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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
四章「咲きたい花」

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五話『抑えられなかった能力』

 今から十数年前。

 ある家庭の一人っ子として育てられた私は何不自由なく暮らしていた。

 両親に可愛がれて、無邪気に遊んで、幸せな生活を送っていた。

 

『――――!!』

『――――? 何、これ?』


 けれどある日、その生活は変貌した。

 

『何!? 何なの!?』

 

 耳に入り込んでくる正体不明の雑音。


『どうした!? 桃李!』

『お父さん、この音、何…………?』

『音?』

 

 私の質問に対して父親は不思議そうに答える。


『――――()()()()()()()()?』

『うそ、だよ……だって今も聞こえるもん!』


 父は聞こえないと言っても、私の耳には確かに届いていた。

 ノイズのかかった、耳を塞いでも消えない不気味な音が。


 母にも聞いたものの彼女にも聞こえはしなかった。

 私が何か病気になってしまったのではないかと、両親は私を医者のもとへと連れて行った。


 だが、異常は何も見られない。

 何も収穫はないまま、家へと帰った。

 

『あ。ああ。ああ』


 雑音は、晴れない。


――――うるさい。うるさい。


 その音は、私の生活を妨げる。

 食事のときも。

 就寝のときも。


 まともに寝れもしない。まともに食事も出来やしない。

 私の生活は、この音に無茶苦茶にされた。

 私は音に悶え、『やめて』と叫び続けることしかできなかった。


 だが、その生活を一年ほど続けたある日。

 雑音が収まり、少し落ち着けた。

 その時に気づいてしまったんだ。


『あ…………』


 つらかったのは私だけではなかったことを。

 父も母も私の世話で精一杯だった。

 二人は痩せこけっていて、目の下にも隈があって、見るからに精気がなかった。


『――――!』


 二人が私を見つめる目には、少しばかりか嫌悪があった。

 私が二人をこんな風にしたのはわかっていた。

 それでも、耐えることはできなかった。

 二人が私に向ける目線にも、私の目に映る二人の姿にも。


 だから、私は家出をした。

 これ以上二人に迷惑をかけたくなかった。


 しかし、雑音はまた聞こえ始める。

 消えたはずのそれはむしろ、強くなっていった。


『…………う』


 雑音から逃げるようにして走り回り、それでも逃げることができないのだと悟った。

 しまいには諦めて座りこんでしまった。


『! …………こんな時間にどうしたのだ?』


 そんな私は心配して、世話をしてくれたのが、森ノだった。

 傍から見たら原因不明に苦しむ私。

 彼女はそれを不気味に思う素振りなく心配してくれた。


『声が聞こえる?』

『…………うん、今も少しだけ』


 そんな彼女になら。

 そう思って、この雑音について相談した。


『人の声とは違うのか?』

『うん、ザーってなってる感じ』

『うむ、ならこれではどうだ?』


 森ノが少し目を瞑る。

 数秒集中して、静寂が流れた。


『え…………小さくなった!』


 その時。

 私を困らせていた雑音が小さくなった。


『…………なるほどな。そういうことか』

『? どういうこと?』


 私の反応を見て、森ノは合点がいったように手を顎に当てる。

 だが、私には全く理解できていなかった。


『桃李、といったな。そなたは‟生命の声”を聞いているのだ』

『せいめいの、声?』

『そうだ。そなたが普通の生活を送るには、その聞く能力を使いこなせなければならない。そのためには、その声と向き合うのだ』

『…………向き合うって』

『何。問題はない。万が一があれば、我が先のように声を消してやる』

『わ、わかった』

『我もその能力については知らぬ。手当たり次第にしていくしかあるまい』


 そうして、私は森ノのもと、『生命の声を聞く能力』を使いこなすために、動植物を目の前にして‟声”を聞いたりして特訓をした。

 本当に‟声”に耐え切れなくなったときには、森ノが約束してくれたとおり、‟声”を消してくれた。


 そんな訓練を続けて数年ほど。

 ようやくその日は来た。


『…………‟声”が、聞こえない。森ノ?』

『うむ、我は何もしていない。正真正銘、そなたの力だ』

『…………! ありがとう、森ノ…………』


 その時はまだ12歳だったけれど、森ノの見た目の年齢が私に近かったからか、ラフな言葉遣いになっていた。

 

『その、森ノ』


 そして、私は聞いた。


『森ノの夢ってあるのか?』


 森ノがしたいことを。

 ここまで世話をしてくれた森ノの役に立ちたかった。

 両親の所へ戻る前に、何かをしてあげたかったんだ。


『…………花を、咲かせたい』

『…………花?』

『…………………何でもないぞ。気にするな』

『…………それ、私に手伝わせてくれないか?』

『それは』


 花を咲かせたい。

 その言葉の真意はわからなかったが、それでも手伝いたい気持ちは変わらなかった。


『恩返しがしたいんだ』

『…………無理はするでないぞ』

『了解した!』


 そうして、私は森ノと行動を共にすることとなった。

 最初は二人だけだったが、人も集まって、次第に彼女の目的もわかってきて、ようやく森ノが成し遂げられそうになったんだ。


 だから、何も言わずにいなくなって夢を諦める。

 そんなこと、私が許さない。



「――――森ノ。私が君の夢を手伝う。君に鍛えてもらったこの力で」


 事情を聞かねばならない。

 森ノにとって、この夢はそんな簡単に諦められるものではないのだから。

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