六話『若き芽が毒に侵されないように』
桃李がそこに辿り着いた時には既に日は落ちていた。
「ハア、ハア…………森ノ!」
「…………やはり来たのか」
桃李がいるのは、自然が広がる広場。
彼の先には、姿を消していた千花。
辺りは暗く、街灯の光だけが二人を照らす。
千花は儚げな表情をして、花壇に咲く花を優しく撫でている。
どうやら桃李が来ることがわかっていたようだ。
「森ノ、君は諦めようとしているのか? これまで目標としてきた‟夢”を」
真っ先に桃李がするべきことは、彼女の意思を確かめること。
「桃李。そなたは優秀だ。その能力のお陰で、『PICM』の情報を管理する場所も、ペルフェとやらの居場所も突き止められた」
「…………急に何を?」
千花は桃李のした質問とは関係のないようなことを喋り始める。
「…………優秀な者も環境が良くなければ、上手く力を発揮できないだろう?」
「!? 何を言って」
「どんなに綺麗な花も、毒を撒かれれば咲くことはできない。咲くことができなければ、それは他と同じであろう?」
「何がっ…………言いたいんだ! 森ノ!!」
彼女が何を言いたいか、彼は頭のうちでどこかわかっていた。
でも、それを彼女が言うことを信じたくなかった。
「我が残す毒はそなたたちを枯らしてしまう」
「…………っ!」
だって、それは彼女が、彼女の残した事件という毒を桃李たちに背負えると信じていないことを意味するから。
「…………是よりは我唯一人で」
そして、彼女の弱さを今まで気づかなかったことへの罪悪感に耐え切れなかったから。
おそらく、彼女も不安だった。
尊敬していた彼女も無敵ではない。
でなければ、今、自分がいなくなった後のことを考えはしない。
「ついてくるでないぞ…………」
「あ…………」
かつて苦しんでいた桃李を優しく救い出してくれた彼女の背中は、今はもう遠い。
彼女は一人で敵に立ち向かおうとしている。
彼女がいなくなった後、桃李たちが無事でいられるように。
千花がすべきことはそうではないとわかっているのに、かける言葉が見当たらない。
桃李にできたのは、街灯の届かない暗闇に溶けていく千花の背中を、ただ眺めることだけだった。
「森ノ。それは違うんだ。それでは、君は咲けない」




