三十一話『言えない、そして言わない』
言わなきゃいけないと思っていた。
俺が示杞でないことを。
南陽も示杞と俺の話し方の違いに気づいていた。
言い出すいい機会だったはずだ。
――――でも。
その最初の言葉が声に出せなかった。
言うべき言葉は頭の中に巡っているのに、唇が震えて、それを伝えられなかった。
「――――別に。今じゃなくてもいい」
そんな示杞の言葉に俺はどこか安心してしまった。
「僕は君に託したんだ。今は、君の体を取り戻すことだけを考えればいい」
「…………ごめん」
「謝罪なんてする必要もない。僕はもう、君の事情も少しだけど知っているのだから」
「――――ああ。ありがとう、絶対にこの事件を解決してみせるよ」
安心してしまった俺が少し憎いけど、あともう少しだけ。
‟示杞”でいたい。
※ ※ ※
俺のことは示杞が南陽に上手く誤魔化してくれた。
俺は示杞の体に戻り、無事に森ノさんたちの拠点に戻ることができた。
南陽も、コルウスも、示杞の体もボロボロだ。
皆、手当てをしてもらってベッドに三人仲良く横になっている。
…………同じベッドではないよ?
森ノさんが確認してくれたが、赤髪の男のような、ペルフェが統率していた人たちの能力が失われたらしい。
ユズリハに頼まれたことの二つ目が達成できたということだろう。
…………望んでいた結果ではなかったけど。
「……………………」
コルウスはずっと黙り込んでいる。
ペルフェを助けられなかったことが、相当心に来たんだろう。
「…………コルウス、ごめんな」
「…………何で謝る?」
「俺は昔、黒荻の実験から逃げてしまったんだ。だから、お前たちに被害が及んでしまった」
「…………そう」
南陽の口から出るのは、彼の罪の告白。
「でも、もう。逃げないから。絶対にペルフェを助けよう…………!」
「…………!」
でも、それは後ろ向きの言葉なんかじゃなくて、共に前を向くための言葉。
「まだ、ペルフェを助けられる!」
「…………私もまだ諦めてない。01、一緒に、頑張ろう」
「ああ!」
コルウスの声に元気が戻ったようだった。
俺もそれを聞いて安心する。
「あ、そうだ!」
…………。
そして、再び不安になる。
俺は話に入れなくて気まずいから寝たふりをしている。
だから、南陽の動きは全く見えない。
それでもなんか、凄い嫌な予感。
「コルウスもペルフェもまだ、あだ名付けてなかった!!」
…………。
悪い予感は的中した。
「え……いい、そのままで」
「そんなこと言うなって、ペルフェを助けられたときのことを考えてさ」
「…………なら、それでいい」
「うーん、コルウス。コルウス…………黒い翼…………COrvus、bLAck、wiNg…………COLAN? ペルフェ…………PERfectusとかからか…………炎とか雷とか操ってたよな。暗闇にもしてた。COntrol…………PERCO!」
「…………ふふ。彼女が聞いたら驚きそう…………」
チラッとコルウスのほうを覗いてみる。
南陽が付けたあだ名に、コルウス、もといコランは笑みを見せていた。
――――まあ、コルウスが笑っているなら、いいか。
「…………あ」
「ゴビ! 起きてるだろ!」
――――バレたアアアア!?
コルウスの様子を見ていたら、南陽と目があってしまった。
いや、特に後ろめたいことはないけど。
「あ、そうそう。ゴビ、あとでフラストに聞きたいことがあるんだけど、一緒に来てくれないか?」
なので、南陽もこの切り替えの早さ。
「フラスト? …………ああ、森ノさんか」
でも、俺は一瞬戸惑った。
――――誰かわからなくなるあだ名って良くないと思う。
「……わかった。この後か?」
「ああ。頼む、ゴビ」
「私はもう少し、休む。万全な状態にしておきたい」
「了解だ、コラン!」
まあ、南陽のアイデンティティみたいなもんだし。
本人が嫌じゃなければ良いのかな…………誰か忘れてるような気がするけど、おいておこう。
とにかく、コランがコルウス。ペルコがペルフェね。
覚えとこう。
※ ※ ※
「コホッ、コホッ!」
「大丈夫か、森ノ!?」
『奪回者』拠点のとある部屋。
千花が苦しそうにせき込む。
口を押さえた手には多量の血反吐。
その手を見て、千花は呟く。
「…………咲いてもない花が、散ってしまうのか」
焦りと悲しみに満ちた言葉を。




