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その体に出会いと別れの挨拶を ~あの日、憑依した少女にもう一度出会うために~  作者: 炭本 良供
二章「インターフェース」

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十四話『黒き靄』

 吹き飛ばした体は、俺のものではない。

 俺は癒川示杞なんかじゃなかった。

 きっと本体を見ても自分かわからないどこかの誰か。

 それが俺だ。


「だからこそ、だ」


 でも、向き合わなければならない。

 しっかりと()()()()()であろうコイツに勝って、話を聞き出すんだ。


「行くぞ、()()()()!」

「っ」


 ()()は憑依による攻撃を再開する。

 けれども、俺はすべてわかっている。憑依する位置、おおよその身体能力。

 示杞の攻撃は俺に当たらない。


「喰らえッ」

「が!?」


 隙をついて再び示杞の体に拳を繰り出す。

 示杞は俺が殴ったと同時に、苦しむような声を上げた。


「くそっ」


 アイツは示杞の体に戻ると、捨て台詞を吐いて校内へ逃げる。


「おいっ! ――――つぐも! 桃李に連絡するから、どこか安全な場所に隠れていろっ!」

「う、うん」


 つぐもの安全を確保し、俺は示杞を追跡する。 

 

――――校内に逃げたのは、何か策があってのことなのか?


 示杞を追いかけながら考えるのは一つの疑問。

 何故、示杞が校内へ向かったのか。

 校内へ逃げようと状況は変わらない。

 むしろ、示杞が憑依する体がなくなり状況は悪化するばかりだ。


「もう逃げられないぞ!」


 疑問の答えがわからないまま示杞を追跡し、たどり着いた先は廃校の一室。


「っ!」


 示杞は追い詰められたのにもかかわらず、手に注射器を持って不気味な笑みを浮かべていた。


――――目的は、()()だったのか。


「は、ははっ」


 示杞が校内へ逃げたのは、彼が今持っている注射器を取りに行くため。

 注射器を持つ彼の声も手も震えていて、怯えが感じ取れる。

 だけど、注射器の針はしっかりと示杞の首もとを向いていた。


「っ、やめろ!」


 その注射器から嫌な予感を感じ取った俺は、示杞の手に持つ注射器を取り上げようとする。


「もう、遅いっ!」


 けれど、あともう少しのところで注射器の針は示杞の首を突き刺した。

 針から示杞の体へと注入される謎の液体。


「あ、あああ」


 突如、示杞の様子がおかしくなる。

 示杞の周りに異様な空気が漂い、示杞自身は外形を歪め始める。


「ッ!」


 目の前の示杞の変貌に気を取られていた時。

 俺の腕が何者かに背後から封じられる。


「っ、さっきの!?」


 後ろを振り向くと、そこには示杞が憑依に利用していた人々。

 それも数人ではなく、大勢。


 俺が動きを止められている最中も示杞の風貌は変わり続ける。


「くそっ、放せっ!」


 俺が力を振り絞り、腕を振り払って、示杞のもとへ駆け寄る。


「……………………おい、どうなっているんだよ。これ」


 だが、()()()()()()

 確かにそこにいたはずの示杞を、禍々しい黒い(もや)が覆い隠している。


 その靄の周囲には、人間を含めた生物が傀儡が如く闊歩する。


「っ!」


――――もしかして、つぐものところにもいるのか!?


 俺が真っ先に考えるのは、つぐものこと。

 この異常がつぐものところまで及んでいるなら、つぐもが危険だ。

 いくら戦闘能力が高いとはいえど、それを除けば今のつぐもは普通の少女。

 今すぐ助けに向かわないと。


――――っ、生き物が密集しすぎて、つぐものほうへ行けない!


 けれど行く手を靄の周囲の生物に阻まれる。


――――()()をなんとかしないと、か。

 

 今、つぐものためにできることは、この異常の原因たる靄を対処すること。

 再び靄の方へ注意を向ける。


「!」


 靄の方から僅かに聞こえる呻き声。


 きっと、示杞だ。

 これは、アイツが自らしたこと。

 でも今、アイツは苦しんでいる。

 

――――やっぱり、俺が負けても示杞は救われない。


 つぐもの言っていたことを思い出して、俺のすべきことを再確認する。

 そして、それを成し遂げるために再び靄に向かって動き出す。


「今、助ける!」

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