悪役令嬢現る①
簀巻きにされて紐で繋がれた3人は、屈強な男に引きずられて宮殿の中に連行されていた。
床から壁からどこを見ても豪華絢爛で、リインは明らかに良くない状況だが関心のため息が出た。
「ロザベール…ちと厄介な事になりましたな」
クラウスが眉を潜める。
「ロザベールお嬢様って何なんだ?」
「ロザベールはこの辺りに圧政を敷く悪名高き領主、フローリアン侯爵の長女なのですが…その正体は侯爵とその傭兵を陰で操る『悪役令嬢』です」
「悪役令嬢?」
「『おにいちゃん』が光なら『悪役令嬢』は闇…このルーンガルドの悪と混沌の世界に舞い降りた新種の闇種族なのです」
それを聞いたルスランが深刻そうに声のトーンを落とす。
「僕たち生きて出られるんでしょうか?」
クラウスが目を閉じる。
「神に祈ろう」
リインは2人の思い詰めたような様子を見ていると何やら不安になった。
性悪レベルではなくてそんなに悪い存在なのか…
そうこうしているうちに広間に着くと引く力が止まった。
「傭兵たち、今日もご苦労だね」
誰かの声が聞こえる。
顔を極限まで上げて前を見やると、高級そうなドレスとハイヒールが見えた。
これがロザベール?
だが、よく見るとドレスとハイヒールを身に付けた金髪の男だ。銀細工のアクセサリーとかピタピタのパンツを好みそうないわゆるチャラそうな細マッチョだが、かなり性悪な顔をしている。わざとらしい頭のリボンが嫌な感じだ。
「ロザベールの妹のクラリーネです」
クラウスがヒソヒソ話す。
「…どう見ても男だけど?」
「男ですが『悪役令嬢』なので妹なのです。だが、ロザベールに比べたらあれは雑魚…」
ほんとこの世界ややこしいな…とリインが思っていると、バーグが媚びた声を上げた。
「クラリーネ様、ご機嫌うるわしゅう。本日は、山賊と美少年とタコをお持ち致しました」
「ふうん?面白いねえ…」
クラリーネが3人を眺め回す。
「じゃ、俺は美少年をもらおうかな。ふふ」
「やはり!そうだと思いましたとも」
バーグが揉み手をする。
「そ、そんなぁ…ふええ…やだよぉ」
美少年と聞き、クラウスが目に涙を浮かべ芋虫のようにジタバタしはじめた。
「スケベ野郎が!!てめえクラウスちゃんに何するつもりだってんだ!?」
ルスランが山賊調の低いダミ声で食ってかかる。
「いや絶対クラウスさんじゃねえから!絶対!」
仲間といえど思わずリインがつっこんだ。
「へえ。このタコしゃべるんだ。お姉様が気に入りそう」
クラリーネが明らかに嘲るような笑みでリインを見下ろして来る。
自由なら即座に脚に噛み付いてやるのに。タコは結構強いんだぞ。
「あ、やっぱこの子供の山賊も貰っとこ。お姉様にはタコだけ献上しとけばあ?」
「えっ?」
リインの様々な気持ちの篭った「えっ?」を無視して女装のチャラマッチョが手をヒラリと振りながら去っていった。
それに合わせて一度紐が解かれる。
そしてルスランとクラウスだけ広間に捨て置かれ、再びリインは引きずられ出した。
「ぜったい助けに行くからな!」
リインが2人に呼びかける。
「頼むぜリインの旦那ァ!」
「行かないで!おにいちゃぁん」
遠くなるクラウスとルスランの、いまだ立場を変え続ける悲しげな声が広間に響いた。
何だこの無意味なごっこは。




