和味城
藤十郎に連れて来られたのは、山の頂上にそびえ立つ、立派な城だった。
「ここが儂の城、『和味城』じゃ!」
「こ、これが和味城・・・」
勘九郎はあまりの大きさに口をポカンと開けた。城下町からもこの城は良く見えるため、遠目から見たことはあったが、こうやって間近で見るのは初めてだった。
「・・・って。何故私をここに!?」
勘九郎はつい城を指差しながら藤十郎にそう尋ねる。藤十郎は何言ってるんだと言いたげな顔で答える。
「何故って、そりゃあ決まっているだろう。お主には今日からここで働いてもらう」
「は、はい!?」
勘九郎は訳がわからないというように声を上げる。その時、追いかけきたもう1人の男に肩を掴まれる。
「諦めてくれ。殿はこうゆう人だから」
「ええ!?あ、諦めろって・・・」
いきなりの諦めろ発言に勘九郎は戸惑いが隠せない。だが、そんなことお構いなしに藤十郎は勘九郎の腕を引いて、「次はこっちだ!」と城のそばに建つ『御殿』という場所に向かう。
御殿のある部屋に案内された勘九郎は1人、うーんと頭を悩ませていた。
(いきなりここで働けと言われても、僕はまだ家の仕事があるのに・・・。ここに来る時も、父上と母上に何も言わずに来ちゃったし・・・。そもそも何で殿様が僕の家に・・・)
その時、隣の襖が開き、藤十郎ともう1人の男が出てくる。その姿を見て、勘九郎は驚いた。
藤十郎の顔は整っていて、少し癖っ毛のある髪は腰まであり、その髪をうなじの位置で低く結んでいた。
特に驚いたのは見た目の若さだった。てっきり口調から、もっと歳をとっているのかと思っていたが、見たところ、20歳前後の凛々しい見た目をしていた。
「?どうした?儂の顔をジロジロ見て。儂の顔に何か付いてるか?」
藤十郎が顔を近づけてきて、勘九郎は思わずバッと顔を背ける。藤十郎の顔は男にもよく効くらしい。
「な、なんでもないです」
「?そうか」
勘九郎の言葉に藤十郎は不思議そうな表情のまま言う。
「勘九郎君、だったよね。ごめんねうちの殿が。でも気にしないでね。藤十郎の顔にもその内慣れるから」
もう1人の男が途中から囁き声でそう話しかけてくる。チラッと見ると、こちらは年相応の優しい見た目で、黒い髪を髪先がうなじにくるように結んである。年齢は40前半といったところだろう。
「おい。今、儂のこと名前で呼ばなかったか」
「ええ~。呼んでませんけど。殿」
藤十郎の指摘に、もう1人の男はいたずらな笑みを浮かべる。この2人はおそらく上司と部下にあたる関係性なんだろうが、それとは違う雰囲気を感じる。
「あの〜お二人はどういった関係で・・・」
「ああ。私はこいつが幼い頃からこの城の家来でね。よく面倒を見てたから。まあ、一言で言うなら親子みたいな?」
「親子って・・・。お前は儂の親じゃないだろう!」
藤十郎もつい「お前」と二人称を変えてしまうほどの距離の近さに勘九郎は微笑ましくなる。そこで勘九郎ははっとなる。まだ、もう1人の男の名前を聞いていなかった。
「あの〜。失礼ながら、貴方のお名前は・・・」
「ああ。まだ自己紹介、してなかったね。私の名前は七倉七兵衛。藤十郎の補佐役をやっている」
もう1人の男―七兵衛はニコッと笑ってそう名乗る。
「七兵衛の紹介などどうでもいいだろう!それより、お主の仕事を一通り教える。1日で全て覚えるように。明日には働いてもらうからな」
「ええ!?は、はい!」
藤十郎の勢いに押され、勘九郎は頷くが、肝心なところは忘れてたいなかった。
(って、僕まだここで働くなんて言ってないんですけどー!)
藤十郎のペースに流されていく勘九郎。次回はどうなるのか!?
お楽しみに!




