ムジェラ子爵
戦争の勝敗は雲泥の差なのだ。
敗者は宣戦布告した、しないに関わらず、卑怯な手を使った、使わないに関わらず悪となる。
賠償金、国の土地、責任者の命を毟り取られるだけでなく、国は荒れ、人が死ぬ。
勝者はの都合のいいようにシナリオを書き換え正義を手に入れる。
金、土地、敵国の責任者の首を毟り取られるだけ取る。
すると国は潤い、富む、それは民にも還元され、経済は潤いに満ちる。
そう、同盟軍の国々は現在、共和国から毟り取った莫大な金で潤い、それを貴族に還元、すると貴族は領民にまた還元する。
言わば戦争バブルだ。
還元方法は色々。
税を下げる、金をばら撒く、公共事業をバンバン発注する。
勿論、悪い領主は少なからずいて自分で使い込む奴もいる。
我が領は現在建築ラッシュである。
土地を整備し、家を建て、道を作る。
切り倒した木は家に使ったり、この好景気の為か建築用にと他領から購入の打診が相次ぐ。
そして職人達は手にした金で食料、酒を買う。
職人は日に日に増え、急ピッチで宿屋が建つ。
現在進行形で領を広げているワルキューレ領は他の領と比べても爆発的な好景気であった。
そしてそれに乗じて領民は増え、商人が店を構える。
暫く学園と領を行き来くる日々が続いた。
そんなある日、領へと向かう馬車の中、最近メキメキと上達するアイラに入れてもらった紅茶を飲んでいると急に馬車が停止した。
「アイラ大丈夫か?」
「はい」
外には十数人がこちらを見ている。
全員、げっそりとやせ細り、乳幼児はグッタリとしている。
外に出ると馬車の前にお婆さんが倒れていた。
「大丈夫ですか?」
「お、お貴族様、申し訳ございません。申し訳ございません。今すぐ退きますのでご勘弁を」
「構いません。それよりどうしたのですか?」
1人の男性が話を始める。
「私達はムジェラ子爵領から逃げ出してきたのです。何年も税金が上がり続け、器量のいいものは人妻だろうが子供だろうが攫って・・・。そして壊れたら捨てるような男なのです。私の妻も召し抱えられ、数日で飽きたからとボロボロになった妻を、奴は私の目の前で火を付けたのです」
「そんな。それは許せない。貴族としても、領主としても間違っている・・・」
「私達は我慢の限界を超えてしまい。着の身着のまま、家を捨てて安住の地を手に入れたいと思っています」
「 でしたら、我が領地にきませんか?今絶賛開拓中です。もう家も建て始めていますから直ぐにでも入居出来ると思います。開拓という公共事業のお陰で領地は殊の外、好景気となっていてこれから住う住人にも職は直ぐに見つかると思います。この先を2日も進めば領に着くでしょう」
「ありがとうございます。こちらこそ受け入れて頂けるだけで感謝致します」
「これを門兵に渡して下さい。紹介状です。それとこれで数日は持つと思います」
そう言ってインベントリから魔物の肉、果物、飲水の入った革袋を出した。
「重ね重ねありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「デュラント・フォン・ワルキューレ。一応、伯爵家当主をしています」
「「「ええっ」」」
「ご当主様でしたか。そうとは知らず申し訳ございません」
「構わないですよ。道中お気をつけて」
「はい。本当にありがとうございます」
馬車を出すと見えなくなるまで此方を見送る人々。
俺は直ぐに馬車に設置した簡易執務室で陛下へと手紙を認める。
1.領民から聞いた耳を塞ぎたくなる様なムジェラ子爵の行い
2.その件で逃げ出した領民を預かっている事
3.ムジェラ子爵がもしも民の言う行いを行っていた場合、逃げ出した領民をワルキューレ領の領民とする事、但し、ムジェラ子爵が無実で有れば預かっている領民を直ちに返す旨
これを簡潔に纏めて封筒を封蝋で留めて王都に着き次第王城へと届けた。
トントン
「入れ」
「失礼致します。ワルキューレ伯爵様より信書が届いておりました」
「どれどれ・・・。ハミルトン、直ぐにムジェラ子爵領へ密偵を送れ。税率と金の流れ、そして領民への行いを徹底的に洗い出せ」
「はっ。直ぐに密偵部隊を送らせます」
「はぁー貴族に相応しく無いものは即刻処断せよ」
「はい。では失礼致します」
数日後
「失礼致します」
「どうした?」
「火急の知らせにございます」
「申してみろ」
「はっ、密偵からの報告に御座います。ムジェラ子爵の金の流れ、最初に税率ですが・・・65%にも及ぶ税を掛け払えない者は見せしめとばかりに公開処刑を行なっていたそうです。そしてムジェラ子爵の金が流れる先がトーガ商会という所です。中は一般的な商会と変わらず、しかし裏で人身売買を仲介していました。トーガ商会から女を買い、使い物にならなくなると暴行を加えて殺し領地に捨てるという行いを此方でも目撃しております。領内でも見目麗しい女を誘拐し同じような有様だということです」
「で、あるか・・・直ちに子爵とその一族、トーガ商会の者を全て引っ捕らえよ。兵を出せ。沙汰はそれから出す」
「はっ。これより兵を挙げムジェラ子爵を引っ捕らえて参ります」
「頼む」
それから4日後、兵はムジェラ子爵領の門を完全封鎖。
トーガ商会はすぐに全員捕らえられたものの、肝心のムジェラ子爵の屋敷はもぬけの殻だった。
その後、大規模なローラー作戦も行われたがムジェラ子爵一家の足取りは一向に掴めないままだった。
子爵領は直ぐに新たな領主を据えず、王都直轄領となる。
その間、住民は免税され王家から今まで搾取された税金を5年まで遡り全額返還されたそうだ。
一方その頃、ムジェラ元子爵は隣の大陸を統一するトワイアル帝国へと向かう船に揺られていた。
「危なかった。密偵を見つけた我が家の密偵達に感謝だな」
ムジェラ元子爵領は海に面しており、トワイアル帝国とは貿易相手であった。その伝手を頼り、アストラベル王国の情報を流すことを条件に信頼のおける数名の部下と共に亡命したのだ。
トワイアル帝国は大陸を統一した後も次の大陸への足掛かりを虎視眈々と狙っていた。
その中でも大陸が見える程近いアストラベル王国のあるこの大陸は帝国にとって最も最適な場所であった。
帝国から一番近い港こそがムジェラ子爵領であり、直ぐにトーガ商会を開業させ帝国の人間を送り込んだ。
人間とは斯くも弱く脆い生き物だ。
少しの餌でコロっと人が変わった様になる。
餌を値上げれば直ぐに税率を上げ、餌を辞めれば民をも襲い始める。
いよいよ、ムジェラ領が弱く脆くなった頃に帝国から待ったが掛かった。
「何故だ。どうして。ようやくこの地に帝国を築きあげられる所まで来たのだ」
そんな時だ。
王国兵に私は捕らえられたのだ。
しかし、トーガ商会長、トーガは最後まで帝国の関与を口にする事なく数日の内に斬首となった。
ムジェラはこれより数年後、また王国の地を踏むがそれはまた別の機会に。
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