怪しげな二人
俺たち以外には誰もいない。
月光が静かに影を落としている。夜風が気持ちいい。
「はじめまして……では無いですね。試験の時に一度会っていますから」
「……あ!」
思い出した。
「一次試験のときの……!」
ゴーレムへの打撃試験で、ミアと同数値を叩き出した剣士だ。
「あの時は苦労しましたよ。目立ちすぎないよう無難に二位で通過する予定でいたのに、一位の貴方はとんでもない事するし、ミアさんはミアさんで数値が高いし……」
そう言って苦笑する。
「きみは……」
俺が問うと、彼は改めて小さく一礼した。
「アフェットです。アフェット――」
「……ヴァンライン」
俺が言い足した言葉を、アフェットは肯定するように無言で頷いた。
密かに〈観察〉を試みる。
【アフェット・ヴァンライン Lv:33
HP:282/282
マナ:0/0
ジョブ:剣士
スキル:剣術 55 パリィング 40 体術 32 治療 25
装備品:学園の制服】
なるほど。至って普通のステータスだ。
しかし、ちょっと引っ掛かる。
このステータスでミアと同じ攻撃力を持っているというのは一体……?
「コージさんには、色々とご面倒をお掛けしているようで……。本家の情報網が、僕が学園に行くのを掴んでいるのは知っていましたが、まさか校長が他人と僕を勘違いするなんて」
「あの校長だからなぁ」
「確かに」
そう言って互いに笑う。
良かった。どうやら、悪いやつじゃ無さそうだ。
「一体どうして、身分を隠してるんだ?」
「まぁ、僕は根っからの放蕩息子って奴でして……。家を飛び出して気ままな冒険者生活を送り始めてから、もう三年以上が経ちます。貴族の身分なんてのは、そう言う生活の中では邪魔なだけですから」
「なるほどね」
「なので、コージさんがお嫌でなければ、当分の間はヴァンライン家の一員として過ごしていただければと思うのですが……」
伺うような表情でアフェットが言う。
「嫌では無い……というか、もう結構慣れてきちゃったからなぁ。でも、大丈夫なのか? 詐欺罪で捕まったりしないよな?」
「その時は、獄へ差し入れくらいはさせていただきますよ」
「おい!」
「はは、冗談です。何かあった時は、僕の名前を出してもらって大丈夫。そんなに融通のきかない本家ではありませんから」
俺たちが冗談を言い合って笑っていると、階下から誰かが上がってくる足音が聞こえてきた。
「…………」
俺たちは目を合わせると、なんとなく隠れるように柱の陰に移動した。
やがて階段の下から姿を表したのは、金襴の服を着た気の小さそうな男だった。
「あれは……第二王子のセバスティアン様?」
アフェットが小さく呟く。
男はテラスの横を通過すると、きょろきょろと辺りを伺いながらさらに奥の階段を登っていった。
「王子? 俺にはこそ泥に見えたけど」
「あまり良い評判の無い方ですから」
「だろうなぁ」
「しっ。……もう一人来ます」
今度は大柄な男だ。
黒いサーコートにビロードのマント。
騎士だろうか。
巌のような顔には、戦いを生業にする者特有の威圧感が漂っている。
男はテラスの前で立ち止まった。
慌てて覗いていた顔を引っ込める。
「…………」
気づかれたか?
いや、別に何もやましいことは無いんだけどさ。
しかし、そのまま息を潜めていると、男は再び歩き出したらしく、足音が遠のいていくのが分かった。
向かったのはセバスティアン王子と同じ方向のようだ。
「ふう……」
「今の方……。確か、バッソ連邦のツァイコフ副将軍では? バッソの方は来賓にも名前は無かったはずですが……」
「バッソ連邦って、ここからずっと北の?」
「そう。グランクレフの北方にある大国です。ちょっと記憶が曖昧なので、確信は出来ませんが。一体、この先で何を……?」
俺とアフェットは目を合わせると、どちらともなくツァイコフ副将軍の後を追った。




