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創立記念式典へ!

   ◆


 それ以降、ティルの姿を学園で見かけることは無くなった。

 噂では廃人のようになったティルが、本家〈ストラウス家〉の馬車に乗せられて街を出ていくところを見たものがいるとか……。

 とにかく、もう済んだことだ。

 問題があるとすれば……あれ以降、何かとクララが俺の後ろをくっついてくるようになったくらいだ。


「コージさん! 授業お疲れ様です!」


 今も、講義室を出た瞬間に声を掛けられた。


「あ、ありがと……。あの、きみも授業があったんじゃ……?」

「はい。でも、終わった瞬間に飛んできました」


 飼い主に懐く子犬のような目をして俺を見上げるクララ。


「えーと……。俺は昼飯でも食いに行こうかなと思ってたんだけど……行く?」

「い、いいんですか!?」


 俺の問いかけに目を輝かせて頷く。


「お荷物お持ちします!」

「いや、いいって!」


 俺はクララを後ろに従えるような形で、購買で昼食のサンドイッチを買って前庭に向かった。

 美しく整備された学園の庭園は、今日のような晴れた日に昼飯を食うには最高だ。

 なんとなく指定席となっている樹の下にクララと一緒に座る。


「学園支給の弓には慣れた?」

「いえ、実はまだあまり。使い慣れた弓に比べると、やっぱりどうも感覚が違くて……。ふにゃふにゃと言うか……」

「なるほどねぇ」


 魔帝国時代の逸品と比べたら、それはそうだろう。

 その弓に通常の弦を張って使っていたのだから、色々とバランスがおかしくなっているのかも知れない。


「そういえば、明日は創立記念パーティーですね。コージさんは行かれるんですか?」


……あ。すっかり忘れていた。


「そういえば、そうだったなぁ。俺は顔を出そうと思ってるよ。クララは?」

「私は、父が『どうしても参列せんわけにはいかん!』と言っているので、その付き添いを……」


 そう言ってクララが苦笑する。

 どうやら、だいぶアクの強いお父さんのようだ。


「パーティは夕方からか……。ミアたちはどうするのかな?」


 俺はサンドイッチにかぶり付きながら思案した。


   ◆


 翌日の夕刻。

 学園創立記念パーティーは、なんと王城の大宴室で行われるらしい。

 俺とリヴィアは絢爛な馬車に乗って、王城の正門までやってきた。

 王城は比較的新しく、この時代の建築技術の粋を持って建てられた綺羅びやかなものだった。

 大陸の情勢が安定してから久しいのだろう。

 物々しい防衛機構はあまり見られない。


「お~! すご~い! お城なんて何千年ぶりだろう」

「こらこら。あんまりはしゃぎすぎるなよ?」


 隣でぴょんぴょんとはしゃぐリヴィアをたしなめる。

 やや心配だが、『どうしても行きたい。行けないなら城を破壊する』とまで言われたら、連れて歩くしかないだろう。


「コージ・ヴァンライン様ですね。城内では帯剣が許可されておりませんので、お持ちの場合はお預けを。そちらはお連れ様で……」


 正門でボデチェックをしている門兵が、リヴィアをひと目見て絶句する。

 まぁ分からないでもない。

 〈偽装〉をパーティー仕様にいじったという今のリヴィアは、髪を見事な夜会巻きに盛って、魅惑的なドレスを着用していた。

 光沢のある海色のドレスはどこかエキゾチックなデザインで、胸元が大胆に開いている。

 今夜のリヴィアは、王族ですらハッとしそうなほどの蠱惑的な魅力を全方位的に発散させていた。

 隣で学院の制服姿の俺が非常に惨めな気持ちになるほどだ。


「あのー……?」


 俺が声を掛けると、門兵はハッと我に返って俺たちを通してくれた。

 正門を通り抜けると、そこは王城の前庭だ。

 学園の前庭のようにだだっ広くは無いが、恐ろしいまでに手入れをされた花樹草本が空間を彩っている。

 日も落ちた庭園はまばらに立つ魔術灯に照らされて、幻想的な雰囲気に包まれていた。

 次々と到着する学生や貴族、階位を持つ市民などが、肩を連ねて歩いたり、立ち話をしたりとしている。


「うおぉ。なんだか、ディズニー映画で観たような光景だ……」


 あまりにもな自分の場違い感に目眩すら覚える。

 リヴィアは堂々とした様子で、ややしなを作った感じすら出しつつ俺の隣を歩いていた。


「なんか慣れてるなぁ、リヴィア」

「ん~? まぁ、魔帝国の宴席にはよく招待されてたからね」

「神を招待する宴会か……。もはや儀式だなそれは」

「まぁ、言われてみれば確かに」


 リヴィアが口元に指先を当てて言ってから、クスクスと笑う。

 今夜は、そういった仕草までもがどこか上品だ。

 前庭を抜けて城の中に入ると、無数の照明が真っ白な壁や金銀の調度類に反射して目も眩むほどな美しさだった。


ブックマークありがとうございます!

まだの方も、気に入っていただけたら是非……!

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