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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
三章「名状しがたい感情」

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十二話『昔の俺のように』

「う…………これで14件目…………」


 俺は南陽のいる拠点を探し出すため、候補となる拠点に憑依することを繰り返していた。

 

「もう…………眠気が…………お目目パッチリ…………」


 憑依のために気絶するというのも手の内だが、あいにくと今日は、桃李が別の用事があるらしくいない。

 そして、自分で気絶するというのも難しい。

 というわけで、頑張って寝るしかないのである。

 出来るだけ寝る環境を整えたいので、今はホテルのふかふかなベッドに寝転がっている。


「――――お疲れ様です」

「綿さん……………………」


 頑張って寝ようとしていた俺に綿さんが飲み物を持ってきてくれた。

 綿さんも、白衣のままホテルに入るわけにはいかず、私服で来てもらっている。

 淡いピンクのスカートに白いトップス。


 こうやって男女二人でいると、どこか妙な雰囲気に……いやいやいや。

 落ち着け、俺は南陽を助けに来てるんだ。 


「まだ寝れますか?」


 そう、俺は憑依のためにまだ寝ないといけない。 


「いや…………目を閉じても全く眠くなる気配がないです……………………」

「そうですか…………して欲しいことがあったら言ってくださいね。出来るだけお手伝いしますから」

「! じゃあ」


 寝れない俺に綿さんがお手伝いをしてくれるそうだ。

 さっき変な妄想をしたせいか、してもらいたいことは一瞬で思い付いた。


「…………いややっぱいいです」


 そして、一瞬で切り捨てた。


 一応してもらったことはあること。

 でも、その時の状況が特殊だった。 


「なんです? 言ってみてください」

「――――してください」

「? もう少し大きい声でお願いします」

「膝枕してください!!!」

「???」


 憑依によって、おそらくしいらと思われる体に憑依したあの日。

 綿さんがしいらにしてあげていた膝枕を俺が強奪した。

 その膝枕をもう一度味わいたいのが、俺の願い。


 俺の願いを聞いた綿さんの表情は圧倒的困惑。


…………まあ、そういう反応するよね。

 だから、言うの止めたのに。

 

「あ、もしかして『ふともも』って私がしいらに膝枕していたときに…………」

「あ、あはは」


 そして、俺が綿さんに『ふともも』と叫んだ経緯という余計なことまで綿さんに知られてしまった。


 俺の胸を苦しくなってきた。

 息も乱れてきた。

 やはり、膝枕について触れたのは間違いだった。


「はあ……………………仕方ないですね――――はい」

「?」


――――と思っていた時だった。

 綿さんがため息を吐くと、正座をし、ふとももを指すかのように、ふとももを手で軽くポンと叩いた。

 一瞬状況がわからなかったが、少し考えた後、綿さんの意図を理解した。

 

――――OKってこと? マジです? え?


「早くしてください。この状態でにらめっこしてるのは恥ずかしいです」

「でも、何で?」

「これがただの欲望だったらしません。ですが、貴方には助けたい人がいるでしょう?」

「!」

「なら、手伝うのみです」

「っ、ありがとう。綿さん」


 そうして俺は、綿さんのふとももにそっと頭を乗せる。


――――欲もちょっと…………というか結構混ざってるのは置いとくとしよう。


「…………どうですか?」

「え、えっと、温かいです?」

「……………………感想としてどうなんですそれ?」


 確かに膝枕で温かいというのは、誉め言葉なのかわからない。

 でも、綿さんの膝枕で真っ先に感じたのは温もりだった。

 彼女のふとももから俺の頬に伝わる体温の温もり。

 それが俺にもたらす安心感。

 それらは最初俺が綿さんの膝枕を体感した時と何一つ変わってはいない。

 それでいて、今はしいらの体ではないから、また違った感覚で順応してしまうということもない。

 

 新しい感覚に脳が溶かされ、周囲と一体化してしまうかのような至福。

 

 考えるのも、むずかしく――――これは――――寝れ、る。



 ※ ※ ※

 

 

「ふあ」


 至福から解き放たれ、目を覚ます。

 最高なシチュエーションで眠りについた俺は、無事に憑依できた…………はずだ。 


「示杞の体ではないし、できたっぽいな」


 一応、今の体を見て、問題ないことを確認する。


 辺りを見渡すと、今まで憑依で侵入してきた拠点とは少し違っていた。

 外見はどこかのオフィスっぽくて普通だ。


「――――これは」


 だけど、机の上に気になる物があった。


「森ノさんが言ってたやつか」


 それは、サンプルのような機械。

 以前、拠点を襲ってきた『略奪者』の連中がこの機械を身に着けていた。

 ここで、この機械が製造されているならば、少なくとも重要な場所であるはずだ。

 ここなら南陽がいる可能性が十分にある。


「ん?」


 さらに、部屋を探し回ると、名簿帳のようなものを見つけた。


「――――? なんだこれ?」


 そこには被験体の番号らしきものが書かれていて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そしてページをめくると、人体図と、その隣に何らかの性能が記されてあった。


「優れた耐久性、身体能力。加え、黒い翼で飛行性能? じゃあこの二つは――――」


――――もしかして。()()()()()()()()


 見覚えのある性能。

 それを見て、思い浮かぶ可能性。


「…………む、むむ」


 けれど、考えても真偽はわからない。

 他に手がかりがないことを確認して、部屋を出る。


――――にしても、何個拠点があるんだ。


 森ノさんが挙げてくれた拠点の候補だけでも、数十個ある。

 このせいでここに憑依するまで俺が何度寝る羽目になったか。


「あ」

 

 そんなことを考えながら道なりに歩いていると、見慣れた姿を見つけた。

 急いで彼のもとに駆け付ける。


「南陽……!」

「……誰だ?」


 肩に手を置くと、彼は俺の方を振り返る。


「俺だ。示杞だ」

「…………憑依か。わざわざ来てくれたんだな、ゴビ」

「ああ」


 南陽が何かを抱えているのはわかっている。

 だから、それを解決するためにここに来たんだ。


「何か事情があるなら、皆で――――」

「――――でもな、ゴビ」

「!」


 でも、俺がそれを伝えきる前に、南陽は言葉を紡ぐ。

 そんな南陽が振り返って見せた、その表情にはいつもの明るさはなく。

 つらくて、悲しくて、そして憎い。

 そんな感情が入り混じっていた。

 

「これは、()()()()()()()()()()()()んだ。それに、ゴビには助けるべきやつがいるだろ?」


 そして、南陽は『独りで行く』と、俺を突き放す。


「じゃあ、またな――――」


 でも、俺はまた何も言えなかった。

 南陽を追いかけることもできずに、その姿が消えるのを待つだけだった。


 だって、それは俺が最初つぐもを助けに行こうとした時と同じ。

 その気持ちはとてもわかるから。

 周りを巻き込みたくない。

 これは自分がすべきことだ。

 そう、背負い込んで。


 南陽の言う通り、俺はつぐもも、示杞も助けないといけない。

 だけど今、助けるべき人がもう一人増えた。


「――――今、俺が助けるべきなのはお前だよ、南陽……」




 ※ ※ ※




 研究所の中を歩んでいく。

 アイツの居場所に近づくにつれて、抑え込んでいた感情が湧き出てくる。

 失望なのか、憎しみなのか、責任を感じているのかわからないけど、ただ俺はアイツと相容れない。

 あのとき、アイツが()()()()()をした時点で、いや、最初から決まっていたのだろう。

 だって、鼻からアイツは変わっていなかった。

 俺が過大評価していただけだった。

 俺が子供のとき憧れていた背中は、本当は血に染まっていた。

 俺から湧き出る感情は、どうしようもなく俺を阻み、苦しめる。

 

 ああ。やっぱりこの感情は独りで抑え込むべきだ。

 ゴビにも、皆にも言うべきじゃない。

 俺とアイツの間だけで十分。

 ただアイツをこの手で。


 ()()()()と同じように――――


「――――終わらせてやる」

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