁぁあ!?なんだ!!敵か!?!?」
「いきなり砲撃された!!敵が中に入ってきた!!イノケンティウス様達に報告を!!」
周囲には山のような敵がウジャウジャと、数にして幾つだ、数え切れないから数に出来ない。だが一つ言えることはエリス達は既にフリードリスのエントランスにて敵に囲まれ……既に戦いは始まっていると言うこと。
「まずは掃討だ!!味方を招き入れる空間を確保しろ!!」
「了解!!」
瞬間、ラグナの号令に従い八人が動き出す。エリスもまた飛び上がり、目の前の敵の群れに向けて拳を振り上げ。
「大いなる四大の一端よ、我が手の先に風の険しさを与えよ『風刻槍』!!」
「ぐぎゃぁああ!?!?!」
拳を叩きつけると共に拡散する風の槍が周囲の敵達を吹き飛ばし、蹴散らし、戦いの始まりを告げる。
「ッ魔女の弟子か!こいつ!!」
「そうです!」
後ろから飛びかかってきた戦士を蹴り飛ばし、クルリと反転しながら両手を広げ。
「輝く穂先響く勝鬨、この一矢は今敵の喉元へ駆ける『鳴神天穿』!!」
指先から細い雷を放つ鳴神天穿。それを両手の全ての指から放ち周囲を打ち払うことで全員を気絶させる。そして……とどめ!
「雷を侍らせ、滾れ豪炎、我が望むは絶対なる破壊 一切を許さぬ鏖壊の迅雷。万雷無炎、怨敵消電、天下雷光。その威とその意が在るが儘に、全ての敵を物ともせず響く雷鳴の神髄を示せ」
拳を握り、大地を蹴り出し飛び上がると共に全身を回転させ、纏わせるのは漆黒の雷……そして。
「『黒雷招』!!」
「がぶふっっ!??」
「この雷、鎧を貫通して……ぐぎゃあ!?」
物理的に全てを貫く漆黒の雷は枝葉のように全方位に伸びて次々と敵を串刺しにし、そして後から遅れてやってくる電流に弾き飛ばされ、黒焦げになった兵士達があっという間に山となる。
「どっしゃー!!どうですか!!」
極・魔力覚醒は使わない、ここは前哨戦。まだスタミナは使えない……そうエリスが周囲の兵士を片付けた瞬間。
「敵かぁ!なら俺の出番だなぁ!!」
ハンマーで壁を壊して現れるのは見上げるような巨人。それは黒い髭をもじゃもじゃと蓄えながらエリスに向けに唾を飛ばすように怒鳴り。
「『黒槌』のガンデル!!いざ尋常に勝負!!」
ガンデルと名乗った力自慢は一気にエリスに向けて突っ込み、そして……。
「ぐびゅっ」
潰された、上から飛んできたさらに大きな拳により。
「あ、ネレイドさん」
「エリス、大丈夫?」
ネレイドさんだ、彼女はその後軽く腕を振るい敵を弾き飛ばしエリスを見下ろす。ガンデルを足元に見下ろす。どうやら助けてくれたようだ、必要はなかったが。
「みんな、気合い入ってるね」
「そうですね、鬱憤が溜まっていたんだと思います」
アマルトさんは剣を振るい、ナリアさんは筆を振るい、ラグナは拳を振るう。その連携により一気に部屋の数割が吹き飛び、デティが魔術を使い、メルクさんが錬金術を展開し、メグさんが刀を払う。その攻めが猛烈に決まり部屋の一角が制圧される。
勢いが凄まじい、いや……と言うより。
「思ったより敵の対応が早い。これは迅速に穴を開けたほうがいい。エリス、私が合図したら大技お願いしていい?」
「え?いいんですか?みんなは?」
「耐える」
「なるほど」
確かに、みんななら耐えるか。エリスの全力くらい……勿論星の魔力は使いませんしね、よし。
「じゃあ……みんな!!!防壁!!」
ネレイドさんが手を振り上げる、それに合わせてエリスは飛び上がり両手に魔力を集め。
「火天炎空よ、燦然たるその身、永遠たるその輝きを称え言祝ぎ、撃ち起こし、眼前の障壁を打ち払い」
エリスの全力、この場にいる全てを蹴散らせる最高の魔術となると選択肢は多くない、そんな中で選ぶなら……これだろう。
「果ての明星の如き絶光を今」
両手に集めた魔力が熱に変わり、急速に室内の温度が跳ね上がり、全てが乾いていく。として。
「『天元顕赫』」
地面に向けてぶっ放す。紅蓮の閃光は一瞬にして大地に直撃し……辺り一面を照らし、吹き飛ばし、破壊する。
壁は粉砕、奥の敵まで焼いて飛ばし、フリードリス全体を揺らす衝撃を生み出し、作り出す。敵だらけの要塞の中に敵のいない穴を───!!
「エリス達が!!来ましたよ!!マレフィカルム!!」
燃え盛る大地に立ちエリスは叫ぶ。これがエリスがマレフィカルムに向ける最後の嚆矢、長年の因縁にケリをつける為、蓄えた力の全てだ!!!
「ってバカ野郎!!この城ごと吹っ飛ばす気か!!」
「あ痛ーーー!?!?だってネレイドさんがーー!!」
しかし次の瞬間すっ飛んできたアマルトさんに殴られ、ネレイドさんを指差す。なんかネレイドさんも『なにもここまで……』とドン引きしてるし、なんでハシゴ外すんですか!!
「と、ともかくエリスのおかげで早速スペースが出来たな」
「僕、今死ぬかと思いました」
なんだかんだみんなも耐えていたようで、倒れ伏す敵の山を壁際に避けて、そして用意する。これは前哨戦、敵と戦う為の準備段階。
「ここから始まる、敵との決戦が。メグさん、軍を呼んでくれ」
「畏まりました、では……『大時界門』!!」
そして敵に迎え撃たれることなく、開かれた巨大な大穴から次々と帝国兵が、アルクカース兵が、アド・アストラの軍勢が現れ……。
「おい、なんで城がこんなぶっ壊れてんだよ」
一言、ベオセルクさんが呆れた顔で呟く。やばいやりすぎたもとエリスが顔を背けると……そんなベオセルクさんの横からアーデルトラウトさんが現れ。
「ふむ、いい感じだな。よし、じゃあ早速作戦開始だ、メルクリウス。デルセクト側の軍は動かしてあるか?」
「無論です、既に指示は出していますので今頃アルクカースに入国している頃でしょう」
デルセクト側の軍、総勢一千万。それはフォルミカリウス改を追い詰め、ゴルゴネイオンに引導を渡す今回の戦争の切り札だ。
それが既に動いていると言うことは、もう後戻りは出来ない。ここでフリードリスを制圧しフォルミカリウス改を南部に移動させ、そこでケリをつけるんだ。
そう言う作戦の流れだと、アーデルトラウトさんと話をした……その時だった。
「で、伝令!伝令!緊急事態です!!」
「なんだ、いきなり」
兵士達をかき分けて奥から魔伝を抱えた眼鏡の兵士が走ってくる。それも血相を変えて……なんか、やばそうだ。そんな感想を直感で感じたのと同時に伝令兵はよりにもよってな内容を叫ぶ。
「今デルセクトから連絡が!!今現在マレフィカルムの大攻勢を受け!集められた軍が全滅したとのこと!!!!」
「はぁぁ!?!?!?」
ラグナの顔色まで変わる、なに言ってるんだ、なにを言っているんだ!?
「なんで!?なんでデルセクト側にマレフィカルムがいるんだよ!!!いやそれ以前に……一千万だぞ!?ゴルゴネイオンが開戦時に連れてきた軍勢と同数!それをどうやってこの短期間に全滅させられるんだ!?」
ラグナの中で早速崩れていく、計算が。デルセクトの軍が全滅したらフォルムカリウス改に逃げられたら、ケリをつけられない。また逃げられて振り出しに戻る、戦いを終わらせられない……これ以上戦争を続けたらアド・アストラだって揺らいでしまうかもしれない!
「なんだ!どっから湧いて出た!!その戦力は!!」
「それが、そいつらはゴルゴネイオンと関係がないようで。マレウス側から現れたようです」
「新手だと……いや、だがもう八大同盟はない。ゴルゴネイオン並みの戦力なんてセフィロトくらいしかないし、それも今ここに戦力を集めている……一体なんだ!」
存在しないはずの大同盟級の戦力が突然現れた、それも魔女大国と真っ向から戦って勝ってしまうような……そんな大組織。こんなの同盟レベルじゃない、エリス達が今まで相手したどんな組織よりも強いかもしれない。
一体、どこから来たんだそんな組織……。
「その組織の連中が言うに、その組織の名は……『エクス・ルナ・スキエンティス』!!凄まじい強さの男が率いている新興組織だそうで!」
「え、エクス・ルナ・スキエンティス……?なんだそんな組織、聞いたこともないんだが」
突然、まさしく突然。降って湧いた謎の組織により……エリス達の計画はいきなり暗礁に乗り出した。
一体なんだ、エクス・ルナ・スキエンティスって。なんなんだ、その組織を率いる凄まじい強さの男って。
………………………………………………………
デルセクト極北の街、そこは一面火の海になっていた。アド・アストラが用意した一千万の軍は必死に抵抗したが……『それ』はほぼ単独で大軍勢を片付け、悠々と崩れ去る街を歩く。
「おうゴルァ!もう敵はいねぇのかよ!これが天下のアド・アストラ様のお力ってか!大したことねぇなぁ!!」
「うぉおおお!!流石は俺達のキング!バシレウス様だぁあああ!!」
その男の名はバシレウス、彼の率いるエクス・ルナ・スキエンティスはアド・アストラの大軍勢と真っ向からぶつかり、完膚なきまでに破砕したのだ。
マレウスからアルクカースを目指し進む彼らは転移魔力機構やフォルミカリウス改のような空飛ぶ移動手段を持たない。故に、陸路で来た。デルセクトを横断するように進み、邪魔する軍を蹴散らし、唯一無二の武力により我を押し通したのだ。
「ケッ!面白くねぇ、将軍も総司令も出てきやしねぇ、雑魚ばっかり相手してもつまんねーんだよ」
蹴りの一つで家屋を倒壊させれば、エクス・ルナ・スキエンティスの兵士達がワラワラと家屋に飛び乗り、ガサガサと瓦礫を漁り。
「うぉ、キング!」
「キングって言うな!」
「やっぱりこの街の連中!たんまり溜め込んでましたぜ!ほらこんなに金貨が!金目のものが大量に!」
「流石はデルセクトだぜヤッホー!エクス・ルナ・スキエンティスの活動資金にしましょうよ!」
そう言って持ってくるのは大量の金銀財宝、それがバシレウスに次々と献上されるが。
「捨ててけ、こんなもん」
「え!?なんで!?」
「邪魔だろこんなもん抱えてても!俺達ぁ小遣い稼ぎに来たんじゃねぇんだよ、金が欲しけりゃそのうち街でも襲えばいいだろ、今じゃねぇ」
ポケットに手を突っ込み歩く彼はただ一点を目指して進む。兵士達が守ろうとした道の先。即ち、アルクカースに通じる国境……。
「イノケンティウスが面白そうなことやってんだろ、そこには将軍も魔女の弟子もいるんだろ、だったら全員纏めて俺達でぶっ殺してやろうぜ。戦争も何もかも全部めちゃくちゃにしてやろうや!!」
牙を見せ笑う、参戦を宣言する。エクス・ルナ・スキエンティスという武力を戦争にぶつけ、より一層混沌とさせるため。ゴルゴネイオンともアド・アストラとも違う思惑……即ちただただ混迷させる為だけの暴力的な野心が邁進する。
「誰がこの世で一番強えか、教えてやるぜ」
そして、進む。文句なしに現状に於いて……人類最強と言える男が、アルクカースへと進んでいくのであった。




