二十二話『無の空間と暗い夜』
「ぅ、うう…………」
――――こ、こは…………?
目を覚ます。
目の前には何もない。
光もなく、薄暗い空間。
「力が足りなかった、のか?」
憑依したのは間違いない。
だけど、成功したのであれば俺は示杞の体で、目の前には廃校の廊下があるはずだ。
でも、そんなの見えない。
俺は、能力で押し負けたんだ。
ここは、おそらく示杞の体の内側。
それは理解できた。でも一つ気になってしまった。
今の体が示杞の体ではないことに。
ここは、現実空間ではない。
憑依された時に生じる精神的な空間だろう。
だから、この体は俺の本来の体であるはずだ。
でも、手を見て理解した。これは示杞の体ではないと。
けれど、最早それで驚きはしない。
俺が示杞でないことを実感して少し胸が苦しいだけ。
「っ、俺のことはいい」
そんなことより他に気にするべきことがある。
ここが示杞の中なら。
「示杞を探さなくちゃ」
示杞がいるはずだ。
俺はひたすら暗闇を走る。
走っても走っても何もなくて。
景色も何一つ変わらなくて。
最早俺が動いているのかもわからなくなって。
でも走り続けた。
――――もしかしたら、示杞もこんな思いを――――?
ふと、店で見た日記の内容を思い出す。
『くらい』という言葉はこの場所を指していたのかもしれない。
少しの時間でも気が狂いそうになる空間。
それをずっと、一人で過ごしていたのであれば。
もし、憑依から抜け出しても暗い夜で光すら当たらなかったのであれば。
示杞がこの思いをずっとし続けていたのだとすれば。
――――急げ。少しでも早く。
一刻も早く示杞を救い出さないといけない。
「居たっ」
暗闇を駆けて、ようやく示杞の姿を見つける。
うつむいている示杞。
彼は俺に向かってゆっくりと振り返る。
「……………………ああ、来たんだね」
俺の目に映るのは、示杞の悲しみと後悔に溢れた表情。
やはり、俺はこのままではいられない。
示杞が俺を負かしても、ここに閉じ込められた示杞は救われることはないのだから。




