月夜の前哨戦
小一時間も走ると、森の入口に着いた。
誰かが踏み均した山道を見つけ、慎重に馬を進めていく。
やがて木々の間に、大きな建物とぼんやりと揺れる幾つかの火が見えてくる。
「……あれか!」
俺が馬の速度を上げようとした瞬間――
『ひゅっ』という小さな矢鳴りと共に、馬の腹に短弓の矢が突き刺さった。
激痛に馬が嘶いて暴れる。
俺は転げるように落馬して、近くの草むらに倒れ込んだ。
『コージ! 大丈夫!?』
『主……!』
「ぐっ……はっ……」
背中を打ったのか、呼吸もまともに出来ない。
すると、向こうの森の闇の中から二人の男がガサガサと姿を表した。
「はっは! まさか、坊っちゃんの言ってた通り、マジで来るとはな! おい、仕留めたのは俺だぞ。金一封は俺のもんだ」
「何いってんだ、バカ。見てみろ。矢は逸れて馬に当たってる」
「あ~ん?」
男は矢が刺さって倒れ込んだ馬を見ると、その腹を思い切り蹴り上げた。
「ざけんな、この畜生がッ! 獲物はどこ行きやがった!?」
「けっけ。まだ、ゲームは続行――」
男たちが俺を探そうと辺りを見渡すのと、俺が草むらから飛び出したのは同時だった。
「出ろ! 海神【リヴァイアサン】ッ!」
地を這うように駆けながらリヴィアを呼び出す。
「あっ! てめぇ……!」
男が矢を放った。取り回しと速射性の高い短弓だ。
「……ッ!」
集中力が極限まで高まり、脳が火花を散らす。
僅かに顔を動かした俺の頬を薄く切り裂きながら、男の放った矢は後方の木に突き立った。
「あたしのコージに……なにするのよッ!!」
光とともに現れたリヴィアは全身から怒気を発しながら男の腹に拳を打ち付けた。
「うげっ――!?」
男が声にならない声を上げ、森の木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく、
「てめぇッ!」
もうひとりの男が弓を構える。
「〈水よ〉ッ!」
リヴィアの手から水流の矢が放たれて、男の胸を貫いた。
男は声を上げる間もなく、糸が切れたように倒れ込む。
辺りを静寂が包んだ。
「……! おい!」
俺は倒れた男の方へ駆け寄り、肩を揺さぶったが……。
「……死ん……でる」
うつ伏せに倒れた男の下からは、とめどなく赤黒い血が流れている。
死んだ。
殺した……? 俺が?
そうだ。俺が、リヴィアで。
人を殺した。
「コージ、ごめん……。もっといい方法があったかもしれないのに……」
「いや、いいんだ。分かってる。こうしないと俺も死んでた」
この先の砦では、もっと悲惨な状況になるかも知れないんだ。
この世界で生きていくなら、こんな感傷は捨てなければ……。
『主……。殺すも生きるも、戦士の常。何かを護るためには、時に己が何かを奪う覚悟も必要かと……』
「そう……なんだろうな。ありがとう、ランスロット」
ここでぼんやりもしてられない、俺は傷を追った馬の具合を見た。
矢は運良く鞍の端に当たっていた。
「良かった、思ったより深い傷ではなさそうだ。立てるか?」
手を貸すと、馬は何とか立ち上がって俺に鼻先を寄せてきた。
「ごめんな、俺のせいで……。自力で街の方まで帰れるか?」
俺の言うことが分かるのか、馬は小さくぶるると鼻を鳴らした。
「よし、じゃあ行け」
そう言って尻を押すと、馬は俺の方を振り返り振り返り去っていった。
「……さて。リヴィア、急ごう!」
リヴィアを召喚したことでAPは【250/400】に減少している。
ここからは時間との戦いだ。
俺とリヴィアは、狭い山道を駆けがっていった。




