再開
数日後、勘九郎がいつものように店の仕事をしていると、母が「勘九郎、休憩入っていいわよ」と声を掛ける。
「え〜。まだ拭き掃除終わってませんよ」
勘九郎が遠回しに断るが、母は「何言ってるの!休憩も立派な仕事よ」と反論する。
「でも、まだ人が・・・」
「これくらいの人数なら私達でも回せるから大丈夫!」
母の言葉に勘九郎はグルッと辺りを見渡す。確かにもう昼時を過ぎたからか、客足はまばらだった。でも、自分だけ休憩するのは忍びない。父の意見も聞こうと厨房を見ると、父も母の意見に賛成らしく、勘九郎を見て、コクッと頷いていた。それを見て観念した勘九郎は「分かりました」と言って腰布と頭巾を脱ぎ、のれんをくぐって外に出る。その時、「ようやく出てきたか!」と言う声が聞こえて、見上げると、そこには笠を被った2人組がいた。その2人組の内の1人の顔を見て、勘九郎はギョッとした。
その1人はこの国の殿だったのだ。
「えーっと・・・。み、店なら開いてますよ〜」
勘九郎は見なかったことにして、立ち去ろうとした。だが、殿相手にそんな嘘は通じず、逆に顔を近づけられる。
「お主、この前会っただろう。まさか忘れたなんて言わないよな」
「ど、何処で会いましたっけ」
「街の中心街だ。お主、その時儂の身体を押し倒しただろう」
あのときか!と勘九郎は記憶を呼び起こす。
(まさかあのときの旅人が殿様だったなんて・・・)
勘九郎の身体から一気に血の気が引いていく。気づかなかったとはいえ、無礼なことをしてしまった。
「も、申し訳ありませんでした!ご無礼をお許し下さい!」
勘九郎はそう一息で言い、勢いに任せて頭を下げた。
「ほお。どうやら深く反省しとるようじゃのう。だが、罰は受けてもらうぞ」
「は、はい!何でもいたします!」
勘九郎は頭を上げることができないままそう返事をする。そのため、殿の顔がいたずらに笑っていたことには気づかなかった。
「来い!」
「へ?」
突然殿に腕を取られ、勘九郎は反射的に顔を上げる。そして、そのまま2人一緒に走りだす。
「ああ!ちょっと!殿!?」
置いて行かれたもう一人の男が慌てて追いかけて来る。だが、殿はそれに構わずひたすら走る。
「あ、あの!一体何なんですか!?殿!」
「殿じゃなくて良い!儂の名前は藤十郎だ!そう呼べ!」
そう言って殿―藤十郎は楽しそうに笑った。
次の話では、舞台が城に変わります。
お楽しみに!




