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アンティーク・ボウ


 それから、すっかり日も落ちた頃。

 寮の俺の部屋の椅子に座って、クララは俺が淹れた紅茶を飲んでいた。


「落ち着いた?」

「はい……。さきほどはありがとうございました」


 目を赤く腫らしたまま、ペコリと頭を下げる。


「コージさん……すごく強いんですね。それに、召喚師なのに、騎士校に入れるくらい剣も扱えるなんて……」


 クララは紅茶を一口飲むと、カップに視線を落としたまま言葉を続けた。


「やっぱり凄いなぁ……。貴族の人達って」

「……? キミも貴族じゃないか」


 俺がクララの真っ白な制服を見下ろしながら言うと、クララは寂しそうに笑った。


「私の家は、田舎に小さな領地を持っているだけの領主です。貴族なのは形だけ……。ヴァンライン家のご子息様と一緒になんかしたら、バチが当たっちゃいますよ」

「あ、いやー……。そんなことは無いって」


 俺は気まずい気持ちで後頭部を掻きながら、事の真相を話そうか迷った。

 しかし、俺のことを聞いて何か面倒事に巻き込まれたりなんかしたら、オーレンはまだしもこの子には可哀想だ。


「それにしても、クララはなんでこの学校に?」

「……私、子供の頃から野山を駆け回るのが大好きで、女の子なのに父について狩りにもよく連れて行ってもらっていました。そこで父は才能を感じたらしく、『探索者として名を馳せ、家の格を上げるんだ』と意気込んで私をこの学園へ……」


 そこまで言うと、俺を見上げて苦笑した。


「でも、どうやらやっぱり才能は無かったみたいです。得意だったはずの弓も、ここに来てからからっきしだし……。他の生徒さんたちは皆強いし……」

「ごめん。ステータス、見ても良いかな?」

「あ、はい。もちろんです」


 クララの了承を得てから、〈観察〉を試みた。


【クララ Lv:31

 HP:328/328

 マナ:0/0

 ジョブ:弓術士

 スキル:弓術 66 集中 47 治療 40 探知 31 弓矢作成 25

 装備品:アンティーク・ボウ 学園の制服】


 なるほど。弓術もよく訓練されているし、弱いというわけでは無いはずだが……。


『悪くないと思いますが……?』


 ランスロットも同じく言う。


『あの弓が気になりますね。主、よく見させていただいても?』

「ああ。……クララ、俺の召喚獣がその弓を見たいって言ってるんだけどいいかな?」


 クララが傍らに立てかけている長弓を指して言うと、クララは、


「え? ええ……どうぞ」


 そう言って俺に手渡してくれた。

 光沢のない黒い木材で作られた弓幹は、各部が黒い革で補強されている。

 その弓は、見た目よりもかなりずっしりとした重みを俺の腕に伝えてきた。


「へぇ……。来い、【聖騎士ランスロット】」


 弓を膝においたままランスロットを呼び出す。

 現れた青い人魂がふよふよと〈アンティーク・ボウ〉の上に移動してきた。


「こ、これは……召喚獣ですか?」


 クララが怯えたような表情で言う。


「そうだよ。襲いかかったりしないから大丈夫」

『クララ殿。この弓の弦は、元からの物で?』

「ひゃっ!? だ、誰!?」


 人魂から突然話しかけられて、クララが飛び上がるように驚く。


『私です』

「ひ、人魂が喋った……?」


 混乱しているクララに苦笑しつつ、フォローを入れる。


「そういう召喚獣なんだよ、ランスロットは。中身は、魔帝国時代の伝説的な騎士だよ」

「そ、そうなんですか……? 凄いですね」

『お褒めに預かり光栄です。して、この弓の弦は一体?』

「あ、すみません……! 家に保管してあった時から弦は失われていたので、今張ってあるのは普通の麻の弦ですが……」

『ふむ……。学園に来てからは、修練は常にこの弓で行っていたのですね?』

「はい。父からは、肌身離さず持てと言いつけられていましたので」

『なるほど……。主、クララ殿の不調や実力が出し切れない原因が分かりましたよ』

「――!? 一体、なんですか!?」


 クララが身を乗り出す。


『この弓は、かなりの力を持った特殊な弓です。魔帝国時代に作られた業物のようですな。しかし、弦がいけない……。この弱い弦では、この弓はまともに射撃出来るわけがありません』

「そ、そんな……。確かに、普通の弓に比べてすぐに弦が切れるとは思っていましたが……」

『この弓に合う弦の素材が見つかれば良いのですが、この時代で果たして見つかるかどうか……』

「じゃあ、やっぱりこの弓をこのまま使い続けるのは……」

「とりあえず、しばらく学園の弓を借りて見たら良いんじゃないか? その間に、俺たちで素材の手掛かりを探してみるよ」

「そんな! ヴァンライン家のご子息様にそこまでしていただくわけには……!」


 首と手を同時に振るクララに苦笑する。


「やめてよ、それ。学園内の大事な友達だろ?」


 それに俺は本物の貴族じゃないし。

 しかし、クララは目に涙を溜めるとペコリと頭を下げた。


「ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」

「だからやめてって、もう」


 俺が笑うと、クララも涙をぽろぽろと流したまま笑顔を見せた。


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