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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!3月30日二巻発売!】  作者: 徒然ナルモ
二十二章 アド・アストラVSマレウス・マレフィカルム
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842.魔女の弟子とコクマーと言う名の怪物



コクマーにメグを奪われたアマルトとデティは激しく抵抗した。とは言えあまりにも未知な存在であるコクマーの魔術とその性質に苦戦。そうやってまごまごしているうちにフォルミカリウス改が突っ込んできた。


破壊されるフリードリス、解放されるマクスウェルとホド、そこから十天魔神達が軍勢を率いて現れ……こりゃいかんとデティは軍を撤退させ、アマルトと共に囮になりながら別行動する事で軍を守ってくれたのだ。


当然、軍の攻撃を受けた二人は傷ついたが、そこはデティがいる。普通になんとかなった……なったらしいが、大変なのはそこからだ。


「ねぇアマルト〜!ご飯美味しくない〜!」


「ワガママ言うなよ、碌な調理器具も調味料もねぇ、いるのは魔獣だけ。この状況でどうやって美味い飯作れってんだよ」


二人はなにもないアルクカースの荒野を旅する事になった。目的はメグを助ける為、デティは必死にメグを助ける方法を模索しコクマーの正体を考察。そして荒野にある材料だけで魂を剥離させるポーションの制作に着手。サボテンの花やわずな植物を使って作ってしまうんだから天才的だ。


だが流石に食糧まではなんともならず、アマルトは厳しい食糧事情に悩まされたそうだ。まぁサバイバル料理はエリスの分野だからな。


「甘いのが食べたーい」


「石でも舐めてろー」


ポーション作りに時間を使ってしまったせいで二人は軍の壊滅に気が付かなかった。まぁ街の殆どがマレフィカルムに制圧されている以上、人里には近づけない。本当に荒野をうろうろする事しか出来ない。


で、三日間の制作期間を経て、ついに魂を剥離させるポーションが完成。と同時にアド・アストラ軍の壊滅に向かったコクマーを発見、交戦、敗北。

コクマーの凄まじい攻勢とポーションをどのタイミングで使うか決めておらず、攻めきれず負けたらしい。しかしそこで諦めなかった二人はコクマーを追跡し……そして。


「で、今に至るってわけよ」


「ごめんねみんな!本ッ当にごめん!気がつくのに遅れちゃった」


「構わんさ、そちらもそちらで大変だったようだしな。敵が拠点を攻めてくる中二人で囮を請負い味方を逃していたんだろ?凄まじい仕事ぶりじゃないか」


「アルクカースの荒野を踏破して生き延びただけでも凄いよ」


俺は拠点にやってきたデティとアマルトの話を聞いて頷く。つい先ほど、突然現れたアマルトとデティによってコクマーは退けられた。まさかの合流で面食らいつつも俺達は更なる仲間を得たのだ。


まず早速デティに軍全体を治癒してもらい、ゴッドローブ将軍もマリアニール団長も復帰、タリアテッレもクレアも万全に。そして魔女の弟子達も全快。一気にマレフィカルムと真っ向切って戦えるようになった。


すげぇよな、一応ウチの軍団にも数千人規模で治癒魔術師の団体がいるんだが、それすら相手にならないデティの治癒能力の高さ。今更ながら師範の言ってた事を思い出すよ。


『大いなる厄災で一番考えたのは、スピカをどこに配置するかだ』


と言うボヤきの理由。痛感する、古式治癒魔術の達人は戦争に於いてあらゆる局面を打破する鍵になる、今はぶっちゃけ依存しすぎているレベルだ。


「それで、デティ。メグをコクマーから取り返す算段は立っているのか?」


「うん、勿論」


メルクさんが嬉しそうに頷く。ちょっと前まで助けるのは不可能レベルの話だったのに、デティはなんの問題もないとばかりに頷く。事実コクマーはさっき飲まされた薬によりかなり苦しんでいた。

まぁ解放するには至らなかったが……。


「それがさっきの薬か?デティ」


「うん、荒野で色々集めて作ったんだけど……流石に厳しかったよ」


デティは空の瓶を取り出して悔しそうに呟く。魂を剥離させるポーションか、正直あまり想像はつかないがデティがそれでやれると言うのならやれるんだろう。つまりコクマーの同化を解くにはこれが必須と。


「でも次はやれる、やる。魔術導皇に三度目の挑戦はない。一度やって学んだら、二度目で必ず終わらせるから」


「流石だ、……多分だがコクマーは遠くに行ってない。直ぐに再戦になるだろうな」


「え?そうなの?」


「アイツ、マレフィカルム軍を連れてきてるって言ってた。だからそこと合流して直ぐに俺達を殺しにくるだろう」


コクマーは俺達を殺しにきた、これが偶然ばったり会っただけなら退却もあり得るが殺しに来てるんだから殺すまで帰らないだろ。ましてや軍を連れてきてるんだ。

既にアイツは俺達の凡その位置を把握してる。だから今のコクマーの頭の中にあるのは『逃げよう』ではなく『逃してたまるか』、つまりまだアイツの中で逃げる側は俺達だって認識がある、そう言う認識があるうちは確実に撤退はしない。


「直ぐにここを包囲して殺しにかかってくる。そこで今度こそメグの体を取り戻す、でどうだ?デティ、薬の用意は出来るか?あと十分くらいで作ってくれるとありがたいんだが」


「先行ってよもう、直ぐに作り始めるから」


「む、なら道具の用意は私が錬金術で行おう。デティのお陰で魔力も万全だ、機械だろうが特定の成分だろうがなんでも作ってやる」


「ありがたい〜〜!じゃあまず清潔な鍋と棒を、それと水と……」


「僕赤熱陣で鍋を温めますね」


そう言って魔女の弟子達は動き始める。事態が差し迫っている事もあり迅速かつ的確に。少し前までの停滞が嘘のように進んでいく。とくれば……あとは。


「ラグナ、マジで悪かったな」


「いやいいさ、こっちこそ大変なのに手助け出来なくてごめんよ」


俺とアマルトは二人で木陰に座りながら語り合う。そこにやってくるのは。


「陛下、随分軍が立て直されましたな」


サイラスだ、彼は俺達の前に座り、アマルトは頭の後ろで手を組み木にもたれ、俺は胡座をかく。そこに突き合わせるようにサイラスの膝が置かれる。


「これからどうするので?」


「一応メグを救出するつもりだが……出来れば、その流れでフリードリスの奪還に動きたい」


メグを助けるのは目的ではなく前提。結局最大目標はゴルゴネイオンの撃破なのだからここから目線を逸らすわけにはいかない、となればその勢いを活かして俺の家を取り戻す。いや言い方を変えよう、この戦いを終わらせようと思う。


「決着つけるんだな、けどよラグナ。今のフリードリスを正面から陥すのは難しいと思うぜ」


そんな中アマルトは……唯一この中でフリードリスの現状を知るアマルトが口を開くのだ。


「難攻不落のフリードリスの上部に敵の城……なんだっけ、名前」


「フォルミカリウス改」


「そうそれ、そいつがブッ刺さってる。つまりフォルミカリウス改に乗り込む日はフリードリスを突破しなきゃいけない。こっちとあっちの本陣二枚抜きが要求されるってわけだ」


「ふむ、それは難しいですな」


俺とサイラスはアマルトの言葉に首を捻る、まぁそうだよなと。どうやらフォルミカリウス改とフリードリスが合体したような状態にあると。難攻不落を下に敷く事でフォルミカリウス自体の防御力を上げているのか。


「フォルミカリウス改から大量の砲撃が飛んでくる、フリードリスからも攻撃が飛んでくる、俺ぁ戦争に関しちゃ素人だし用兵の経験もないが、一般常識として考えるにあの城を前に布陣すること自体にリスクがあると思うぜ」


「実際そうだろうな。正攻法で行くならアド・アストラ全軍を用いて死体の山を築けばなんとかなるかもしれないが……そんなもん出来るわけもない」


「しかしそもそもフリードリス大要塞自体戦の天才アルクトゥルス様があらゆる策略戦略を弾き返す構造をしております、あそこを落とす方法は我輩もいくつか考えましたがそこにフォルミカリウスの援護も入るとなるとどうにも」


するとアマルトはうーんと唸ると。


「じゃあアレはどうだ?最初やったみたいにさ、フリードリス内部に実力者だけで転移。フリードリスをしっちゃかめっちゃかにした後外から軍を突撃させる。いや?なんなら内部の転移機構を使って内外から攻めてもいいんじゃねぇの?」


「いい手だアマルト、悪くない。悪くないがそれだとフリードリス内部を攻略するのに力が傾きすぎる。フォルミカリウスには浮遊という奥の手があるんだ、また空に飛ばれて逃げられたら面倒なことになる」


「次は、空から砲撃を行いフリードリス諸共我々を吹き飛ばすかもしれませんな。そうなればフリードリスとは言え巨大な棺桶も同然でしょう」


「う、プロ二人で否定すんなよな、ヘコむだろ!」


別に否定したつもりはないんだが……。しかしそもそもだ、今の俺たちにはフリードリスを陥落させられるだけの戦力もないのが実情。ここにいる数十万だけでは数百万のマレフィカルムには敵わない。


アド・アストラ側から援軍を連れてくるのが必須だが、それらを連れてきてアルクカースの荒野で編成していたらまた敵軍から攻撃が入りかねない。そうなると泥沼だよな……。


「うーん、難しいですな陛下」


「難しいな……」


「難しい難しいって、お前ら二人が頼りなんだぜ?無理でもなんでも頼むぜ」


「無理じゃないさ、難しいってだけ。……そうだ、サイラス。こういうのはどうかな」


そう言って俺はサイラスとアマルトに相談しながら地面に図形を書いていく。用兵の妙とでも言おうか、少ない兵士でもこういう風に動かせば或いはこれも出来るのではと考えたところサイラスは。


「……むぅ、少々難しいのではないですかな。結局これではフォルミカリウス改そのものに逃げられてしまう、これを実現するには軍を二つに分ける必要があります」


と首を振るうのだ。まぁ確かにそうかもな、こうやってフリードリスを攻めるとフォルミカリウス改に空を飛んで逃げられる可能性がある。というかそもそもどうやってもフォルミカリウス改に逃げられるという部分が消せない……。


「じゃあこうすりゃいいじゃん」


そう言ったのはアマルトだ、近くの石をポイポイと俺の書いた図形の上に置いてアレやこれやとアイデアを言ってくれる。


「────で、こうすれば敵をぶっ潰せる。と素人はお考えだがどうかな、プロお二人」


「…………」


「…………」


アマルトのアイデアを聞いた俺とサイラスは目を見合わせる。静かにサイラスはそのままアマルトに視線を向け。


「貴方、何者ですかな。素人と言いながら面白い事を言う」


「え?的外れだった?」


「いや、最高だアマルト。多分正解だ、これでいこう」


「い、いいのかよ!素人の考えた作戦で!上手くいく保証とか出来ねぇよ俺」


「作戦が上手くいくかどうかは、我輩のような軍師や現場の兵士達の担う部分。根底の軍略が成り立っているのならやれます」


「お、おお。頼りになるなアンタ」


「それはこちらのセリフです、陛下。よい友をお持ちになりましたな」


「だろ?アマルトは頼りになるんだよぉ〜」


「や、やめろ。ハードル上げんな!寧ろ今からネレイドやナリアにでも聞いたほうがいいんじゃねぇの」


実際、アマルトはこう言う部分じゃ頼りになる。俺達魔女の弟子の参謀役だもんな、ネレイドやナリアもかなりの戦略家だが……こう言う全体の絵を描くことに関してはアマルトは確かな見識を持ってる。


「ってわけで、スケジュールも決まった。そしてこれを達成するにはメグが必須だ、今回の戦いでメグを取り戻す」


「そこに関してはその通りだな、まぁこんだけ魔女の弟子が揃ってんならやれるだろ」


「うむ、コクマーが連れている軍勢に関しては我輩がなんとかしましょうぞ」


俺達は立ち上がり、動き出す。まずはメグの奪還、ここに全力を使う。流石にコクマーを好き勝手にするとこっちにも損害が出そうだしな。


「デティ、ポーションは出来たか?」


「うん、一個だけどね。有り合わせの素材で作ったやつより余程いいのが出来た、これこそ魂を剥離させるポーション……ううん、魂魄剥離ポーション!大完成!」


そしてデティはの方も既にポーションを完成させていた。さっきのポーションよりずっと濃い色の紫をしたそれを瓶に詰め、自慢げに見せている。流石はデティ、マジでなんとでもしてくれるな。


「ああそうだ、ラグナ」


するとアマルトが耳元に顔を近づけ、コソコソと話し始め。


「こんな状況でいうのもなんだけどさ」


「ん?なんだ?」


「菓子とかないか?砂糖でもいい」


「菓子?砂糖?なんでそんなもんが必要なんだよ」


「デティだよ、コイツもう一週間くらい菓子を食ってねぇ。コイツ今すげー魔術を作ろうとしてるんだが、そいつを完成させるにはデティの脳みそに糖分を与えてやらなきゃいけないらしい」


すげー魔術か。なるほど、デティは常に天才的なアイデアと知識でさまざまな物を作っているが、それらを下支えしているのがいつも食ってる菓子類なのか。そういう原理でデティは動いてるんだな。


とはいえ……。


「悪い、ない。というより食糧も今ギリギリなんだ、糖分の摂取はさせてやれそうにない」


「そっか……まぁ仕方ねぇよな、こんな状況だ」


出せるもんなら出したいが、ないものは出せない。そこに関しては申し訳ない。


「そうだ、メルクさん。錬金術でブドウ糖とか作れないか?」


「ん?出来るが」


「それ食えばいいじゃん、デティ」


「うぇー!不味そう!やだ!」


「ワガママ言うなよ……ま、メグが戻って来たら物資の補給も出来るし、そっちを頼りにするか」


メグが戻れば色々解決する、全てが充足する。とくれば、……やはりやるべきは。


「よし、じゃあメグさんの救出に向かう。みんな、準備はいいか?」


「うん!任せてよ!」


「はい!僕頑張ります!」


「捕まっていた身として、仲間の救出には全力を尽くそう」


「ん、私も元気になった。やれる」


「よーし!んじゃあ行こうぜ!ラグナ!」


「ああ!よっしゃ!メグを助けるぞ!」


おー!と六人で拳を掲げる。ここでメグを助ける、みんなが揃っているならそれも出来る筈だ!!そう気合を入れて、万全になった軍を動かす─────。


…………………………………………


セフィラ『知恵』のコクマー。デティが考察するに彼女は通常の人間とは別の身体をしているらしい。見たところ人型はしていないらしく、黒いヘドロのような姿をしていたらしい。


その正体は剥き出しの魂そのもの、ルビカルテのように魂自体が行動する特異な存在。それ故に他者の肉体を奪う必要があり、その上他者の魂を吸収してしまう性質も持つと言う。


それにメグが体を乗っ取られた。一大事だ、だがまだアイツが時空魔術を使えていないと言うことはメグの魂はまだ無事だと言うこと。即ち、助けるなら今しかない。


「あれか」


そして俺達は森を掻き分け、山の頂上から下を見れば……いる。コクマーの言っていたマレフィカルム軍、相当数連れて来たんだろうな、ザッと数えて十万ほどいるように思える。大軍勢だ……だが。


「狙いは一点、コクマーだけだ。他はどうとでもなる」


俺は腕を組み左右を見る。そこにはデティ、アマルト、メルクさん、ナリア、そしてネレイドがいる。魔女の弟子が六人揃ってる、その上デティのおかげでみんな回復しているからゴッドローブ将軍やタリアッテレ団長、マリアニール団長にクレア団長が動ける。兄様も姉様もいるし何よりサイラスがいる。


これだけ役者が揃ってるなら敵軍の数が十倍でもなんとかなる。故に狙うのはコクマーの一点のみ……。


「デティ、見えるか」


「見えるよ、軍勢の中心にいる。と言うかこっちに気がついてる」


「ふむ、ならば丁度いい。打って出るか、ラグナ」


「ああ、取り敢えず他のみんながやりやすいように正面から敵軍を割っていく……みんな準備はいいな?」


「ああ、やれるぜ」


「散々やられたんだから、仕返しをする」


アマルトが剣を携え、ネレイドが拳を握り。


「メグさんの体を奪うなんて……許せないですよね。僕、やりますよ」


「ナリア君は私と一緒ね。正面突破は第三段階組に任せよー」


ナリアが覚悟を決めた顔で札を用意し、デティはお気楽な余裕を見せる。


「じゃあ、出るぞ。ラグナ、号令を」


「ああ……」


そしてメルクさんが俺の背を叩き……俺は。


「魔女の弟子!出るぞ!!」


「応ッ!!」


全員がつま先を揃え、前に飛び出す、山の下に控えるマレフィカルム軍に向けて魔女の弟子達が先行するように飛翔し。一気に突っ込む、五十万の軍勢にたったの六人で……数千倍近い兵力に一切畏れを抱かない、抱く必要がない!!


「陛下達が出たぞ!我々も前へ!!」


そしてその背後をサイラス達が追うように兵士達が走り出す。既に全員の魔力も体力も回復した、さっきまでとは違う。根本的に……故に。


「『熱拳一発』ッッ!!」


「『フィアットルクス・カリアナッサ・スレッジハンマー 』!」


一撃、刹那の速度で飛んだ俺とネレイドの拳が軍勢を真正面から捉えて、吹き飛ばす。それはまるで人と衝撃波の津波のように舞い上がり、一気に数百人が吹き飛んでいく。


「う、うわぁぁあ!どうなってんだ!コクマー様の話じゃ弱ってるはずじゃ!!」


「魔女の弟子達が一気に!!この間ボコボコにやられたんじゃないのかよぉ!!」


大混乱、マレフィカルム兵達は一気に現れた六人の魔女の弟子にパニックを起こしジタバタと暴れ始める。このまま可能な限り敵を倒して進む!!


「よっしゃあ!後方待機で溜まった鬱憤!晴らさせてもらうぜ!!極・魔力覚醒『鬼門呪殺の悪路王』!!!」


「よかろう、私も憂さ晴らしといこう!極・覚醒『オプス・ト・アントローピノン・アガトン』!!」


いきなりアマルトとメルクさんが極・魔力覚醒を解放し、一気に戦場の様相が変わる。


「道開けな!!『魔獣地獄』!!」


「徹甲弾よ!」


そして放たれる大規模魔力災害。アマルトが拳を地面に叩きつければ地面が変容、地面から牙や爪が表出し魔獣の影が敵軍を飲み。メルクさんの背後から現れた巨大城塞が爆裂する砲弾を雨のように降り注がせる。


ただでさえ、強力な覚醒。しかしそこに更に。


「おうおうメルク、お前いい覚醒してんな。あれやんない?合体技的な」


「いいだろう、好きに合わせろ」


連携が加わる、地形に直接影響を与えるアマルト、範囲内の全てを強制的に呪う彼の力が溢れ出す。メルクさんの作った城塞に飛び乗り指を鳴らすと……。


「『魔城モンストル』……いい感じだろ」


「ああ、デザインは最悪だがな」


漆黒に染まる城から次々と魔獣の要素が現れる。羽が生え龍の頭が生え、剰え側面から蟹の足のようなものがいくつも現れあっという間に移動城塞が出来上がり。


「撃て!!『獣因大魔砲』ッ!!」


メルクさんの号令と共に龍の頭となった砲台の筵からブレスと砲撃を合わせた物が噴き出す。それは火炎を纏い地面に着弾し大爆発を起こす……のみならず、どうやら着弾地点を中心に周囲にいる人間を無条件で呪うらしく、兵士達を獣の姿に変えて暴れさせるのだ。


はっきり言おう、とんでもないな。二人が敵じゃなくて本気で良かったと思うよ。


「いいねぇアマルト!メルクさん!なら私達もやろうか!ナリア君!」


「はい!」


そして更に前に出るの魔力覚醒をしたデティとナリアだ。体を魔力に変えたデティは体を拡散させ無数の魔術陣を生み出し、ナリアの分身が全員札を振り撒く……あれは。


「『魔術箋・改』!!」


それは魔術を統べる魔術導皇デティフローアとそれに叛意を示した魔術道王イシュキミリが生み出した技術の混合。あり得ることがなかった二つの力が組み合わさり。


「『大灼焔波・久那土赫焉』!!」


轟音を上げ吹き出した熱の衝撃波が軍勢を切り裂き彼方まで飛翔する。どう考えても第二段階の人間が出していい火力じゃねぇ。俺とネレイドの攻撃が可愛く見えるじゃねぇか……!


「陛下!!ちょっと強すぎです!!我が軍の仕事がなくなります!!」


「悪い!それよりみんな!道が開いた!先に進むぞ!あとはサイラス達に任せよう!!」


一瞬で数万を削り、サイラスが嬉しい悲鳴を上げる。正直このままここでもう数分戦ってもいいが、そうすると敵を壊滅させそうだ。壊滅させたら流石にコクマーも逃げてしまう、それは避けたいので先に進むことにした。


「だっはははは!気分爽快!」


「くっははは!まさか我々が揃うとこうなるとは!これならもっと早くからこうしているべきだったか!」


「ああ、全くだよ……」


アマルトとメルクさんが大爆笑しながら俺たちの後に続く。デティ達が開いた道を突き進めば、敵軍も手出ししてこない。下手に手を出せばどうなるかを理解したからだ。


ぶっちゃけ想定外だ、魔女の弟子それぞれの武力の高さは理解していたが、同時に戦うとここまで跳ねるとは。いやみんなの連携は最強だと思ってたが……第三段階になって、いやマレウスでの旅を経てみんなの連携の力が強化されている。


今なら、レグルス様の体を乗っ取ったシリウスにもストレートで勝てそうだ!!!


「ラグナさん!!メグさんがいました!!」


「む!」


瞬間、見つける。軍勢の奥にすんごい嫌そうな顔をしたメグ……コクマーの姿が。


「ちょっと、さっきまで弱ってたはずでございましょうに。なんですかこの火力、攻撃能力が合わさっただけじゃない。それぞれの連携で爆発的に伸びている?これが魔女の弟子!?」


「コクマーッッ!!」


そして踏み込む。一気に加速し周囲の兵士を一気に吹き飛ばし体を回転させコクマーに蹴りを叩き込み───!


「俺の友達の体!返してもらうぜ!!」


「ッッ!ナメるなよ!セフィラを!!」


弾け合う、俺の蹴りが放つ衝撃波とコクマーの作る多重防壁が。そしてぶつかり合う視線の火花、ここでメグを助ける!!


「消えろ!!『エッシュ・オクレラー』ッッ!!」


「っと!!」


しかし、コクマーとてセフィラ。簡単にはいかない、全身から放たれる黄金の炎が俺に触れる前に咄嗟に防壁を足場に飛び立ち回避する……さて!


「あれが、デティの言った……」


地面に降り立ち、確認する。使って来た、コクマーの保有する魔術『混沌魔術』を。


……あれはデティ曰く正規の魔術じゃないらしい。と言うのもその性質そのものは至って普通の魔術なのに効果が普通じゃなさすぎる。そこでデティが考えた出した仮説、それは。


コクマーの性質そのものを多分に含んだ魔術ということ。


「フフフ、アハハ!さぁ踊りましょう。ラグナ様、ぶっ殺してあげますから」


「だから、メグの顔でそれを言うなっての!!」


混沌魔術……それはコクマーが今まで喰らって来た人間の魂に刻まれた魔術の残滓。それを一気に解放すること発動させている、多重複合魔術の一環だという。


つまりあれは属性魔術であり、付与魔術であり、錬金術であり、幻惑魔術であり、治癒魔術であり、魔術陣でもあると言うもの。全てが不完全で不安定な形で表出し絶妙な形で成り立っているんだ。


俺の体を切り裂いたあの回避不能な斬撃、あれもその一つ。治癒魔術の相手の肉体に無条件で効果を与えるというものに付与で錬金術を付随させ放った攻撃。故に攻撃そのものの軌道が見えなかったのだ。


全ての魔術系統の特徴を持つ魔術、それが混沌魔術。この世でコクマーにしか使えない魔術だ。ちなみに。


『それってデティのアブソリュートミゼラブルみたいなものか?』と聞いたら。


『あれと私の魔術を一緒にしないで!あれは飽くまで複合!私のは完全なる同一化!』とよくわからない返答をされたので多分別物だ。


(さて、メグの体を取り返すには例のポーションを飲ませる必要がある。その為には混沌魔術の攻略が必須……まぁそれも対策してあるが)


あれは軽くステップを踏み、魔力を高める。その間にみんながコクマーを囲み逃げ場をなくす。戦うのは俺一人、的を俺一人に絞らせる。


「ふふ、仲間は結局見てるだけですか?さっきのリベンジのつもりなら、少々愚かと言わざるを得ないでございます!」


「言ってろよ!」


俺は突っ込む、仲間達は見ているだけかって?きちんとみんなにも仕事はある……それは、『見ているだけ』だ。まぁコクマーの言うことは正解だな。だってそれが一番効率が良いのだから!


「『マユム・バ・マユム』!!」


瞬間、コクマーが俺に向けて放つのは地平を埋め尽くす程の黒い津波。一気に水を生み出してきた、だがそれと同時に声が上がる。


「ラグナ!それは幻惑術がメインだよ!」


「それと属性魔術!触れたら水に流される気がするだろうけど!気のせい!突っ切って!」


「なッ!」


ネレイドとデティの声がする。事実俺はその通り突っ切って黒い濁流を超える、確かに本物の水のように感じるが、ネレイドのいう通りよくよく見てみれば幻惑だ。恐らくこちらが本物だと認識した瞬間本物の水に変わるのだろう。


だが種が分かれば怖くない。


「チッ!『エッシュ・オクレラー』!!」


「ラグナ!それは錬金術の応用だ!」


「魔術陣を起点として発動してます!よく見てください!」


ナリアとメルクの言う通り、無数に噴き出し地面を覆うように放たれた黄金の炎、だがそれはよく確認すると地面に浮き出た魔術陣から吹き出し、それが大地を舐めているだけ。恐らく錬金術で魔術陣を作り、そして炎に触れた場所にも魔術陣を作ることで拡散する火が生まれているのだ。


これも、種が分かれば怖くもない。


「ッさっきから横槍が!」


俺は黒い水と黄金の炎を超える、どちらも無傷で。確かにコクマーの魔術は種が分からないと脅威だ、その上その種も分かり辛い。

だが、今ここで見ているだけの魔女の弟子達は全員が全員それぞれの系統の達人。その魔術に何が含まれているかは一発で分かる、俺が付与魔術を看破出来るように!


「『エム・エハッド』!」


続いてコクマーは螺旋を描く光を放ち、周囲を巻き込みながら破壊していく。だがあれは……。


「ラグナ!それ属性魔術!それとなんか混ざってる!」


「付与だな!」


属性魔術で土塊を生み出し、それに遠心力を与える付与を同時につけることで自身の周りを高速回転する衛星を生み出しているのだ。これもまた種が分かれば退所出来る。

コクマーを中心に描かれる螺旋、光の線、高速テロ飛来する土塊を見切り回避しながら前へ前へ……そして。


「よう!さっきぶり!」


「接近された……まずいか!」


踏破する、混沌魔術の雨を。仲間達の助言があればここまで来ることは簡単、既にコクマーは目の前、目と鼻の先。さて……問題は、ここから!!


「デティ!!」


「あーい!」


瞬間、デティから投げ渡されるのは先程の紫色の液体の入った瓶、即ち魂魄剥離のポーション。それを見たコクマーの顔がみるみる青ざめる。


「そ、それは!!」


「大好物の差し入れだ!飲めよ!」


一気にコクマーに迫り瓶を振りかぶり、その口目掛け突き出し……。


「させるかぁ!!『ミクヴェ・ハ・マユム』!!」


コクマーの周囲を赤く沸る水が囲み無数の斬撃を放つ。デティとメルクさんが言うにこれは属性、付与、錬金を掛け合わせた魔術だ、全方位にやたらめったら攻撃をしポーションそのものを破壊しようとしているのだ。


流石に抵抗してくる、このままじゃ飲ませられない……だが!


「ナリア!パス!」


「はーい!!」


弟子達だって見ているだけなわけがない。俺はコクマーの横に飛んできたナリアに投げ渡し……。


「なッ!?」


コクマーは気がつく、自分の周囲に大量のナリアがいることに。そう、彼はもう覚醒している、故にその周囲には無数の手が蠢き。


「『アンサンブル・コミット』!!」


「うっ!?」


そこから繰り出されるナリアの高速パス連打。コクマーの周囲を連続で移動するポーションに対応が遅れる、所謂撹乱だ。コクマーの目が右へ左へ行ったり来たり……だが。


「だから、ナメるなと……」


コクマーの指先が煌めき。


「言っている!!」


「うわぁー!!」


「ぐっ!?」


放たれるのは嵐のような魔力斬撃の範囲攻撃。魔術だけじゃない、今まで食らった人間全ての魔法技術も受け継いでいるのか!

その斬撃はまとめてナリアの分身を引き裂き、俺すらも吹き飛ばす。そして宙に浮かぶポーションを見たコクマーは……。


「はい、チェックメイト!」


一閃、指先から放つ斬撃でポーションの瓶を両断し……メグの体を取り戻す唯一の方法が失われ────。


「な訳ないでしょ」


「は?」


当然、そんなわけはない。即座にコクマーの背後から組みついたネレイド、そしてそれにくっついていたデティ。その手に握られているのは……魂魄剥離のポーション!


「なっ!?もう一つ!?いや……まさか!!」


「幻惑を使うのに、私の幻惑は見抜けなかったの?」


幻惑だ、デティが投げて寄越したのはただの石。それをネレイドの幻惑で本物に見せていただけ、本当のポーションはずっとデティの手にあった。全てはコクマーが油断する瞬間を狙う為。


「うがぁああああ!!やめろぉおおおお!!!」


「ネレイドさん口開けさせて!!」


「うん、はい、お口あーん」


「あがぁああああ!?!??」


凄い絵面だ、暴れるメグの体をネレイドが抑え、無理やり開けた口にデティが見るからに怪しい液体を注ぎ込む。何も事情を知らなければ俺は100%止めていた。

けど、今はこれでいい!これでメグの体に入っているコクマーを追い出すポーションを注ぎ込めた!!


「ぐっ!ぐぷっ!……ぅぐぅう……!」


無理やりポーションを飲まされたコクマーは顔を青くし、気持ち悪そうに膝を突く。効いてる、さっきのよりずっと効いてる!これなら……!!


「う……うぅ!!」


「メグさん!戻ってきて!!」


「メグ!!」


「ぅ……ゔぁああああああああ!!」


雄叫び、頭を抑え叫ぶメグ……彼女は白目を剥き仲間達の声に応えるように叫び、そして。


「う……うう、わ、私は……一体。あれ?皆様?」


パッと顔色を戻すメグは混乱したような周囲を見回す。それを見て……俺は。


「よしっっ!!!」


「やったーー!!」


「戻ってきた!」


ガッツポーズをする。デティも飛び上がり、ネレイドもニッコリだ、戻って来れた、取り戻した、仲間を。さっきまで絶望的だった空気が一気に和らぐのを感じ、俺はその場に座り込み─────。




「馬鹿野郎ッッ!!!まだだッッ!!」


「え?」


アマルトが叫ぶ……まだだと、いやでもメグは元に……。


「さっきは黒い液体が口から出てた!!けど今回は出てねぇだろ!!」


「ッ!?」


ハッとメグを見る、アマルトの言葉が響き渡ったのと……ほぼ同時に。


ニタリと笑うメグが、再び指先を煌めかせ。


「『エッシュ・オクラレー』」


「はぁっ!?」


放たれる黄金の炎、その爆発が俺を、デティを、ネレイドを吹き飛ばし……い、いや。


「ぐぅっ!?な、なんで!?ポーションは確かに!」


「デティ……これは!」


「分かんない!分かんないよ!ポーションは確かに完成してたし!飲ませたはずなのに!!」


地面を転がり、体に燃え移った炎を鎮火。そうしている間に黄金の炎の中で立ち上がるメグは…いや、コクマーは歯を見せて笑い。


「ふふふ、バカでございますね。さっき見せられた手が……通じるとお思いで?」


口の中に手を突っ込み……コクマーは何かを掴む。それと共に取り出したのは……透明な膜に包まれた魂魄剥離のポーションだった。まさかあいつ……!


「今回も同じ手でくると思って対策しておいてよかった!やるなら別の方法を試すべきでしたねぇ!!」


ポーションを地面に叩きつけ、笑うコクマー。俺は思わず歯噛みして叫びそうになる…その通りだと。


そうだよ、こいつは一度ポーションの脅威を受けている。ならもう二度と喰らうまいと対策するに決まっている!口内に粘液を作り出し、それでポーションが自分に届くのをカバーしていたんだ!!


早計だった!!あまりにも!!


「ポーションがッ……!!」


「あの短時間、用意出来たのは一つだけでしょう。つまりもう……私は止められないと言うことですね?」


その通り、その通りだ……もう止める手立てがない。もうメグを無傷で取り戻す方法がない!!


「ハッ!バカの集まり、全員死になさい……『ハ・オト』」


コクマーが腕を振るう。と同時に浮かび上がるのは魔術陣、これは魔術陣と何かを混合させたもの。問題は……何と組み合わせたか、よりも、どこに浮かび上がったか。


それは全員だ、俺達全員の胸に浮かび上がり────。


「バァン」


「ガァッ!?」


「ぐっ!?」


「ガハッ!?」


炸裂する。全員の胸に浮かび上がった魔術陣は白い爆炎を吹き出し俺達全員を吹き飛ばした。防壁を張ることすら許さない零距離爆発。それは全員に等しく痛みを与え……倒れ伏す。


「ぅぐ……こ、これ」


全員が、今の魔術を看破出来なかった。つまり……今の魔術は俺達も知らない魔術系統ということ。じゃあそれは何か?決まってる。


……時空魔術、つまりメグの魔術だ。


(やばい、メグの魂にコクマーが侵食し始めている)


デティは言った、メグを是が非でも取り戻さなきゃいけないのは何も友達だからだけじゃない。もし混沌魔術が他者の性質を奪うのであれば、時空魔術がこの混沌魔術の一部に加わる可能性がある。


時空魔術の射程距離はほぼ無限。メグが大陸を横断するほどの距離を時界門で移動するように距離の概念自体時空魔術には存在しない。つまり……その性質が混沌魔術に加わると、奴の魔術は実質無限の射程を得て、世界中どこにいても誰でも殺せる魔術に進化してしまうかもしれないのだ。


「ぐっ……」


その上、唯一助ける方法だったポーションもなくなった。進化し始めたコクマーに……俺は。


(どうすりゃいいんだこれ……)


歯を噛み締める、やはりセフィラは……一筋縄じゃいかないようだ。


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― 新着の感想 ―
第三段階同士の連携の凄さがよくわかったな。………災害かよ。 そしてコクマーしぶといな………がんばれメグさん!イマジナリー陛下と対話するんだ!!
弟子達の連携が光りますね。 最高戦力抜きでここまで戦えるとは…… しかしコクマーが一枚上手でしたね。 メグさんが内側から食い破って欲しいですね
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