凶行
「…………」
この夜更けに訪問者。
俺はマジックバインダーを腰に装着して、警戒しながらドアを開けた。
そこにいたのは――
「……オーレン? どうしたんだ、こんな時間に?」
廊下の壁に寄りかかるように、オーレンが不機嫌そうな顔で立っていた。
いや、不機嫌そうなのはいつもだが。
オーレンは何かを言いあぐねるように無言で俺を見つめると、小さく口を開いた。
「…………お前の女がティルに連れて行かれたぞ。あいつの雇ったゴロつき集団も一緒だ」
「俺の……? まさか、クララが!? そんな……一体どこに!?」
「俺には分からねぇ。あいつは街の内外に色々と〈本家〉の目から逃れる隠れ家を作ってるからな」
「同じ貴族同士だろ!? 何か分からないのか!?」
俺が掴みかかるように問うと、オーレンは冷静な表情を崩さないまま俺の肩に手を置いた。
「落ち着け。それに、ティルは……あいつは貴族じゃない。あいつの本家は、〈レント〉の街を牛耳る大商人の家系だ」
「……そうだったのか」
「商人のことは商人が一番知っているが、あいにく俺には心当たりがねぇ」
俺はオーレンから手を離して考え込んだ。
「商人……商人……。あっ! あるぞ! 心当たり!」
「そうか。なら急いだほうがいい。俺も手を貸したいところだが……あいつの家と揉めると俺の本家にも事が及んじまう」
「オーレン、大丈夫だよ。ありがとう!」
俺はオーレンに感謝を告げると、即座に部屋を飛び出した。
ミアたちに助けを求めようか。
いや、すんなり会えるかどうかも分からない。
今は時間との勝負だ。
学園区で預けていた〈森の女王様の馬〉を引き取ると、俺は慣れない乗馬に悪戦苦闘しながら商業区までの道を駆けた。
目的の店の前まで来ると、その門を叩く。
「ゲイル! いないのか!? ゲイル!」
東大通りの商店〈ゲイルズ・ドレスアンドアーマリー〉は、とっくに灯りも落ちて静けさに包まれている。
俺はその裏手にある住居部分に入って、さらにドアを叩いた。
「だぁれ? もう。こんな時間に」
やがて、ピンクのふりふりのパジャマにナイトキャップを被ったゲイルが、目をこすりながら扉を開けた。
「あら? コージくんじゃない。どうしたの、そんなに慌てて」
「よかった! ゲイル! 実は――」
俺の話を真剣な眼差しで聞いていたゲイルは、少し考え込んでから口を開いた。
「……思い当たる場所があるわ。街を出た森の奥に、もう使われてない砦があるの。豪商ストラウス家のバカ息子が、そこを根城に街のゴロつきどもと野盗まがいの事をしてるっていう噂を聞いたことがあるわ」
「それだ……! ありがとうゲイル!」
「うふ。お礼は着古したインナーでよくてよ」
俺はゲイルのその言葉を意図的に無視して、馬に飛び乗った。
夜の街を駆け抜ける。
市門の番兵に市外に出る旨を伝えると、怪訝な顔をされた。
「夜の街道は危ないぞ。大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だ」
学園の白い制服はこれ以上無い身分証だ。
番兵もそれ以上引き止めることもなく、馬に乗った俺を通用口から通してくれた。
ティルのアジトがある森は西の山脈の麓だ。
『コージ! 急ごう!』
「ああ!」
リヴィアに返事をすると、俺は馬を加速させて夜の草原を走り出した。
ブックマーク300突破しました……!
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僕が書いたものが、こんなに沢山の人に読んでもらえるとは……。
愛読して頂いている皆様のおかげです……!




