二十一話『扉の奥から出でる女』
高層ビル内。
鍵のかかった扉の前。
桃李は、彼が憑依によって扉の鍵を開けてくれるのを静かに待っていた。
"ガチャ"
少し待つと、扉の鍵が開いた音がした。
「桃李。開いたぞ」
「ああ、流石だ」
扉の奥から出てくる女。
彼女の言動から察するに彼は無事憑依できた様子。
「――――、がッ?」
――――だが、その扉の奥へ進もうとした刹那。
桃李の腹部に女の拳がめり込んだ。
その反動で桃李は1メートル強、吹っ飛ばされる。
「くっ――――示杞じゃなかったのか!?」
桃李は疑問に思った。
確かに、示杞だと思ったその体は女のものではあるものの、桃李という名前を知っていた。
それは彼が憑依していた証拠に他ならない。
確かにその言葉を発していたときまでは彼であったのだ。
ならその体は――――
「は、ああ。お前たち、か。奴が言っていたのは」
――――何らかの手段で彼の憑依を克服したのだ。
女の体は脱力してふらついている。
ゆらり、ゆらりと揺れる癖のある黒髪。
桃李の視界には、明らかにただ者ではない女が映っていた。
「あ、あ。面倒だ」
「っ!?」
――――その瞬間だけは。
「くッ!」
女は、一瞬で桃李の視界から消えてみせた。
桃李の目が追いつく暇もなく、背中に激痛が走る。
(速、い)
迅速でかつ強力な一撃。
戦闘に特化しているわけではない桃李とって、対応するのは不可能に近かった。
「…………」
(様子がおかしい)
だが、女は調子が悪いようだ。
ふらふらとして、本気を出せていない様子。
(もしかして示杞が?)
桃李の頭に浮かんだのは、彼の憑依だった。
もともと彼の憑依の対象であるその体は、本来は彼の支配下にあるはず。
たとえ、彼女がその力を振り切ったとしても、限度がある。
(とはいえ、早々に目的を果たさなければ、私の身がもたない)
「……終わらせる」
「っ!」
目の前の女の脱力しきった、けれど力強く素早い攻撃が桃李を襲う。
桃李が考えをまとめる隙すら与えられない。
(――――避けられない)
最早、桃李は攻撃を避けることもできない。
女の強烈な攻撃が直撃する。
「…………?」
――――そのはずだった。
だが、女の攻撃は桃李の目の前の男によって防がれていた。
「遅くなったな! 桃李だっけ? じゃあ『桃』、『李』。略してピチリだ」
その男の名は南陽。
案の定、桃李に対してあだ名をつけた。
「そんなピッチリしてそうなあだ名はさておき。ナイスタイミングだ! 名織、少し時間を稼いでもらっていいか?」
「ああ、任せな!」
桃李もそれには何とも言えない反応をしているが、南陽が今来たのは彼にとって僥倖。
南陽が女の腕を払いのけた瞬間、桃李は情報を探して部屋の向こうへと走り出す。
「さて、と」
その場に残った南陽は軽く準備運動をしながら、
「この体が役に立つなんて皮肉だけど――――」
一瞬、憂鬱な表情を見せつつも、覚悟を決めた様子で宣言する。
「――――時間までしっかり俺と遊んでもらうぜ!」
そして、南陽はここで戦い続ける。
桃李が目標を達成するまで。
補足:李の場合、英語ではplumらしいです。




