十八話『靄との接触』
能力が解放される要因。
それは、能力を抑制する力を弱める、もしくは能力を急激に活性化させることだろう。
俺が示杞の体に憑依していたときもそうだ。
レム睡眠かノンレム睡眠による違いがあるかはさておき、少なくとも俺が起きている間は、示杞は出てこれなかった。
それは俺の憑依の能力が示杞を押さえつけてたからだ。
逆に俺の無意識下では、示杞が出てくる。
これがあの靄にも適用されるならば、あの靄が無意識ような状態、つまりは機能停止状態に陥れれば、示杞を助け出すことができる。
すなわち、殺さず倒せばいいってことだ。
「よし。考えが纏まった」
最早、目の前の靄の能力は憑依ではなく、生物の操作の如きもの。
一斉に人間や他の生物が襲ってくる。
だが、操作が拙い。生物特有の動きがわかっていない。
だから、何とか避けれる。
問題は――――
「――――どうやって攻撃するかだ」
隙をついて靄を殴って見るものの、まるで冷気に当てられたようにひんやりするぐらいで、感触があんまりない。
「くっ」
手探りをしているうちにも俺は追い詰められていく。
そして、後ろへ足を動かしたとき、何かにぶつかった。
「っ、こっちにも敵!?」
すぐさま振り向いて構える。
「つぐもっ!?」
だが、目の前にいたのは放心状態のつぐもだった。
「何でここに!? 桃李に保護されたんじゃなかったのか!!?」
「――――、――――? 示、杞くん? どうしてここに?」
どうやら無意識のうちに、ここに来てしまったらしい。
これが靄の手引きなのか、それともただの偶然なのか。どちらにせよ、この状況はマズイ。つぐもを守りつつ戦うのはほぼ不可能。
「つぐも、とにかく俺の後ろにっ!」
「う、うん」
そういってつぐもは俺の後ろで俺の服にしがみつく。
「数がッ」
けれど、さすがに操られている生物の量が多い。
今にも人海戦術で押しきられてしまいそう。
「っ、つぐも、危ないっ!」
俺が前方の敵に気を取られているうちに、靄がつぐものほうに近づいていた。
「っ来ないで!」
「!?」
靄を前にして、つぐもは怯えたように手をパーにして前に出した。
たったそれだけで自身を守った。
「これは……?」
確かにつぐもは靄に攻撃されようとしていた。
だが、つぐもの手は靄に触れ、少しだけれど押し返したのだ。
――――触れられた? どうして? いや――――
「今はとにかく――――つぐもっ!」
今は考察どころではない。
一時撤退だ。
そう思い至り俺はつぐもを抱えて、部屋を抜け出す。
「どけっ!」
途中にも操られている人がいたけれども、何とか突破できた。
そして、人気も肉眼で見えるサイズの生物もいない、ある部屋へとたどり着いた。
俺の経験上、憑依は微生物とかにはしない。
ここなら問題ないはずだ。
「っし、示杞くん。もう、大丈夫――――だから」
つぐもは顔を背けて、声が小さくなりつつも俺に訴える。
ふと、つぐもを抱えたままだったことに気がつく。
「っ! ごめん、咄嗟で」
つぐもの反応に俺も恥ずかしくなってつぐもを急いで、でもそっと下ろす。
――――違う違う。今はそういう話をしている場合ではない。
俺たちが今考えるべきはあの靄の対処法だ。
気を取り直して、つぐもと靄との接触について話す。
「つぐも!」
「は、はい」
さっきのことが原因か、何故かつぐもが敬語になっているのはおいておこう。
とにかくつぐもが靄に触れたことは、靄を打倒することに繋がる。
だから、俺はつぐもに告げる。
「お願いがあるんだ」
勝利のための、お願いを。




