クラスター〈マガツメ〉
王太子は、誠実そうな顔をした青年だった。
「王。リンツ様。一時、こちらに」
近衛兵が馬車の中から引っ張り出した敷物にテノン王を座らせる。
「いや、私は大丈夫だ。救助を手伝う」
王太子――リンツは、近衛兵に言うと、乗り合わせた賓客の救助を始めた。
「あ。僕も手伝います!」
アフェットが慌てて駆け寄る。
俺はそれを見ながら、リヴィアに召喚術のシンクロを経由して語りかけた。
『リヴィア、そっちは大丈夫か?』
『うん! 殆ど倒したよ! 皆も無事! コージは大丈夫!?』
『ああ。とりあえずな』
すると、憔悴しきった様子で座り込んでいた王が、俺に声を掛けた。
「ううぅ……。朕たちを助けたのは、そなたか……?」
そう問う王の玉衣は泥だらけで、顔にも擦り傷が付いていた。
「あ、えっと……まぁ、そうっす」
後頭部を掻きながら返す。
一国の王相手に、我ながら余りにもな対応だ。
こういうときファンタジーものの映画とかだと、なんか凄いカッコいい言葉で返してるような気がするんだけど……。
しかし、王はあまり気にかけた様子もなく、小さく頷いた。
「一見して類まれなるその剣技。一体、どこの何者じゃ?」
「あー……そのー……」
俺が何とかこういう時に使うような言葉を探していると、傍らにいたレガート卿が助け舟を出してくれた。
「彼は、コージ殿。ヴァンライン家のご子息であられます。我が娘も以前、コージ殿に身を救われた事が……」
王はそれを聞くと、憔悴した顔に喜びを浮かべた。
「ほっほ。そうか、そうか。なるほど、さきの剣技も常のものではない。稀代の英雄、と言えよう。ほれ、エリノア。お前もこちらへ来なさい。コージ殿も困っておろう」
王がそう言って俺の横にいる姫を手で招いた。
姫――エリノアは俺の服を両手でぎゅっと握りしめたまま頷いたが、なぜかそこから動こうとしない。
「……?」
俺が困惑した顔で見下ろすと、一瞬目を合わせてから慌てて視線をそらされた。
「これは困ったのう」
王が苦笑していると、救助をあらかた終えたリンツ王太子がやってきた。
「エリノア。今はこちらに来なさい」
リンツが優しく言うと、エリノアは名残惜しそうに俺の服を放して王の元に向かった。
リンツはそれを見届けると、俺に微笑みかけた。
「コージ殿、と言ったな。俺からも礼を言うよ」
王もそれに頷く。
「うむうむ。此度の、そなたの献身的な戦いの褒美は――」
――メキメキメキメキ。
その時、王の言葉を異様な音が遮った。
上空に、暗黒の空間の歪みが生まれたのだ。
「あ……あれは、次元の歪み!? 大きいぞ……!」
救助者を運び出し終えたアフェットが驚愕に目を見開く。
突如生まれた次元の歪みは、大きな影を吐き出して掻き消えた。
吐き出された影が俺たちに立ちはだかるように、土を捲き上げながら着地する。
それは漆黒の外骨格に覆われた、見上げるほどに巨大な化け狐だった。
折り重なる装甲板のような外骨格の隙間からは、青白い燐光が漏れている。
その尾は身体を取り巻くほど長く、蛇腹に組み合った尾の鋼殻は刃物のように鋭利に研ぎ澄まされていた。
【マガツメ Lv:1,890
HP:45,378/45,378
AP:400/400
攻:11,344
防:10,399
スキル:刃術 体術 封魔 自己回復】
青く光る二つの瞳が、俺たちを見下ろした。
今までのアボイドたち異形よりも、より生き物に近い雰囲気が漂っている。
「アボイド……いや、〈クラスター〉!? 中型の、聞いたこともないタイプだ……!!」
アフェットが叫ぶ。
『クオォォォォォ!』
同時に、マガツメが咆哮を上げ、刃尾を振り上げた。
「――ッ!? 姫ッ……!」
俺は咄嗟にエリノアを背に隠して、剣を大地に突き刺した。
純白の羽根のような光の破片が大量に舞い上がり、俺たちを包み込む。
直後、マガツメの尾が俺たちに襲いかかった。




