十九話『馴染む体』
つぐもは靄に触れることができた。
俺のように掴めないのではなく、しっかりと捉え、動かした。
俺がそれができない以上、つぐもに戦ってもらうしかない。
――――けど、それは。
俺は思い浮かべる。
つぐもが靄に抵抗したときの表情。
もう、そんな思いをさせたくない。
研究所で味わった苦しみ。
路地裏で俺に相対したときの手の震え。
もう、そんなつらい選択はしたくない。
――――でも、勝つにはつぐものように触れられるような体が…………あ。
つぐもに戦わせることへの葛藤。
それに悩まされていた時。
ある解決策が浮かんだ。
この選択もあまり好ましくはないけれど、つぐもに戦わせるよりはいくぶんかマシ。
「つぐも!」
「は、はい」
「お願いがあるんだ」
だから、俺はつぐもに一つ、お願いをした。
※ ※ ※
「それでいいの?」
お願いの内容をつぐもに伝えると、つぐもは快く承諾してくれた。
「ああ、その位置に立っていてくれ」
早速、俺とつぐもの位置を調整する。
「じゃあ、どうぞ」
つぐもの準備ができたのを確認して、俺は俺を気絶させた。
※ ※ ※
「よっ、と」
俺は目を覚ましてすぐに立ち上がる。
俺の声はいつもより高い。
そう、俺はつぐもの体に憑依した。
つぐもの体が靄に触れるのであれば、つぐもは戦わなくていい。
つぐもに憑依した俺が戦う。
でも、体はつぐものものだから、できる限り傷つけないようにしなければならない。
「にしても、あの時以来だな、この体。憑依の能力も奪われたというわけではないようだ」
――――懐かしい。
つぐもに憑依して感じたのは懐かしさ。
「……! やっぱりか」
それと、つぐもの体の極めて高い身体能力。
以前は環境が異質すぎて気づくことができなかったけれど、この体に改めて憑依してわかった。
前に敵対した翼を生やして飛ぶ女と比べても劣りはしないほどに身体能力に優れている。
路地裏で戦った時の壁面の亀裂にも納得がいく。
――――でも、何だ。
そして、もう一つ感じたことがあった。
――――どこかこの体に馴染む?
それは、つぐもの体への親和性。
二回目の憑依だからか、他の要因があるのかわからないけれど、翼で飛ぶ女に憑依した時のように制御不能に陥ることはなさそうだ。
でも、傷つけられないつぐもの体を扱う上で都合がいい。
「この体を傷つけないように、一瞬で終わらそう。行こう、つぐも!」
つぐもの体と共に暴走した示杞を助ける。
そう意気込んで、俺は靄の下へと向かった。




