本物
ざわついていた宴室がにわかに静まる。
リヴィアに纏わり付いていた連中も散り散りになっていった。
「はぁ。災難だったよ……」
リヴィアがくたくたの状態で帰ってくる。
部屋の奥の緞帳から王が現れた。
ミアたちの先ほどまでの大騒ぎも鳴りを潜め、全員がその姿を見つめている。
テノン王は六十代も後半だろうか。
背はやや低く、恰幅が良い。
色とりどりの宝石が埋めこまれた王冠の下にある機嫌の良さそうな顔は、まるまると太っていた。
腰の総金製の剣の柄に掛けられた指は、およそ剣など振るったことがないようにツヤツヤとしている。
「今宵は、学園にとって……いや、我が国にとっても実にめでたい日である。朕も、実に喜ばしく思っておるぞ。みなみな、心ゆくまで宴を楽しんで欲しい」
のほほんとした声でそう言うと、国王は主賓席の中央にある一際豪奢な椅子に座った。
ついで魔術校の校長が一言二言のそっけない挨拶(ボソボソ喋るので何を言っているか殆ど分からなかった)をし、騎士校の校長に場を譲る。
「おほん。え~……ご紹介に預かりました、騎士校校長のフランツ・リスタンであります。今日は、我が国が誇るこの学園が創立し45年という節目の年でもあり、そのめでたい創立記念の日をこうして騎士校校長として迎えたことは――」
立て板に水のごとく内容の薄い挨拶をするリスタン。
あー、これは長くなるやつだ。
学園のイベントでも何回か食らった。
周りの学生たちからも小さなため息がもれる。
ミアなんかは露骨な悪態をついていた。
あ。リヒャルト寝てるし。
「ふぁ~……。よく喋るねぇ」
リヴィアも退屈そうに言う。
俺はそんな中、ある人物を探して密かに周囲を伺っていた。
そう。例の本物のヴァンライン家の息子だ。
目印は、『一般生徒の格好をした、高貴なオーラの出てるやつ』。
いや、完全に勘でしかないけど。
「……うーむ……。やっぱり分かるわけないか」
まぁ、当然といえば当然なのだが、そんな当てずっぽうで見つかるわけもない。
すると、幾つかテーブルを挟んだ位置に立っていた青年と不意に目が合った。
一般生の制服を着ている。
よく見えないが胸のバッヂは恐らく騎士校のもの。
年のほどは十四、五歳か。
さらさらの銀髪。背は高くなく、一見すると子供のように見える。
数秒間視線を交わすと、温和そうな笑顔を俺に投げかけてから視線を逸らした。
「……あれは……?」
もしかすると……。
と、ちょうどいいタイミングでリスタンのスピーチが終わった。
拍手が送られ、楽団の演奏が開始されると、テーブルに次々と食事が運び込まれてきた。
「……リヴィア。見つけたかも。ちょっと、ミアたちのところにいてくれ」
「うん。了解」
リヴィアも俺の目的は把握している。
俺はグラスを片手に談笑を始める人々を縫って、先ほどの青年に近づいていった。
「……あの。今晩は」
青年が都合よく一人で立っていたので、小声で話しかける。
近くで見ると、身体の線は細く、まるで女の子のように整った顔立ちをしていた。
しかし、その立ち姿には消して弱々しさは無く、瞳には意志の光のような物が強く宿っている。
そんな印象を受けた。
彼は、俺を見ると微笑を浮かべて会釈した。
「今晩は。コージさん、ですよね」
「ああ。その、突然不躾かも知れないんだが……もしかして、きみは――」
俺が言いかけたのを、彼は口元に人差し指を当てて止めた。
「ここじゃなんです。ちょっと出ましょうか」
俺が言うことをすでに分かっているかのような反応。
彼は俺を先導するようにパーティー会場を抜け、奥の扉から城の三階テラスへと上がって行った。




