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真夏のフィールドワーク


 月日は流れ────


 俺たちが首都テノールにやってきてから、すでに一年と半分が経過していた。

 爵位や屋敷まで持ちながらもわざわざ〈探索者〉を志望して学園に残った俺は、周囲から奇異の目で見られながらもなんとか学園生活を送っている。

 学園の授業や訓練と、屋敷での共同生活。

 ……そして、お金を稼ぐための冒険者稼業。

 貴族だからというだけでお金が貰えるわけでは無いのだ。

 世の中、そんなに甘くないんだなぁ。

 というわけで、なんだかんだと忙しくしている俺であったが……

 その傍ら、もう一年近くも纏まった余暇を見つけては『ある事』をしている。


 ──今日も、その『ある事』の為に、俺は夏の日差しを燦々と浴びる山中で汗を拭いながら藪を漕いでいた。


 日光が緑の草木に反射して眩しい。


「くそ。あっついな……」


 騒々しい虫の声に包まれて独りごちる。

 ここは王都からだいぶ離れた山中だ。

 あのティルの隠れ家だった廃棄砦のさらに奥、〈ドゥラメンテ連山〉。

 広大な範囲の山地で、ここからさらに連峰は北へ伸び、やがて北方バッソ連邦との国境でもある死地〈白龍山脈〉へと繋がっている。

 こんなところで何をしているかと言うと……ずばり『召喚獣探し』だ。

 以前、夢枕に立った古代の大召喚士アラルガンドに託された〈召喚獣総譜〉。

 どうやら、これを元に召喚獣を集めるのが、俺がこの世界に来た理由の一つらしい…………彼から詳しい話は聞けなかったが。

 それを放置して置くのもやはり何となく夢見が悪いし、また本人に夢の中に出てこられても困る。

 というわけで、俺は本の中で首都テノール付近に記されていた〈魔紋〉の調査を続けているのだ。

 本の地図は古く魔紋の位置は曖昧だが、俺はこの〈ドゥラメンテ連山〉の中だと踏んでいる。

 以前、山中から強烈な気配と視線を感じたこともあり、リヴィアやランスロットの口ぶりからしてもほぼ間違い無さそうなのだが……。


「気配は確かに感じるんだけどなぁ。一向にその姿は見えん……」


 山の中のやや開けた場所で、岩に腰掛けてつぶやいた。

 濃い緑色の山地は果てしなく続き、遠く夏の青空にトンビらしき影が浮かんでいる。


『気配自体はかなり強力なものですね。それこそ、神獣クラスの……』

「神獣……」


 俺はゴクリとつばを飲み込んでから、リヴィアに問いかけた。


「リヴィア、何か心当たりは無いのか?」


 すると、リヴィアはバインダーから勝手に飛び出してきて遥かな山並みを見渡した。

 そして少し考え込んでから口を開いた。


「う~ん……。よく知ってる気配ではあるんだけど……でも、それとはちょっと違うんだよねぇ。それに、これはきっと山のどこかにいるんじゃなくて、山そのものが(・・・・・・)気配を放ってる(・・・・・・・)んだと思うよ」

「山そのものが……?」


 そう言われてから景色を眺めてみると、なんだか爽やかな山脈の中にいた自分が、急に巨大な生物の胎内に取り込まれているように思えて気味が悪かった。


「〈山の神〉ってことか?」

『そういうことかも知れませんな』

「あっ」


 と、そこで俺はあることを思い出して手を打った。


「山の事なら何でも知ってそうな知り合いがいるじゃないか! リヴィア、戻るぞ」

『……? はーい』


 俺はいそいそと帰り支度をすると、リヴィアと連れ立って山を下り始めた。


   ◆


「見えてきたわね」


 隣で馬に乗るミアが前方を眺めながらつぶやく。

 日の沈みかけた街道の先には、懐かしきレッジェーロの街が見えていた。


「ああ。何だか、地元に帰ってきた感じだな。……全然、出身地でもなんでもないんだけどさ」


 自分で言った言葉の訳の分からなさに苦笑する。


「いや、でも何となく分かるわ。私も同じ気持ち」


 ミアもそう言って笑った。


「ミア、悪かったな。長い休暇を申請してまで付き合って貰っちゃって」

「何言ってんのよ。いい機会だったし。それに、この子たちもいつか返さなきゃってずっと思ってたから」


 そう言って馬の首を撫でる。

 俺とミアが乗っているのは、以前〈森の女王〉が俺たちに貸与してくれた駿馬だ。

 俺たちは学園に休暇を申請して、レッジェーロへの『里帰り』をしていた。

 バックパックにはマールから託された手紙や土産が大量に詰め込まれている。

 今回の〈里帰り〉の主目的は、『森の女王から貸し与えられた馬の返却』、そして『〈ドゥラメンテ連山の神獣〉について聞くこと』……この二つだった。

 森のことなら森の民に聞くのが一番だ。


「もうすっかり元通りね」


 ミアが感慨深そうに言う。

 一面の焼け野原だったレッジェーロ周辺は、すでに草に覆われた大草原を取り戻している。

 半分近くを消失した〈モルデントの森〉も、今では昔以上に木々が茂り、生命力をみなぎらせている。

 俺たちは夕暮れ前に市門に到着することが出来た。

 門の前に置いた椅子に座ってうつらうつらしていた門番が、俺たちを見て慌てて立ち上がる。


「ミア……? ミアじゃないか!? って、コージさんまで!?」


 よく見知った顔だ。俺たちは抱き合いながら再会を祝した。


「こいつは大変だ! ささ、入って入って!」


 嬉しそうに招き入れてくれる。

 俺たちは一年半ぶりに、レッジェーロの市門をくぐった。


第三部『山神ルフ編』開始いたしました!

週一くらいの頻度になってしまうかと思いますが、お付き合いください!

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