二十話『一度きりの憑依』
「…………ここら辺だと思うが」
俺は靄を探して教室を転々とする。
「――――見つけた」
いくつか教室を回った後、教室の外から、黒い靄が見えた。
何を目的に動いているのか知らないけれど、俺には関係ない。
ただ示杞を助けるために倒すだけだ。
勢いよく教室の扉をあけた途端、靄の周りの人々が一斉にゾンビのようにこちらを睨む。
――――操られているとわかっていても、少し恐ろしい光景だな。けど、怖がってはいられない。
「ここで決着だ、示杞!」
俺は操られている生物の間を縫うようにして駆ける。
そして、靄に向かって飛び出し、渾身の拳を喰らわす。
"ゥゥ!"
靄の中から呻き声を聞こえる。
攻撃は効いているようだ。
やはり、つぐもの体が何らかの効果を持っているらしい。
それに、憑依したときに感じたように、体が馴染む。
高い身体能力はある上に、それが制御できている。
「これなら……!」
密集した室内を駆け抜け、靄を殴り伏せる。
「いけるっ!」
※ ※ ※
「ハア、ハア」
何回も靄を攻撃し続けた。
身体能力が高いと言えど、そろそろ疲れがたまってきた。
けれど、どうした?
靄が倒れる気配がない。
――――攻撃は効いている。それはわかる。耐久力が高いのか? だとしても、もう長くは戦えない。
「くっ」
既に背後に回っていた生物。
間一髪で生物の攻撃を躱す。
――――どうしたら、この靄を倒せる?
攻撃を避けつつも対策を思索する。
そして、思い出すのはハオと名乗る女が言っていた言葉。
『あの子もいるみたいだしね』
あの子というのは、つぐもに間違いない。
現に対抗札となっている。
けれど、あの言い方。
他に勝てる要素があるような言い方だった。
今の俺に、そんなものは――――
「――――あ」
――――憑依だ。
形、姿に変化はあれど、生物に変わりはない。
ミクロサイズになったわけでもない。
なら、憑依は理論上できるはずだ。
問題は、憑依を弾かれないかどうかだ。
高層ビルで出会った黒い翼の女に、俺の憑依は克服されたことがある。
でも、憑依しか方法はない。
チャンスは一度。
俺が憑依を止めて体を返しても、すぐにつぐもは起きないだろう。
失敗でもしたら、気絶したつぐもの体を誰も守れない。
「絶対に、この体を傷つけさせてたまるものか!」
借り物の体。
それを無傷で返すために、俺は計画を練る。
あの靄に確実に憑依するための計画を。




