心のままに
水路に静けさが戻る。
「ふう。騙したわけじゃ無いんだけど……。こっちが、本当の僕のステータスだよ」
そう言って振り向いたアフェットが開いたステータスは――
【アフェット・ヴァンライン Lv:177
HP:1788/1788
マナ:1092/1092
AP:80/90
ジョブ:魔術騎士
スキル:剣術 90 体術 88 付与魔術 80 パリィング 75 治療 75
観察 50 偽装 99
装備品:学園の制服 竜鱗のチュニック 稲穂紋の騎士剣】
「な、なんつーステータス……」
俺が驚愕しているとアフェットが笑う。
「いや、コージくんが言えたことじゃないでしょ。きみの方が得体が知れないんだけど……って、こんな話してる場合じゃ無かったね。そっちのステータスはおいおい見せてもらうとして……」
「ああ。急ごう!」
俺たちは頷き合うと、水路を駆け出した。
ランスロットの脚力を持っての疾走に、アフェットもしっかりとついてくる。
この底知れない力は〈ヴァンライン家〉の血が持つものなのだろうか?
「こっちだよ!」
水路を抜けると、その先は首都裏手の森になっていた。
首都のある丘陵の斜面を下る細い道が続いている。
水路脇には小さな厩舎があり、緊急用に隠していたものなのか、馬車の轍が山道を下っていっていた。
傍らには、アボイドに襲われた馬丁の少年の亡骸が転がっている。
「首都なんだろ!? 騎士団くらいいるもんじゃないのか!?」
「王直轄の〈黄翼騎士団〉は、今、国境付近で反乱の鎮圧をしているそうだよ!」
「折り込み済みってわけか……! とばすぞ! 後からついてきてくれ!」
「ええっ!? ちょっ……コージくん!?」
俺はそう言うと、思いっきり跳躍した。
森の木々が眼下に沈み、景色が高速で流れる。
強化された動体視力で、大きな杉の枝に着地。
枝のしなりを受けて再び跳躍した。
ミシミシと枝が折れる音が一瞬で背後に遠ざかっていく。
二度目の跳躍で、視界の先に白い馬車の姿を捉えた。
四頭の馬が、無数のアボイドに追い立てられながら懸命に牽引している。
直後、地面から突き出た太い木の根に跳ね上げられ、馬車の車輪が吹き飛んだ。
馬車が横倒しになって馬の嘶きと乗員の悲鳴が響く。
「くそっ!」
枝に着地して、再び跳躍。
前方では、鎧姿の近衛兵が馬車から誰かを助け出していた。
綺羅びやかなドレスを身に纏った少女だ。
「姫様……! お逃げくださ――ぐあっ!?」
背後からアボイドに胸を突かれた近衛兵は、倒れ込んで動かなくなった。
「ああっ……!」
姫が腰を抜かしてへたり込む。
歓喜の雄叫びを上げてそこに襲いかかろうとしたアボイドを、
「おおおッ!」
降下ざまに真っ二つに斬り裂く。
俺は横転した馬車と敵の群れの間を遮るように、土を盛大に蹴立てて着地した。
『キケキャキャキャキャ!?』
俺の出現に、アボイドの群れが警戒して距離をとった。
「あ、あなたは……?」
顔面を蒼白にした姫が俺に尋ねる。
「学生です。俺の後ろから離れないで」
「ううっ……。コ、コージ殿……!?」
馬車から這い出てきたクララの父上、レガート卿が、俺の姿を見て驚く。
その腕には額から血を流したクララが抱かれていた。
『ギギャァァァァ!』
アボイドの群れが、こちらに飛びかかろうと身を沈めた。
「ランスロット! 〈聖剣技〉の使い方は!?」
『心のままに!』
「了解! ……オオオォッ!」
後ろの人たちを、絶対に護る。
そう心に刻んで精神を研ぎ澄ますと、握りしめた〈稲穂紋の騎士剣〉が強く輝いた。
「〈聖天烈破〉!」
自然と口がそう言葉を紡ぐ。
俺が虚空に剣を振り下ろすと、頭上から幾筋もの光の帯がアボイドたちに降り注いだ。
エネルギーが膨れ上がる衝撃とともに、アボイドはまるで光の中に溶けるように粉々になって消えていく。
〈聖天烈破〉の光が余韻を残しながら消えたときには、俺たちの視界から全てのアボイドが消滅していた。
「あー、びっくりした」
いつの間にか近くの木の陰に隠れていたアフェットが目を白黒させながら出てくる。
「追いついて助太刀に入ろうかと思ったらコレだもんなぁ」
そう言って楽しそうに笑う。
「コージ殿……。今の光は……貴殿が……?」
レガート卿が、倒れた馬車に捕まりながらふらふらと立ち上がって俺に尋ねた。
片足を引きずり、白髪交じりの頭髪は血に濡れている。
「ええ。クララは……!?」
「大丈夫。気を失っているだけのようだ」
傍らに寝かされたクララは呼吸も正常で、命に別状は無さそうだ。
「姫様……ですよね? 大丈夫ですか?」
俺がそう言って手を差し伸べると、姫はおずおずとその手を取って立ち上がった。
「ありがとう……」
十一、二歳と言ったところか。
まだ子供だが、とてつもない美少女だ。
ドレスや髪が泥にまみれていても、その美しさはまるでダイヤの原石のように輝いている。
「おい、ゆっくりだ! 慎重に運び出せ!」
すると、生き残っていた近衛兵たちがテノン王と、もう一人の王族――王太子だろう人物を倒れた馬車の中から丁重に引き出してきた。




