一件落着……?
「……クララ!」
クララの元に駆け寄って抱き起こす。
目立った怪我も無いようだ。呼吸も安定している。
『恐らく、薬で眠らされているんでしょう。じき目を覚ますかと』
ランスロットが言う。
むしろ、彼女がこの一連の戦いを目の当たりにしなかったのは幸運だろう。
「無事で良かったね。あいつも、あれくらい脅しとけばもう関わってくることも無いかな?」
リヴィアがクララの様子を見て言う。
「ああ。リヴィア、ありがとう」
「コージのためだもの」
得意げに胸を張るリヴィアの頭を撫でてやると、彼女は満足そうに目を細めた。
「後は俺とランスロットでなんとかなるだろう。リヴィア、戻っていいぞ」
「は~い!」
俺はカードに戻ったリヴィアをバインダーにしまうと、制服のジャケットを脱いでクララに羽織らせた。
「さて、【聖騎士ランスロット】!」
『御意』
ランスロットを召喚。
APは【102/400】帰りの警戒分には十分だ。
ランスロットによって強化された身体能力でクララをひょいと背中に背負いあげると、俺は砦を後にした。
夜更けの森は静けさが漂っている。
差し込む月明かり。虫の声。
「……!?」
俺は不意に強烈な気配を感じた気がして振り返った。
『今の気配は……?』
ランスロットも呟く。
背後の砦の向こうには、黒々とどこまでも連なる山々が横たわっていた。
首都テノールと西の海岸線を遮る〈ドゥラメンテ連山〉だ。
遠くから狼か山犬の遠吠えが聞こえてくる。
俺は山の方から誰かに見られているような気がして、背筋が寒くなった。
『この気配……我々と近しい存在のもののようです』
「我々って言うと……召喚獣ってことか?」
『確証はありませんが』
後ほど、調査に来たほうが良いかも知れない。
俺はクララを背負いなおすと、山地側に背を向けて帰途についた。
森を駆け抜け、草原を疾走する。
すると、到着したテノールの市門の外に数人の人影と一頭の馬がいた。
「……! コージ! 良かった。無事だったのね!」
人影はミアやリヒャルト、マールだった。
「この子が魔術校の寮の辺りをうろついていたんです。怪我をしていたから、もしかしてコージさんに何かあったのかと……」
「聞き込みをすると、コージが慌てて市門を出ていったと聞いてね。マイ・プレシャスの危機に華麗に参上しようかと思っていたところなのだが……。どうやら、もう終わってしまったようだね」
俺の背中で寝息を立てるクララを見て、リヒャルトが微笑を浮かべる。
「ああ。心配かけてすまなかった。実は――」
俺は今回の一件を三人に伝えた。
「まったく……。水臭いじゃない。一人で解決しようとするなんて」
ミアがため息混じりに言う。
「助けを頼もうかとも思ったんだが、なにせ時間がなかったからな」
すると、リヒャルトが肩をすくめた。
「ミアくんは、単純に暴れたかっただけだろう?」
「うるさいわね。……まぁ、半分はそうだけど」
二人のやり取りにマールが笑う。
「こいつにも怪我させちゃったしな」
馬の背中を撫でてやる。
ミアたちが治療してくれたのか、矢傷のあった胴には清潔な包帯が巻いてあった。
クララ一人くらいなら乗せても大丈夫そうだ。
俺は眠ったままのクララを馬の鞍に乗せると、ランスロットの召喚を解除した。
「俺はこの子を寮まで送って帰るよ。三人とも、こんな時間にありがとうな」
「今度、ご飯でもご馳走してもらわなくちゃね」
ミアに肩を小突かれつつ、俺は三人に別れを告げて騎士校の寮へ向かった。
騎士校の寮の手前で、クララは目を覚ました。
「ん……うう……。ここは……?」
馬を停めてクララが落ちないように支える。
「コージ……さん?」
ぼんやりとしたクララの瞳が少しずつ普段の色を取り戻し――
「……! あ、あれ……!? 男の人達に森の中に連れて行かれて、その後ティルさんが……。あっ――!」
気を失う前の出来事を思い出したのか、クララは自分の身体を抱いて顔を真っ赤にした。
「大丈夫だよ。もう、何も心配いらない」
俺が言うと、クララは堰を切ったように涙を流し始めた。
「こわ……怖かった……です……」
しゃくりあげながら何とか言葉にする。
「もうティルはきみの前には現れないはずだよ。あの野盗たちも」
「コージさんが私を……?」
俺が黙って頷くと、クララは馬上から俺の首に抱き着いてきた。
羽織らせていたジャケットがはだけて、白い肌があらわになる。
はたから見たら、俺は半裸の女の子と路上で抱き合ってるやばいヤツに見えるだろう。
「お、おいおい」
俺がなだめるように肩を叩くと、クララは我に返ったように身体を離した。
「す、すみません……!」
先ほどとは違い、桃色に頬を染めて顔を背けた。
「コージさんは、私の恩人です……。このご恩は一生かけて返させて頂きます」
「はぁ……」
うつむき、上目遣いに俺を見ながら言うクララに、俺は深い意味も考えずに生返事を返した。
『ほう。主、これは求婚の言葉ですな。お受けになるので?』
「はぁぁぁ!? いやいやいや……!」
ランスロットの感じ入ったような言葉に、俺は素っ頓狂な声を響かせた。
当のクララは俺の声にも驚かずに、胸の前で指を組んでぽや~っとハート型にでもなっていそうな瞳で俺を見つめている。
「……困った」
リヴィアが寝ているらしい事が、ある意味救いではあった。




