十五話『ランニングの熱さと温かさ』
妹の莱夏のダイエットが始まった翌日。
「ほら、行くよ!」
「…………眠っ」
学校が始まる憂鬱な月曜日。
まだ辺りも暗い時間帯に、運動服に着替え柔軟をした後、外に出た。
普段はぐっすりと眠っているはずのこの時間。
眠気が強烈に苛んでくる。
閉じそうな瞼を擦りながらも、俺は莱夏と共に走り出す。
呼吸音や足音が辺りを支配し、少しずつ気分が良くなってくる。
「……こういうのもっ、たまにはいいでしょっ?」
「莱夏もあんま、運動しないくせにっ」
――――けれど、気分は良い。
一抹の不安が消え去って、爽快な気分になっていく。
二人の呼吸が行き交って。
鼓動が早くなって。
体が暖まっていく。
――――本当に、たまには良いものだな。
そう、実感した。
「――――ンッ!?」
その時だった。
「足かゆっ!!」
激烈なかゆみが俺の足を襲う。
原因は、完全に運動不足。
咄嗟に立ち止まって、ふくらはぎ辺りを必死でかく。
「あははは。運動してないからだよ」
足を止め、こちらを向いて莱夏は笑う。
「ら、莱夏は大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫。でもちょっと休む」
「むう。そう、だな」
「じゃあそっち行こっか」
そうして、莱夏が指さした公園で少し休むことにした。
※ ※ ※
「私ね……ちょっと心配してたんだ」
「…………?」
ブランコに隣同士で座ると、莱夏はそう打ち明けた。
「お兄ちゃんさ。前に塞ぎ込んじゃって、部屋から出ない時あったでしょ?」
「あ、ああ」
「今、ちょっと危なっかしいから、またそんな風になっちゃうんじゃないかってね」
「そうだったのか……」
莱夏の言葉は心配と不安を意味している。
「でも」
だが、振り向いた莱夏の表情はそれと違った感情が現れていた。
「――――でも、杞憂だった」
「え……?」
莱夏の表情はどこか優しくて。
「今も危なっかしいけど」
「はは……」
言動はいつもと変わらないけれど、温かい声で。
「けど。今はちゃんと前を向いてる。だから、ちゃんとやり遂げられる」
来週、つぐもを助けるために研究所に向かう俺を、励ましてくれるかのよう。
「…………!」
事情なんて何も知らないのに。
いや、むしろずっと共に過ごしてきたからこそ。
莱夏は、事情も聞かずに信じて待っていてくれる。
「がんばってね」
応援の言葉を添えて。
「ああ!」
俺の返事に呼応するかの如く、視界に明るい光が入ってくる。
「綺麗……」
「そうだな」
辺りが橙色の陽光に照らされ、幻想的な光景が広がっている。
いつも見ているはずの景色が、美しく眩い。
――――必ず、つぐもを助けてみせる!
それはまるで俺を優しく包み込み励ますような、暖かい景色だった。




