85/244
零話『夜空の下で』
――――何も考えたくなくて。
何も‟聞き”たくなくて。
肌寒く、星明りなど全くない真っ暗な夜。まだ幼かった私は静かなところへ走り続けた。
やがて呼吸が荒くなってきて、体力も限界で足が動かなくなってしまった。
『…………う』
私はその場でうずくまる。
『…………こんな時間にどうしたのだ?』
そんなとき、彼女が話しかけてきた。
音に苛まれる私とはまるで違う、威厳があって、芯の強そうな、長い黒髪の女性。
『えっと…………』
私は彼女の質問に対する返答に困ってしまった。
私の事情を知れば、この人も皆みたいになってしまう。
『…………まあ、よい。言わなくとも』
『え…………あっ、ちょっと待って!』
私は去ろうとする彼女をすぐに追いかけた。
何故か、わからないが。
ほんの少し一緒にいただけの彼女に安心感を覚えたんだ。
私を嫌悪の目で見ない君に、助けてほしいと願ったのだろう。
君は少し困った表情をしたけれど、頼れるあてのない私と一緒にいてくれた。
言葉は少し堅苦しいが、優しくて頼りになる君。
そんな君に私は憧れていたんだ――――




