二十一話『密集した生物』
靄の周りには、生物がたくさんいる。
人間だけじゃなく、蚊、蜂などの虫も。
サバンナにいるような猛獣がいないのは幸いだ。
でも、これだけ複雑に生物が存在していると、そう簡単には憑依できない。
俺の憑依の位置は、俺を中心に同心円状に広がっている。
憑依する時、俺はこの法則を利用している。
けれど、今、対象が密集しすぎている。
これじゃ、うまく憑依の照準を合わせられない。
「分散させるか、それとも靄だけを捕らえるか」
分散させるといっても、周囲の生物を操っているのは、おそらくあの靄。
個々の生物の習性を活かすことはできない。
となると、強制的に後者となってしまう。
これもかなり難易度が高い。
「……つぐものおかげだ」
だが、解決策を思いつく。
靄を攻撃できなければ、不可能な解決策を。
「じゃあ行くぞ、ついてこい!」
でも、ここじゃいけない。
生物が存在する範囲が広すぎる。
あそこまで行く必要がある。
だから、俺は教室から飛び出し、その場所に向かう。
「くっ」
靄を誘き寄せつつ、周囲の生物の攻撃をいなすのは至難の技。
靄と一定の距離を保ち、生物の攻撃を避け続けなければいけない。
「傷つかせるかあ!」
けれどこれは俺の体ではない。
俺が守らないといけない人の体。
無傷で向かわなければならない。
「絶対に、あの場所まで!」
全身はかけられないけれども、全力で。
※ ※ ※
「やっと………!」
靄と生物を引き連れてようやく目的地へとたどり着いた。
長廊下の端っこで、俺は立ち止まる。
周囲の生物を分散させられないのは、あの靄が生物を操っているから。
だが、逆にそれが弱点になりうる。
この場にいる憑依の対象はすべてあの靄が操っているんだ。
なら、あの靄が反応しきれない攻撃をしたらいい。
「――――――――ふぅ」
息を整える。
最大威力の攻撃を繰り出す準備をする。
示杞の体では、力も足りないし、そもそも触れられもしない。
だけど、この体ならそれができる。
「つぐも、借りるぞ!」
今までで一番の力を振り絞って。
ぶっ倒れるほどに勢いをつけて。
「吹きッ飛べッッッッ!!!」
靄に最大の攻撃をお見舞いする。
つぐもの体で繰り出される異常な威力の攻撃。
靄はその場に留まりきれない。
そして、長廊下を吹っ飛んでいく。
――――あ、あ。来た。
俺はこの体で力を使い果たすほどの威力の攻撃を放った。
気が、遠くなる。
けれど、これで、いい。
靄が廊下を吹き飛ぶ速度、加速度も…………計算内。
靄の周囲には肉眼で見える生物は存在しない。
お前の飛ぶ位置が俺の憑依位置だ。
――――あ、とは、アイツを――――…………………………。




