四話『生命の声』
「ハア、ハア…………」
桃李は木の間を縫うように走り抜け、山を下りる。
桃李の向かう先はもちろん、千花のいるところ。
(…………運動不足か、足が重い)
整備されている道はない。
土を踏みしめて、駆け降りるしかない。
急勾配。足場も悪ければ段差もあり、体力が奪われる。
おもりが乗ったように、足が鈍る。
(だが、止めてはならん)
重い足を無理やり動かす。
(…………このタイミングで森ノが姿を消したのは、やはりあのことが?)
千花がいなくなった理由に、桃李は心当たりがあった。
彼女の手にかかる血反吐。青ざめた顔。荒くなった呼吸。
(――――まさか。この戦いを投げ出そうとしているんじゃないだろうな、森ノ!)
桃李の頭に浮かぶ最悪の想像。
それが、重い足をさらに速めさせる。
(聞け。命の声を。森ノの居場所を)
桃李は‟生命の声”を聞く。
本来は何にも思わないであろう振動を声として聞く。
それは、声というには曖昧なもので、ちょっとした方向性しか持たない。
だが、その曖昧な情報も、束になれば答えを明らかにする。
ここは、森。
生命が育まれる場所。
数多な“声”が彼を導く。
(…………!)
桃李の足が止まる。
辺りには彼らがいる。
意志をなくした動物。
彼らからは‟声”は聞こえない。
(…………今は違う。そうなって欲しいとは思わない。君らを、助けたい)
励まされるように、桃李は再び足を動かし始める。
(森ノ。君があのことを理由に諦めようとしているのなら、まだ早い!)
※ ※ ※
「ハア、ハア」
桃李はしばらく森を駆け抜け、町へと出た。
(…………ここからは、先程より“声”が聞き取りづらい)
山と比べると、ここは生命が少ない。
その分、彼らから得られる情報も少なくなる。
(だが、私は君に能力を教えてもらった)
それでも、桃李には千花から教えてもらった能力がある。
それは、彼がどこからともなく聞こえてくる‟声”に怯え、遠ざけていた時――――




